たいやきをたべる「放哉! お土産!!」
尾崎放哉は本日分の浄化作業や本館の手伝いを終え、自室に引きこもっていたのだが激しいノックの音と放哉!
という声が聞こえ無視しようとしたが音は止まないだろうから、仕方がなく応対するために外へと続くを開けたら種田山頭火が笑顔で紙袋を出してきた。
「何これ」
「鯛焼き! すごいんだよ。こっちがつぶあんで、こっちがこしあんで、カスタードと紅芋とチョコレートもあるし、
この袋には入っていないけれど、クロワッサンたい焼きってのもあるんだよ!」
中を覗き込んでみたらまだ湯気を立てている魚型のお菓子が入っていた。
「こんなに沢山」
「珍しかったからさ。放哉にも食べさせたいし、おれも食べたかったんだ」
「飲み物は」
「ない!」
これだけあれば飲み物があればいいとなったが、山頭火ははっきりと持っていないと告げる。
部屋でまっていろ、と放哉は投げやり気味に言い、宿舎の共同スペースへと向かう。
共同スペースには簡易キッチンや食材ストックが置かれていた。
「……これにしよう」
電子レンジの使い方はきっちり叩き込まれている。最初に放哉が手に取ったのは缶に入ったお茶だったのだが、これを電子レンジにかけようとして止めた。事故る。
ほうじ茶のティーパックがあったので湯呑を二つ用意して、お盆と小皿も用意して、湯呑にティーパックを一つずつ入れてからポットからお湯を注ぐ。
お湯を確認してからまだあると想い入れずに行く。
お湯が少なかったら入れておけば勝手にポットが沸かしておいてくれる。便利だとなりながら放哉は部屋に戻る。
「お茶だ! 温かいお茶っていいよね」
「元気だな」
「どのたい焼きがどのたい焼きか分からないから!」
「適当に選んで食う」
待っていた山頭火が湯のみに喜んだ。時間を見計らい放哉はティーパックを抜いて小皿の上に置いた。
二つ掴んで一つを口に放り込んだ。
「どう?」
「紅色の餡だ」
「べにいもだね。サツマイモだよ。でさ。たい焼きの他にも、ノートも買ったんだ。俳句をメモするために。小さいの。ペンも」
「報告する必要はあるのか」
「したかったし」
山頭火が隣にいる。放哉はべにいものたい焼きを食べ終わった。べにいもの餡は程よく甘い。
放哉が引きこもりなのに対して山頭火はよく外に、帝国図書館の敷地外に出ていた。放哉もごくごくたまに外には出る。
「たい焼き、なかなかうまい」
「今度は外に一緒に食べに行こうね」
「……気が向いたら」
「待ってる!」
生前にはなかった付き合いが、今にはある。
それを言えばほぼすべてがそうだけれども。
放哉は二つ目のたい焼きを口に放り込む。
焼きたての生地にこしあんの味がした。