三人のサンタクロースのクリスマス【三人のサンタクロースのクリスマス】
十二月二十五日はクリスマスだ。
帝国図書館も図書館を閉めてからクリスマスパーティが行われる。ということはつまり、図書館を閉めるまでの時間はやるべきことが出来るわけで、
「メリークリスマス!!」
「クリスマス」
「サンタさんだ!」
帝国図書館がある町の隣町のある食堂にて直木三十五とハワード・フィリップス・ラヴクラフトはサンタクロースに扮して子供たちにプレゼントを配っていた。
プレゼントの中身はおもちゃや本である。
きっかけは松岡譲と帝国図書館分館の管理者である『くま』が外に買い出しに出かけたら、本屋からクリスマスプレゼントをもって急ごうとしてこけた女性を
助けたことから始まった。女性はこけたときに手首をついた際に手首を折ってしまい、松岡たちが病院に連れて行ったがその時に女性がお世話になった保育園に絵本を
寄付しようとしていたことを知り、代わりに二人が保育園に本を届けることになった。その際にこちらも絵本を寄付しようとなり絵本を選んだのだが、
届けに行く際に『くま』がミニスカサンタの服で行こうとしていた。トレンドじゃないのか……となっている彼女を文豪たちで止め、その時はロスジェネコンビが行った。
この手の試みは他にも行われていて、慈善活動をしておこうかとなり、乗り気になった文豪たちでやることとなった。
「ありがとうございます」
「構わん。『ウルタール』のコーヒーを飲みに来てくれるからな」
店主のおばちゃんにエドガー・アラン・ポーが礼を言われていた。ポーもサンタクロースの服装をしていた。
団体を図書館スタッフがピックアップしたらいくつか見つかったので寄付できそうなところはしていたのだが、直木たちが来たのは直木が晴れた夜にやっている
屋台カフェ『ウルタール』の常連のおばちゃんがここでもこんなことをやっているというのを教えてくれたのだ。
この食堂は月に何度か子ども食堂という子どもが一人でも行ける食堂をしていた。無料で、あるいは低価格で食事を提供していた。
子供向けプレゼントというので希望を聞きつつ本とプレゼントを提供することとなったのだ。
「ブラック、サンタ。止める。止められ、ました」
「さすがにそれはな」
サンタクロースの衣装は図書館が準備をしてくれた。ブラックサンタクロースはサンタクロースの一種で悪い子には石炭とジャガイモを送るというサンタクロースだ。
子供たちは十人以上はいた。片親だったり、両親が忙しかったりと事情は様々だ。
直木もラヴクラフトも通常というと何だがプレゼントを配るサンタクロースである。もちろん、ポーもだ。
食堂にはクリスマスのごはんも準備されている。ケーキもあった。ケーキについてお世話になっているケーキ屋さんがパティシエを紹介してくれたのだ。
「こんにちは」
「いらっしゃい。暖かいものを飲んでいけ。プレゼントもあるから」
受験生らしい少女が食堂に入ってきた。
今日は夕方まで子ども食堂のイベントだ。これが終わったら帝国図書館に戻ってクリスマスパーティである。
「お菓子、あります」
「はい……」
「本もある。何が出るかはお楽しみだが」
少女に直木やラヴクラフト、ポーが声をかけていく。
プレゼントは希望者に聞いていたが、もしもほかに誰かが来た時ようのプレゼントも用意していた。プレゼントは本だった。
直木からすると本は貸し出しで読んだりするイメージの方が強い。貸本屋だ。
本は彼等が選んだ本を袋詰めしてお楽しみという年末に帝国図書館でやっている本の福袋風に渡してみた。当たり外れが大きい可能性があるが、
これで本に出合えればいいとはなる。
「選書はしてみたからよ」
ラッピングされた包みを直木は少女に手渡した。少女が受け取る。
子ども食堂の対応はしばらく続いた。
用意したプレゼントも配り終わり、子ども食堂は無事に終わった。機会があればまたとおばちゃんと別れて直木たちは帝国図書館に戻る。
空から小雪が降ってきていた。
「館長補佐の天気予報が当たっていたな」
晴れた夜には『ウルタール』を夜にやるようにはしているが、今日は無理だ。パーティがあるので休みにするつもりだったし、
雪も降ると館長補佐も話していた。ポーが視線をあげる。
「貼りました。カイロ。沢山」
「冬至は越したから。後は日が伸びていくだけだよ」
一番夜が長い日は終わっている。段々と春が来るが、まだ冬だ。歩いていると街灯が照っている。吐く息は白い。
「暖かさは必要だ。凍えるだけでは冷え続けるからな」
「確かに」
『ウルタール』をしていても思うが、暖かいコーヒーを出したりしていると客の顔がほっとすることがあるし、辛いことがあるなら抱え込むなよと
客にコーヒーを私ながら言ったらぼろ泣きした客もいる。生きているのは大変なのだ。
子ども食堂ではコーヒーの他にホットミルクやココアも出してみたがどれも好評で、子供たちの顔も和んでいた。
コーヒーを飲んでみた中学生たちが大人の味だと言っていた。大人だな、と直木も笑った。
「本。読む。大事。映像。音」
「辛いこととかその時は忘れてほしいからな」
ラヴクラフトの背中に背負った風呂敷リュックの中の壺も同意をしているのか揺れていた。
直木がメインで書いているのは大衆文学であり、大衆文学の宿命は読み捨てられたり、忘れられたりしてしまうことではある。
が、本も、映像も、音も、それを楽しんでいる間は、味わっている間は辛いことや苦しいことを忘れてほしいとは想っている。
「プレゼントとしては十二分だろう。どうするかは貰ったもの次第だ」
「ですね。で、俺たちにはクリスマスパーティが待ってる」
「ゆめの。終わり。クリスマス。片付けます。ツリー。速攻。言いました。短冊、ぶら下げる。嫌」
「……短冊をぶら下げるクリスマス。帝国図書館ならばありではないだろうか」
「変に祭りを増やされたり変えられるのが嫌なんだろうな」
ラヴクラフトがクリスマスの終わりについて言い出した。欧州ではクリスマスが終わっても年末までクリスマスは続くようなものだが、
日本ではクリスマスが終わったら速攻で正月に切り替わる。正月の祝いを重要視しているのだ。
去年はクリスマスツリーを片付けるのが遅れたのでその間に岩野泡鳴が七夕飾りに使う短冊を引っ張り出し願いをツリーにぶら下げろとかやっていた。
夢野久作はサイコパスなところがあるが自分なりの帝国図書館の美学を持っていてずれると怒る。岩野は簀巻きにされていた。
帝国図書館は古今東西の文豪たちがいるので祭りや祝いがごっちゃになっているところがある。
ポーはそれでいいかもと言っていたが夢野は許さないのだろうとなる。
「ハワードとナオキにもプレゼントは用意している。楽しみに待っていろ」
「ポー様」
「ありがとうございます。俺も二人には準備してるんで」
帰ったら、パーティが待っている。
賑やかで騒々しい日。降誕日。
プレゼントを配り終えたサンタクロースたちは、宴へと向かう。
【Fin】