はるのいんそつ「すみません」
「構わないさ。ムシュー」
帝国図書館の裏門にてボードレールは裏門の守衛をねぎらう。彼は適当に敷地内を散歩していたのだが、これから敷地外に出ることとなった。
「カフェ。猫。黒猫」
「楽しみだよね」
ラヴクラフトと萩原朔太郎である。彼等は隣町のカフェに行こうとしていた。
帝国図書館には文豪たちは敷地外に出るときは出来る限り裏門を使い裏門の守衛に挨拶し行き先を言っておくというものがある。
まずラヴクラフトが黒猫をモチーフとしたカフェがあると知り、行きたがり、朔太郎も行こうとしていたのだが、
(不安すぎる。たどり着けそうにないと思う守衛の気持ちも分かる)
「兄貴。春の日差しは暖かだよ」
辿り着けるかが不明で遭難する恐れがあると守衛が危惧していた。そこに仏蘭西詩人の二人が通りかかったのだ。
「花粉が飛ぶに飛んでいるのだろう。ポー様や保護者の面子は」
「犀星さんは椿の展示会に椿を出しに行って、展示会の見学。白秋さんは吉井さんと酒屋の日本酒談議に行ったし、ポーさんはミステリー談義中」
「……分かってはいるのだが」
ランボーが改めて守衛から教えてもらったことを告げた。
裏門の守衛がチェックをしてくれていたのだが保護者となるメンバーがいない。ボードレールぐらいとなってしまった。二人は出かけしようとしているが、迷いそうだし、捜索に時間がかかる恐れがある。
「談義は白熱してるよ。推理小説でカレーの恨みを晴らそうとする作品は駄目だってポーさんも言っていたから」
「ポー様。元気」
「夢野さんが書いたリレー小説の終わりだよね……」
「なんだこれはとポー様が途中で書き直した小説だな」
なし崩しにできてしまったリレー小説のことを思い浮かべる。坂口安吾を発端として出来た小説は巡り巡って形を変えていった。
雑誌に載せようとして出来なかった小説の続きを他の文豪たちが書いたのだが夢野久作はカレーの恨みをぶちまけていた。人のお肉が入ったカレーを作中で出したのである。
朔太郎も知っているようだった。
「仕方がないので先導しよう。ランボー君も来るようだね」
「散歩に丁度いいし。ついていく」
「みんな、財布は持ったね。僕も今回は持っていこう。散歩だ」
今回はって何ですかという守衛の言葉を無視してボードレールはラヴクラフト、朔太郎、ランボーの弟分たちと共に散歩を始めることにした。