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    秋月蓮華

    @akirenge

    物書きの何かを置きたいなと想う

    当初はR-18の練習を置いてくつもりだったが
    置いていたこともあるが今はログ置き場である
    置いてない奴があったら単に忘れているだけ

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    秋月蓮華

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    びめちゃん視点のゲテさんがきてすぐのころのはなし
    びみょうやしめいさんもいる

    いつか開ける日まで【いつか開ける日まで】

    バタついている、と小川未明は感じた。
    原因は分かっている。有碍書やら、新しく転生してきた文豪のことだ。特に厄介なのは有碍書のことであり、これにより帝国図書館は体制を変えざるを得なかった。
    そんな中、未明にできることは指示が来るまで待つことや、いつも通りの日常を送ることであった。

    「おや。貴方は」

    「こんにちは。始めまして。ゲーテさん」

    今日の未明は午前中は暇だ。午後からは本館の本棚の整頓を頼まれていた。暇なので本を借りようと本館の廊下を歩いていたら、背の高い異人がいた。
    右目にモノクルを付けた男だ。未明は彼のことを知っている。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ、最近転生してきたばかりの文豪だ。

    「私のことを知っているのですね」

    「貴方のことを知らない文豪はいないよ。僕は小川未明。童話作家」

    ゲーテが転生してきたことや関連して起きた事件により図書館は慌ただしいことになっているのだが、表向きは出さないようにしていた。
    利用客に図書館を開けている。謎の敵である侵蝕者との闘いをしていることは秘密なのだ。
    新しくゲーテが転生してきたことは聞いているが、未明は始めてゲーテと会った。通達は聞いているのだ。まずはこっちから名乗れと。
    転生してきた文豪の中で最古参だったのはエドガー・アラン・ポーだったが、記録が更新された。ポーにしろゲーテにしろ、文豪たちはほぼその名を知っているが、
    向こうは自分たちのことは知らない。軽く自己紹介はしておけとなっている。これは文豪が多くなってきたので出来たルールだ。

    「未明が名前ですね」

    「そう。未明・小川……かな。そっちみたいな名乗りをすると」

    自己紹介をしておく。名前を一度で覚えるとは思っていないが、とにかく名乗っておいた。未明とゲーテが話していると別の誰かが近づいてきた。

    「小川君。と、そっちは」

    「ゲーテさんだよ。ゲーテさん、彼は山田美妙。美妙・山田かな。小説家だよ」

    「――始めまして」

    雪のように白い、と例えると童話の姫のようかもしれないが白いのでそう言っておく、性質としてははおしゃべりな方のコミュニケーション障害を持つものだけれども、
    未明からすると気をつければ会話をしやすいようだ。山田美妙、未明は美妙の紹介もしておいた。

    「よろしくお願いします。貴方は小説家なのですね」

    「端的にいうとそうなります。大衆文学や純文学……と言っても分かりづらいと思いますので。小説家で」

    文豪たちはかつての自分たちが、今の自分たちが書いている文学の傾向で使う武器も変わる。未明は童話を書いていたので武器は銃になるし、童話は子供のものという考えが
    あるのか転生した時の姿は子供のものだ。美妙は大衆文学傾向があるので武器は鞭である。

    「転生をしたとは言え、不慣れなことばかりですから、教えてもらえると嬉しいですし、助かりますよ」

    「こっちにも通達は回ってくるからね。安心して」

    体制を変えざるを得なかったとはいえ、念のための準備をしておいたお陰もあってか、文豪たちも動けてはいる。美妙が軽く右手を振った。

    「君に伝言を持ってきました。いけます? 有碍書の浄化。ゲーテさんを鍛えるのにロスジェネの二人と君とで『あらくれ』だそうです」

    「良いけど。外の人は」

    「国木田さんをつけるそうですよ。僕は午前中は本館の本棚の整頓です。午後はきつかったら誰かに交代してもいいと」

    短く伝えられた美妙の伝言を未明は受けた。この伝言を出したのは彼等を転生させた特務司書の少女だ。彼女も忙しいのだろうが、これからのためのことをしたり、
    現状を動かしていかなければならない。文豪を鍛えておくこと、戦闘を慣れさせておくことはその一環だし、未明も美妙も分かっていた。
    スコット・フィッツジェラルドとアーネスト・ヘミングウェイとゲーテ、と未明で徳田秋声著の『あらくれ』に潜書をして浄化作業をしてこいとのことだ。
    外の人というのは浄化作業を見守る文豪である。国木田独歩がついているというが彼は初期の文豪の中でも古参に入る。

    「出てから考えるよ」

    「紅葉もピリついてますからね」

    それだけで未明は察する。尾崎一門の主である尾崎紅葉が、というよりも正確には、

    「『ファウスト』にやってきた日本の二人、泉さんと徳田さんの師匠でしたか」

    「そうだよ。秋声さんは貴方に……」

    「緊急事態ですからね。今回は違います。司書さんの助手をしてますよ」

    ああ、と未明は納得する。
    泉鏡花と徳田秋声はゲーテがいた『ファウスト』に潜書していた。元々、『ファウスト』の本を結社の一員であるファウストが持ってきて文豪達がその中に潜書をして
    ゲーテと会ったり、侵蝕者の大本と会ったりしていたのだが、大本であるメフィストフェレスによって『ファウスト』の中身は破壊された。
    白樺組がどうにか潜書をしてみたと聞いたが、木っ端微塵にされてしまったと通達があった。
    新しく転生してきた文豪は徳田秋声が面倒を見るというルールがあるのだが、今回は例外となっていた。

    「そうなんだ」

    「ゲーテさんは文豪でアルケミストですからねぇ。研究をしてもらいつつも、文豪として鍛えてもらいながら無理はさせないと」

    「解ったよ」

    ――司書さん、多分近づいてほしくない。
    恒例として転生してきたばかりの文豪は特務司書の少女の助手を務めることとなっているが、今回はカットしたようだ。
    距離はとっている。

    「経験値をあげる薬品は使うので」

    (あの人、薬(ヤク)を数本キメとけば早く鍛えられるし、とか言うタイプだから)

    物騒すぎる発言だが、抑えているところはある。現在の帝国図書館は結社と共同で動くこととなっていた。当初からやりとりはしていたようだけれども、
    メフィストフェレスによってもたらされようとしている危機のために、もたらされてしまった危機のために共同で動く。
    美妙が目で”司書さん、向こうがそう好きではないですから”と伝えてきていた。図書館にはファウストもいるのだが彼女はファウストとは距離を取っていた。

    「美妙と未明。発音が似ていますね」

    「漢字にすると違いますけど」

    「僕の名前は貴方の言葉から貰ったところがあるから」

    「そうなのですか?」

    実際、美妙もそこまで会話が得意な方ではない。ゲーテが名前についていってきた。

    「僕の尊敬する人が、貴方が美は黄昏から来ると言っていたけれど、黄昏は果てがない気がするから、同じ薄明でも夜明けにしたらどうか。未明がいいって言って僕もその名を貰ったんだ」

    「アイツがそういうことを言ったんですね。春はあけぼの。春のやおぼろ、朧月夜に如くものぞなき」

    「逍遥さんのことを出すのはいいけれど、夜明けから夜になってるよ。……照りもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしくものぞなき」

    尊敬する人とは坪内逍遥のことで、未明の名は逍遥から貰ったものだ。逍遥はゲーテの言葉から名をとった。美妙はすらすらと言葉を並べていく。
    夜明けから浮かべた春はあけぼの。
    今は春だから持ってきて、そこから逍遥のことを引っ張り出してきた。美妙と逍遥は微妙な仲をしている。

    「なるほど。未明さんの名が夜明けからとられ、そこから春はあけぼのとつなげてさらに夜につなげてさらに詩を読むとは」

    「詩というか短歌だね。大江千里、新古今和歌集に入っているんだけれども。春はあけぼのも、清少納言が書いた枕草子ってのからとられてて」

    「春はあけぼのと言えば引用すれば図書館に来る学生達が分かったりしますからね」

    「素晴らしいですね!!」

    どうせなら、と解説を入れてしまう。新古今和歌集は西暦九百五年ほどにできた和歌集だ。坪内逍遙の別名はそこから収録されている和歌からとられていた。
    春はあけぼのも清少納言が書いた枕草子からとられているが、学校の勉強で出てきて聞けば何処かで聞いたことがあると学生が反応をしたりする。
    未明や美妙のやり取りをゲーテは面白そうに聞いていて賞賛していた。

    「美妙。伝言はきちんと伝えて」

    「長谷川君! 僕はしっかりとちゃんと伝えてましたよ」

    「お前が取り寄せていた辞書もついでに持ってきた。俺が頼んでいた露日事典もきたが」

    「この人は二葉亭四迷さん。長谷川は本名だけれども二葉亭四迷が名前。小説家」

    話していると二葉亭四迷が美妙に呼び掛けた。不機嫌そうだが毎度のことだ。未明はゲーテに四迷を一応紹介しておく。
    誰が紹介されていたかなんて分からないのでとにかく紹介をしておくのだ。四迷は美妙に辞書を渡した。真新しい辞書だ。

    「よろしくおねがいします」

    「何かありました?」

    美妙が聞いたのは四迷のぶっきらぼうさがいつもと違っていたと察したからだ。

    「司書が機嫌を抑えてファウストと話していたからな。向こうは師匠を戦場に出したくはないらしいが」

    「……あの人は?」

    「徳田さんが間に入っていた」

    「正直に言っていいです? 早く終わりませんかね? この状況。誰とでもそこそこに友好的にできるあの人が嫌がってるってよっぽどでしょう」

    辞書を抱えた美妙が四迷や未明にだけ聞こえるように呟いた。短いやり取りで理解はしたのだが、ぶつかりそうになったのだろう。
    空気が悪い中に居たくはないと美妙は言っているがそれは誰だってそうだ。

    「私が戦場に。有碍書の中に入るのは必要なことですよ。ファウストにも後で言っておきましょう。お気を使わせてしまっているようですね」

    「今はとにかく状況をそれなりに動かす必要があるとはいえ、逍遥さん達も気にしていた」

    (抑えるところは抑えて、ガス抜きはしているだろうけれども)

    状況が悪い。館長がいないのだ。政府と話し合いをしているし、ネコもいなくなってしまった。
    動かすことを優先はしているのだけれども歪がいつ爆発するか不明だ。文豪たちは日々の生活をしつつ戦闘準備はしておけといった状態だ。

    「まずは浄化へと行きましょう。『あらくれ』という本でしたが」

    「国木田さんが解説を入れてくれる。ファウストについてはそちらが言っておいてほしい」

    「わかりました。それから……辞書や書物はどのようにして手に入れれば。私の分が欲しいのですが」

    「必要ならばスタッフにいってくれ。図書館で借りることは出来るが自分の分が欲しければ買えばいい」

    四迷が会話を引き継いでくれた。

    「国語辞典だとこんな感じですよ」

    「転生して日本語の読み書きや意味は理解は出来るようにはなっていますが、齟齬があるようなので」

    美妙が渡された国語辞典をゲーテに渡した。ゲーテが読んでいる。ゲーテはとても好奇心旺盛というか付き合いやすい方だと未明は感じる。
    侵蝕者との闘いは暗闇に突入している状態だけれども、開けることを未明は願う。そのためにはやるべきことをしつつ、

    (やれるところはやっていかないと)

    「心配するな。皆いる」

    「先ほどの言葉は和歌というのですね」

    「そうですよ。和歌はずっと伝わってきていますが、貴方の詩も訳されていますし」

    決意をする未明を四迷が励まし、ゲーテが辞書をめくりながら和歌について聞いていて美妙が話している。
    手探り状態でも、彼等が着実にあけぼのへと進んでいく。


    【Fin】
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