遥か向こうに 医療用シェルの中だって、施設の中だって、清潔で綺麗だった。暑くもなく寒くもなく、常に適温に保たれていた。体が弱くすぐに熱を出し、体温調整があまり得意でない自分のために、コンサルも猫も気遣ってくれていた。
あまりにずっと長く居たので、自分は外に出ることなくずっとここに居るんだと思ったこともあった。映像で見る他の生き物や風景は絵本の中の物語のようで、ここ以外の外に対する現実感はなかった。
医療施設に入院してきた少年と友人になって、外の話を聞き、外の夢を見た。外が現実にあるものだということを少しずつ実感した。
それからというもの、治療の最終段階を終え、リハビリも済ませ、施設から退院出来る日をずっとずっと指折り数えた。
初めて医療施設の外に出た時、目の前に広がっていたのは青い空だった。
映像で見た青と、同じだけれど違うもの。施設内の白く丸く広がるような光とは違う、降り注ぐような陽の光。
あたたかい。
眩しさによろめきかけた自分を支えるように、友人が掴んでくれた手を握り返す。
ああ、あなたがいる外って、こんな世界だったんだね。
私にとっての外の向こうに、彼の外があるのを知ったのは、それからもう少し後のことだった。