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    鴨居0

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    鴨居0

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    凄いアレな真弓イアとヘラ(→)イアの話。

    なあ、マスター。あれってヘラクレスだよな?

     不思議そうな顔で尋ねてきた彼に、私は笑顔を極端に捻じ曲げたような顔で「そうだよ」と言ってあげることしか出来なかった。


    「  が実装されました」


     現在、ノウム・カルデアは危機に瀕していた。
     戦いを抑えるべく参戦していたアタランテ、ディオスクロイ、カイニスは早々に撃沈。アスクレピオスは船長を抱えてメディア・リリィと後方へ。メディアはマスター達の保護を担っており、アポロンが彼らを全面的にサポートをする形でケイローンと共にヘラクレス及び――アルケイデスを抑え込んでいた。
     道中散っていった英霊は数しれず、まず真っ先にカイニスとつるんでいたランサーが死んだ。ちゃっかり逃げ延びたオルタとキャスターのクーフーリンはイアソンをアルケイデスに取られないようにアスクレピオスの援護をしている。

     ことは数時間前、ヘラクレスで登録されている霊基が突如歪に膨らんで弾けたことが発端となる。
     ヘラクレスを召喚した――と、ログにはあるが実際に見てみればそれは私達が知るヘラクレスとは似ても似つかない(イアソン曰くしかめっ面が強化されたヘラクレス)だった。
     名前を呼ぶ前に殺されかけたがマシュにより一旦は落ち着いてくれた謎のヘラクレス、もといアルケイデスは召喚式のエラーという事で一時的にノウム・カルデアで保護されることになった。
     ――当然と言えば当然なのだが、アルゴノーツが召喚されればいち早く勘づく男、イアソンがすぐさまヘラクレスに会いに来てしまった。
     ヘラクレスと呼ばれることを嫌う男の前に現れたヘラクレス大好き英霊No.1ことイアソンにその場にいた全員が息を呑む。
     ヘラクレス! と叫んで飛び込んできたイアソンははたとアルケイデスを見上げて惚けたようにぱちぱたと瞬きをすると、嬉しそうに花のかんばせを綻ばせた。
     イアソンの顔を見たアルケイデスは僅かにたじろぎ、声を掛けてこようとしたイアソンの口を分厚い手のひらで塞ぐ。
     塞がれたイアソンは驚いた顔をして講義するようにしかめっ面をするとぺちぺちとアルケイデスの手の甲を叩いた。

    「私は、お前の知っている私ではない」

     どこか寂しげな温度が場に宿った。
     大きく目を見開いたイアソンは手のひらを離したアルケイデスが施設の案内役を買って出ていたマシュに促すようにして室内から出ていこうとする。
     そんなアルケイデスの背中を眺めていたイアソンは、彼の背に向かってひとつだけ、言葉を投げた。

    「でも、お前もアルゴー船に乗ってただろ?」





     と、まあそんな事があったわけだ。
     今思えばイアソンのあの返答でアルケイデスはイアソンに絆10くらいの感情を抱いていたのかもしれない。いや知らんそんなこと。
     手の甲がビリビリして熱い、ちょっとお願い事を聞いてもらえるだけの魔力リソースの塊は先程二画使用してしまったので残りは一画だ。
     この災害的な争いが始まってからはや1時間、ギリシャ1番の英霊とギリシャ1番の英霊の争いは終わりそうにない。
     この騒動の発端であり、そして恐らく終わらせることが出来る唯一無二の存在はというと、

    「すっげぇえええ!!!! なあマスター! 見ろよ! 心ワクワクしてこねぇ?!」

    「くっそ小学生! 虎口に閃けよ!」

     どうしようも無いことになっていた。

     ヘラクレスとアルケイデスを鉢合わせればどうなるかなんぞ秒で理解出来た私は、アルケイデスには隔離部屋に入っていて貰うことにしたのだ、神に近しい英霊が多いことを感じ取っていたアルケイデスが馴れ合うことを良しとしなかった為に一旦はそれでなんとかなる筈だった。一応、イアソンを含めたアルゴノーツ達にもこの件を説明しており彼らから各々様々なリアクションを貰ったが概ね納得はしてもらった。

     けれども問題は起きてしまった。

     夕食を食べようと食堂に向かった私とマシュ、それからアルゴノーツ数名はイアソンを壁際の端っこの席に追いやって隣に座っているアルケイデスを目撃してしまった。
     いやどうして?
     普段はヘラクレスか割と仲の良いアルジュナとオリオン、または海賊達や牛若達なんかとつるんで食事を囲んでいるイアソンからすればあまり他人と会話しない隅の隅っこの席は窮屈だろう。
     アルケイデスの威嚇にビビり散らした職員や一部英霊達は近寄ることも出来ずにその辺だけ人が居ない。
     あんまりな様子に心配になって軽く覗き込んだが、イアソンはアルゴノーツ達の神妙な表情に不思議そうな顔をして「どうした?」と尋ねた。
     いや、どうした? はこちらの台詞なのだが。
     ただイアソンが食べているところを見ているだけというもはやかなり不気味なアルケイデスにアルゴノーツの面々が即座にその周辺を確保した。
     一応、私とマシュもいざとなれば動けるように意識する。なんでただの夕食でここまで気を張らなければいけないのだろうか、考えても仕方がない。なぜなら今そこに核爆弾とスイッチがあるのだから。

     アルケイデスの存在に考慮して、一時期に霊体となっているヘラクレスは何を思っているのだろうかなどと思っていると、不意にイアソンがアルケイデスの影に隠れた。
     私とマシュにはよく見えなかったが対面上に座っていたアタランテとディオスクロイ達にはスプーンを落とすほどの衝撃だったらしい。
     暫くの間があり(私からは見えなかったが恐らく呆然としていたのであろう)イアソンが言った。

    「……そんなに腹が減ってるなら、私からじゃなくて新しく料理を作ってもらった方がいいんじゃないか?」

    「いや……――お前の魔力の方が美味い」

     次の瞬間、実体を伴ったヘラクレスによる暴力とアルケイデスによる反撃が始まっていた。

     間に挟まれたイアソンは戸惑いながら叫んでアルケイデスの後ろに隠れる。その姿を見たアルケイデスが――顔は布に隠れていて見えなかったけれど――ドヤ顔をした、ように感じた。
     ヘラクレスの本気殴りが始まった。
     どうにかして止めようにもどうにも止まらない。
     ケイローンが声をかけた一瞬だけ二人とも動作を止めたが、その隙にアスクレピオスがアキレウスと共にイアソンを奪取したのを見るや否や今度は周囲を気にしない大喧嘩を始めた。
     同じ人間でも性格が違えば喧嘩するのは邪ンヌとそのサンタリリィでよく理解していたが甘かった。
     あの二人の口喧嘩なんぞ子猫のじゃれ合いだ、これはシャレにならない。
     絶対にイアソンに当てないように攻撃を放ち続けているからか、どうにもイアソン的に虎口に入りにくいらしく、キラキラした目で特撮映画の応援上映で飛び跳ねる子供のように騒いでいる。
     その愛くるしさがあまりにも憎たらしいがそもそもイアソンは(一応)被害者なのだ。

    「……なあ、こいつ締め上げたら虎口になるんじゃねぇのか?」

    「多分、アルケイデスに標的にされるだけだと思うぜ」

     いつの間にか近づいてきていたらしい熊のオリオンが言う。

    「ヘラクレスだけならな、別にいいかもしんねぇけど。あっちのはぶっとびきってんだろ。無理だよ、イアソンにどうにかしてもらうかただの人間のサーヴァントで抑えるか」

    「ど、ドレイクとか……?」

    「馬鹿かマスター。イアソンという男がこの場に居るのに他の――ましてや海賊の船長なんて呼んでみろ、どうなるかなんぞ想像に容易いだろう?」

     確かに、と私が肩を下ろした。
     すっかりボロボロになった食堂の中で、惨劇と化したキッチンを呆然と眺めているエミヤとキャット、それからネモ・ベーカリーが痛々しい。

    「ね、ねぇイアソン。そろそろとめないとカルデアベース無くなっちゃうよ?」

    「ん、それは確かに、困るな。でもなマスター、あれどうやって止めるんだ? そもそもなんで喧嘩してるんだあいつら?」

     終わった。天を仰ぐ私にマシュが「先輩! お気を確かに!」と声をかけてくれる。
     お前が原因だよ。と言いたいがイアソン的に思い当たる節が無いらしく首を傾げてはうんうん唸っている。
     そうこうしているうちに壁が破砕する音がしてカルデアスタッフが悲鳴を上げた。

    「おわーーーーっ! こら! それ以上は本当に不味いぞヘラクレス! アルケイデス!」

    「遅いよイアソン!!!!」

    「いやだって、ライオンだって急にじゃれ合ったりするだろ?」

    「イアソンからはあれがじゃれ合いに見えたの?!?!」

    「やめておけマスター、いちいち突っ込むな。こいつはヘラクレスが絡むと滅茶苦茶ポンコツになる」

     それは知ってる。
     頭を抱えた私をメディア・リリィが支えてくれる。

    「こ、こうなったら私がドカンといっぱつ……」

    「えっ?! 待て待て! 私がなんとかする! なんとかしてやるから少し待て! えーーーーっとぉ……」

     イアソンが数度顔をあげて下ろして、それから困ったように言った。

    「――――」

     それから大きく息を吸って、

    「復唱!!!!!! 全船員は今すぐ戦闘を取りやめて船長の前に集合すること!!!!!!」

     爆音で叫んだ。
     船乗りってすげぇ大声出るよね、と前にドレイクに言ったことがある。彼女は笑顔で「嵐の時でも号令かけなきゃいけないからねぇ」と言っていた。
     イアソンの言葉に合わせて、傍にいたアスクレピオスが復唱すると観念したように二人が止まった。
     暫く睨み合いが続いたが、イアソンに促されたケイローンが内容を復唱したことで一旦諦めが着いたのか巨体の二人はすごすごとイアソンの前に並び始める。

    「えっと……私は、別に魔力供給くらい吝かではないのだが、ヘラクレスは嫌か? 嫌? アルケイデス限定で? えっなんで?」

    「イアソン、我が友よ、この男の言うことに耳を傾ける必要は無い」

    「なんでそんな寂しいこと言うんだよ、私からすればどっちも変わらず私の大英雄なのに」

     ぶすりと拗ねたように言うイアソンに剣呑な雰囲気が僅かに身じろぐ。
     いや船長に甘々かこいつら?

    「イアソン、私は、」

    「いいよ」

     イアソンが言葉を重ねる。

    「どれだけ狂おうと、どれだけ堕ちようと、あの船の上に居たならば皆等しく私の所有物だ。私の全員で、何よりも大切な記憶だ。お前らがどんな理由で喧嘩しようと、お前らがアルゴー船に乗り合わせた事実は変わらん。それだけは忘れるな」

     しん、と静まり返る。
     ヘラクレスが困ったように俯くとイアソンが楽しそうに笑った。

    「でも――本当にさっきのカッコよかったぞ!! 食堂を破壊してしまったことに関してはケイローン教授にお咎めをしてもらえ! いやあ〜ああいうの見るとやっぱ全クラスのヘラクレスが欲しくなるな……」

    「やめろ、そんなことになったら私が全員殺す」

    「なんで?!」

     イアソンを視界に入れることで互いを視界に入れないようにしてきゃいきゃいと騒ぐ三人に一同はようやく胸を撫で下ろした。

    「もう二度と騒ぎが起きないようにしますね」

     マスターの肩にぽんと手を置いて告げるのはケイローンだ。この後ヘラクレスとアルケイデスの身に何が起こるのか想像して私とマシュはぶるりと震え上がった。
     まあ、とりあえずノウム・カルデアに平和が訪れたわけなのでこの話はこれで終わり、これで解散!






    藤丸立香「いや、冷静に考えてアルケイデスがイアソンにキスしたらマジギレするヘラクレスって何?」

    オリオン「やめろやめとけマジで薮をつつくな」
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