ブレイズウッドの運送会社『猪突猛進』
近々結婚を控えた黒一点　ライトは
同僚たちに相談ごとがあった

「人妻って料理出来た方がいいんだよな」

「なんでぇ藪から棒に」

「いやうちには料理できる奴いないだろ
誰かに教わるにしてもどうしたもんかと」

「プロキシに聞いてみりゃいいんでない？」

「それが一番早いのはわかるんだが…」

「恥ずかしいから頼りたくない、と
チートピアの厨房でバイトでもするか？」

「皿洗いだけ上達しそうだな
あいつファーストフードとか食いそうにないし」

「なんかお上品なの食ってそう　ライトの婿殿」

「誰が婿殿だ」

「彼ピの方がよかった〜？」

「向こうは苦いのが好きで　無理に自分と同じ物
食べなくていいとは言ってるんだが」

「ライトの味覚おこちゃまだもんね
甘いのとか温いのとか」

「お子様で悪かったな
…やっぱりあいつに頼るしかないか」





「ヴィクトリア家政なら伝手がある
頼んでみようか？」

結局プロキシに泣きついた結果
ヴィクトリア家政の手伝いをさせてもらう事になった
狼の兄さんや鮫の嬢ちゃんなら何度か顔を合わせているし
なんとかなるだろう

「こちら本日から業務を手伝っていただく
ライトさんです」

「――よろしくお願いします」
（メイド服なのはもう気にしない事にした）

「あれ、飴のおにーさんだ」

「よろしくな、先輩」

「姿勢がよくないですね　姿勢の乱れは心の乱れ
常に背筋を伸ばして」

「はい　すみません！！」
（この人に逆らってはいけないという圧力を感じる）

「お話は聞きましたわ　なんでも花嫁修行の一環
だとか　愛する方の為に努力する
素晴らしい心がけです　喜んで協力いたしますわ」

「よろしくお願いします」



……掃除スキルだけは異様に上がった気がする
おかしい　俺は料理を習いに来たはずでは？
狼社長に呼ばれたのでオフィスへ行ってみると
執事ボンプが紅茶で迎えてくれた

「来ていただいてありがとうございます
腕の良い新人が来たと評判ですよ」

「それはどーも……」

「ここでの注意事項なのですが
リナが作った料理は絶対に口にしないで下さい」

「人形の姐さんのことか？」

「そうです　最　悪　死　に　ま　す
料理を教えると言われても断るか
聞き流して下さい」

「じゃあ誰から教わったらいいんだ」

「わたくしとバトラーにお任せください」

執事ボンプは優雅に３段重ねのパンケーキを
俺に差し出すとお辞儀をした

「……食っていいのか」

「どうぞお召し上がりください
休憩にいたしましょう」

ふわふわの生地に溶けたバターとたっぷりの
メープルシロップ　糖分が体に染み渡る

「うまいな　これ」

「お褒めに預かり光栄です」

「……俺にも作れるかな　こういうの」

自分が食べるところを見ているばかりの
婚約者の顔が浮かぶ　思えばコーヒー以外を
注文しているのを見たことがあっただろうか

「喰わせたい奴がいるんだ」