とある呪術師の息抜き●はじめに
この話は2019年に私が生まれて初めて小説もどきを書いたもののリメイクになります。
その小説もどきはキャプションにリンク貼ってます。
当時もひでえと思ってたけど今見てもひどすぎる。名前すら決めてないしそもそも地の文の存在を知らない、途中で漫画に逃げてるという滑稽さ。笑ってくれ!!
リメイクしてくれたのはChatGPT。つまりAIです。
こちらでも大分手を加えましたがそれでもChatGPTのおかげです。
キャラ設定は別記事にて。
★恵刃(えいじん)の国
元Aの国。
慈悲を掲げつつも武力を忘れない、山と川に囲まれており自然に恵まれた国。
金陽山という金が取れる山があるが、尾威との国境近くにあるため、争いの火種の一部となっている。
★尾威(びい)の国
元Bの国。
名前の印象は 尾(果て)+ 威(武威)。国の栄光も今や果てに向かっている。
広大な平原、荒地、山脈がある地図上だけで見たら巨大な国。
広い領地だが戦で死者が出たり他の国へ逃げた者などがいて、人口は少ない。
強い家臣はいても足軽がいないので、次の戦で滅びかねないという印象を受ける。
数見の居城は内陸地にぽつんと建っている。元々は山脈の方にあったが戦でボロボロになったので建て直している。
尾威の国の南の方には荒栖原(あれすはら)と呼ばれる大きな高台がある。
ここはかつて天災が起きた際に民たちが避難して救われたという言い伝えがあったが、
戦のときにここへ逃げた民が皆殺しにあったため、今となっては荒れ果てており近寄る者はいない。
忘れられた地とさえ言われている。
第一章 霧の中の訪問者
霧が立ち込める朝、恵刃の城門に一人の旅人が現れた。
黒布を垂らした背中は、遠目には長い黒髪のようにも見えた。風にそよぐその姿を追えば、手には奇妙な杖。
杖の先には三本の熊の爪がまるで生き物のように青い玉を掴んでいる。誰が見てもただの旅人には思えぬ異様さが、そこにあった。
男の名は橿本栄四郎。彼は北へと流浪し、いま恵刃の国を経由して蒼水へ帰郷する途上にあった。
案内されたのは謁見の間。質素だが清潔な室内に、恵刃の国の国主・今仲慎之助とその正室・志鶴姫が並んで座している。
今仲は細身の体に小さく首を傾げ、慎ましやかな笑みを浮かべており、志鶴姫は対照的に凛とした面差しで、赤い髪がキラキラと陽を受けて輝いていた。
「このような国にようこそ。貴殿が噂の呪術師か……」
「今はただの旅の者です。呪医でもあるので困っておられるようでしたら、手を貸しましょう。わはははは」
橿本は笑った。その声からは軽薄とも快活とも取れる印象が滲んでいたが、二人は気を悪くした様子もなく、むしろ打ち解けた空気が流れた。
「自分で言うのもなんだが、恵刃は良い国だぞ。しかし民の顔に笑みがない。尾威との争いが長引いてな……だが、そろそろ終わりが来るかもしれぬ。尾威の国主、数見荒正が病を患ったと聞いた」
今仲の口調は静かであったが、その目にはかすかな光が宿っている。
「えぇ。もうすぐこの国にも平和が訪れるのです」
志鶴姫が柔らかく微笑みかける。
橿本は二人の姿を見つめるでもなく、視線をそっと逸らす。
向けられた先は、志鶴姫の左手。薬指に嵌められた指輪が、燦然と金色の輝きを放っていた。
これは今仲が、志鶴姫との婚礼の折に贈ったものだと照れながら語った。
夫婦の絆を象徴する指輪は彼女が最も大切にしている品でもある。
その金は恵刃の霊峰・金陽山より採れたものだという。
かつて山肌から掘り出された黄金は、仏具や供物に用いられ、志鶴姫の指輪もまた、民の祝福と信仰の証として鍛えられた逸品であった。
金陽山──美しき金の源は、国の栄えを支える一方、争いの種ともなり得た。
その輝きには祈りと血が共に宿っている。
橿本は、それを見つめていた。美しく、そして温かく。
言葉はなかった。ただ一礼し、「よき旅の途中」とだけ言い残して、橿本はその日、恵刃を去った。
第二章 病める国の影
尾威の国は広大であった。だが、その大地を覆っていたのはかつての栄光の残滓と、静まり返る荒野だけ。肥えた土地があってもそれを耕す民は少なく、風に揺れる稲穂の代わりに沈黙が田畑を覆っている。
恵刃を発った橿本がこの地に足を踏み入れたのは、さほど日を置かずのことだった。
尾威の国主──数見荒正が病に伏していると知った橿本はまず「呪医」として自らを売り込んだ。
当初は胡乱な目で迎えられたが、倒れていた兵の熱を一晩で下げてみせたことで城内の空気が変わった。
やがて噂は耳に耳を渡り、数日後には国主の寝所へと呼ばれることとなる。
枕元で静かに脈を診ながら、橿本は語るでもなく笑うでもなく、ただ冷えた手をそっと当てるのみ。
それだけで、荒正の目には何かを見透かされているように思えたという。
しばしの沈黙ののち………荒正はふと口を開いた。
「……この国は、広すぎたのかもしれん。民は減り、田も荒れ、兵はいるが動かせない」
その言葉は誰に向けたものでもなく、嘆きに近かった。
橿本はしばらく黙っていたが、やがてぽつりと口を開く。
「広すぎる器には毒を垂らして満たすのがよろしい」
「……毒?」
「毒とは、つまり知恵のことです。敵の血を流さずに済む道があれば、民も兵も救えましょう」
その言葉に荒正は目を細め、半ば呆れたように笑った。
「なるほどな……それで? その毒とは?」
そうしてふたりの“対面”が始まった。
荒正の病状は表向きには快方に向かっているとされていたが、その実、焦りと猜疑に満ちていた。
恵刃との戦に勝てる道はもう残されていないのではないか――そんな疑念が、夜ごと枕を重くしていたのである。
だからこそ、橿本にすがった。
彼が呪医であることよりも、“何かを知っていそうな男”であることのほうが重要だった。
「恵刃の国に勝ちたい。どうすれば勝てるだろうか? 呪術師であれば色々知識もあるだろう。知恵を貸してほしい! どんな手でもいい!!」
荒正は痩せ細った体を前のめりにしながら、まるで渇きを訴えるような眼差しを橿本に向けてくる。その目には恐れと焦燥、そしてかすかな狂気が宿っていた。
「……わかった。自分で良ければ力になろう! わはははは」
橿本は豪快に笑ったが、その笑みの奥に感情と呼べるものは何ひとつ浮かんでいない。
そして、その策は淡々と提示される。
「恵刃の国主とは自分も直接話したから人となりはわかる。あの者の隙は奥方に他ならない。彼女を攫ってしまえばいい。連れてきたあとは何をしても構わん。むしろした方がいいな!」
荒正は思わず口を開けたまま動けなかった。
武人として培ってきた道義が、その言葉を咀嚼することを拒んでいる。
「貴殿の趣味でないのであれば、家臣たちにくれてやればいい。ただし、調子に乗ってそのまま殺してはならんぞ? 数日は生きてもらわんとな。あ~、怪我はさせても構わん。自分があとで診てやろう」
橿本の口調は冗談めいていたが、そこに笑い話として済ませられる空気は一切なかった。
「奥方がいなくなったことが気づかれたあとにまず彼女の足を恵刃へ誰にも知られないように送る。その次に腕、胴体、最後に髪を。身体は見てわからずとも、あの赤髪を見れば確信が持てるだろうよ。
奥方の髪はこの辺では見られない、とても印象的な色をしていたしな」
荒正の手が無意識に膝の上で震えた。
橿本はなおも笑いながら続けていく。
「そして文を出す。文章は…次の満月が上がる日に待つとだけ書いておけばいい。あとは地図を描くだけだ。両国から北へ向かったところにある金陽山に印をつけておく。相手が短気を起こしてこちらへ攻めて来ない限り、そこが最後の合戦場となる。
ある意味宝の地図だな! もう首しか残っておらんがな! わはははは!!」
「しかしそのようなことをすれば怒りに狂うだろう!!」
荒正の声は怒気を孕んでいたが、その怒声も橿本の前では波紋のように掠れて消えた。
「それを狙っている。怒りで我を忘れた者たちなど、わかりやすいにも程があるというもの。総大将の感情というものは兵へ伝わりやすい…罠へすぐかかるのが目に見えている」
橿本は手をひらひらと振ってみせる。
「だが、あの気弱そうな国主のことだ。怒る気力すら失い悲しみに打ちひしがれている可能性もある。どちらにせよ簡単に討ち取れるだろう。貴殿の運が良ければこちらが何もせずとも自ら死を選ぶかもしれん! その場合は……家臣たちが弔い合戦に来るか?! それも面白いな!」
「……そうか、わかった。すぐにでもあの女を捕らえる手立てを考えよう。貴様は最後まで居てくれるのか?」
荒正の声は絞り出すように低くなっていた。
「それは出来んな。自分は故郷へ戻らねばならんのだ。だが宝の地図を送るあたりまでは居よう。それと、誰にも知られずに宝を置いていくのも自分が引き受けよう。これは生者には荷が重い役目なのでな」
「そのようなことが出来るのか、呪術師というのは…助かる。御礼は……」
「自分は戦いをさっさと終わらせたいだけだ。他にはなにもいらんよ」
橿本の言葉にはまるで大義のような軽さがあった。
それを受け止めきれぬまま、数見荒正は黙していた。
──そしてその夜。
恵刃の城にひっそりと侵入した影が志鶴姫の姿をさらって消えた。
騒ぎは翌朝まで起こらず、扉は固く閉ざされ、見張りも倒れていたという。
奥方の部屋には赤い髪の一本と、焼けた香の匂いだけが残されていた。
城中は混乱に陥ったが、手がかりは何一つなく……ただ“神隠しのようだった”と囁かれるばかりであった。
第三章 宝とされしもの
尾威の城の地下。
冷たく湿った牢獄の一角に、志鶴姫の姿があった。
その瞳は怯えに濁り、かすかに震えている。だが気高さを失っていなかった。
紅葉色の髪は乱れ、着衣も乱れていたが、姫としての品格はなおその身に宿っている。
「誰!? 」
鉄格子の向こうに現れた人影に、志鶴姫は身を強張らせて叫ぶ。
「貴方は…奥方様ではないか」
聞き慣れた声だった。志鶴姫の目が見開かれる。
「!? あの時の呪術師殿? どうしてここに」
橿本は穏やかな笑みを浮かべたまま、格子越しに近づいて答えた。
「恵刃の国を出た後に立ち寄ったのだ。ここの国主が病を患っていると聞いて気になってな。そうしたら、怪我人がいるからついでに診てくれと」
彼が言い終えるよりも早く、志鶴姫は橿本のもとへ駆け寄り、格子を挟んで肩にしがみついた。
「助けて! 助けてちょうだい!! あの連中は私を人質にとって我が国を攻めるつもりなのよ!」
その声は切実そのもので、長らく押し殺していた恐怖が一気にあふれ出していた。
橿本は人差し指を唇に当て、軽く首を振る。
「声が大きい」
その仕草に志鶴姫ははっとして息を呑む。橿本の声は穏やかだったが、どこか現実感を欠いた静けさを帯びていた。
「……道を探し出せるか、探ってみよう。つらいとは思うがそれまで待っていてほしい」
その一言に張り詰めていたものが緩み、姫の肩から力が抜けた。
志鶴姫はそのまま橿本の肩に身を預け、嗚咽を漏らす。
耐え続けていた心の鎧が音もなく崩れていった。
その肩に添えられた左手。
薬指には、かつて恵刃の民が祝福の意を込めて贈った金の指輪が、なおも美しく輝きを放っていた。
橿本は志鶴姫の手にそっと触れる。慰めるように、優しく。
だが、その眼差しはどこか遠くを見ている。冷たい静けさの底に感情の波は浮かばない。
志鶴姫は希望を託すように、橿本にすがったのだった。
その夜、牢の外を掃除していた子どもたちが小声でこう言ったという。
「……腕だけの、おばけが浮いてた」
「呪術師様の背中に……骨の手みたいなのが、白くて、細くて……!ふわふわ浮いてたんだっ!」
しかし大人たちは一様に首を振った。
「疲れてるんだろう」「夢でも見たんだな」と、誰も本気にはしなかった。
やがて子どもたち自身も、そのときのことを忘れてしまったという。
──その後、志鶴姫は牢から出された。
だがそれは救いではなく、さらなる地獄の幕開けに過ぎなかった。
石の壁に囲まれた薄暗い一室へと連れ込まれ、戸が重く閉ざされる。
「助けて!! 呪術師殿! 助けてくれるって言ったでしょう!? 」
悲鳴のような叫びが壁に反響しながら響き渡る。
橿本は扉の前に立ち、静かに首を傾げた。
「……そんなことは言っていないぞ?」
その声は優しくさえあった。だがその言葉が届いた瞬間、姫の顔から血の気が引いていく。
──そう、橿本は「道を探し出す」と言っただけで、助けるとは一度も口にしていなかったのだ。
「これだけの苦を味わったからには来世では幸せになれるだろう。それなりに、な」
この後に待ち受ける運命を、姫はまだ知らない。
閉ざされたその部屋で、彼女の肉体は“宝”へと加工されていくのだ。
足、腕、胴、そして髪──そのすべてが切り分けられ、順に恵刃へ送りつけられる。
それは橿本が、今仲慎之助の心を叩き潰すために用意した“圧”そのものだった。
姫の絶叫が、閉ざされた空間の奥深くに響いた。
橿本はその背を向けたまま、振り返ることなくその場を離れていく。
こうして志鶴姫は、「宝」として扱われる存在となった。
そして、やがてその一部が恵刃の国へと送り返されることになる。
◇
最初に届いたのは足だった。
紅葉色の布で丁寧に包まれ、まるで供物のような体裁をしている。
包みを開いたとき、部屋にいた者たちは皆、息を呑み、目を見開いた。
誰のものかなど誰ひとり口にできなかった。
けれど、今仲だけは黙って頷く。
あの爪の形、肌の白さ、そして佇まいまでもが──志鶴だった。
その後、二の腕、胴体、髪……
月が満ちるたびに、“宝”は一つずつ増えていく。
今仲は誰の前でも涙を見せなかった。
ただ静かに箱を抱き、無言のまま、それを奥の部屋へと運ばせた。
第四章 亡国の炎
尾威の国に不穏な噂が流れはじめた。
次の満月の夜……この国は大火に見舞われ、終わりを迎えるという。誰が言い出したのかは定かでない。だが、その噂はくすぶる煙のようにじわじわと、しかし確実に国中へ広がっていった。
「その噂は現実になるだろうな」
そう口にしたのは、他でもない橿本であった。
彼は呪医として、城内ばかりか尾威の民の間にもその名を広めていた。
薬を与え、病を癒し、優しい言葉をかけながら人々に寄り添う──その姿は、いつしか“信頼”と呼ばれるものになっていた。
「長き戦で怨嗟が積もりに積もっている。満月は魔を呼びやすい。抑えが効かぬところまで来てしまったようだ……」
橿本は静かに語る。民たちは信じきれぬという顔で、それでもどこか怯えている。
「俺達はこの国を救いたい。ここから出て行くことはできない! どうすれば良い!? 教えてくれ呪医殿!」
嘆きと祈りの混じった声が民の口から溢れる。逃げ出すこともできず、焦りを深めていく人々。
「そうだな…少し遠いが、この国から南へ行ったところに大きな高台があるだろう。そこで雨乞いをしよう。
だがこの国を包むほどの炎となれば、自分一人では止めることが出来ない。皆の協力が必要だ」
「荒栖原へ行くのか…?」
「……あそこは忘れられた地だ。わしは行きたくない!」
「みんなで行かないといけないの? 弱っている者も連れて…?」
荒栖原──かつて尾威で天災が起きたとき、多くの民を救った避難地。
高台に広がるその地は、命を抱え込み、悲しみと祈りを受け止めた場所だった。
だがその後の戦乱において、敵兵に追われた民が再びこの地に逃れたとき、待っていたのは救いではなく惨たらしい皆殺し。その記憶はあまりに凄惨で、語り継がれることすら避けられた。人々の記憶から、荒栖原という名が静かに薄れていったのはある意味で当然だった。
「皆でやらねばならん。時間はかかるだろうが、愛する国のためだ。皆で助け合いながら荒栖原を目指そうではないか! わははは」
その言葉に、沈みかけていた民の心にかすかな光が差し込んだ。
次の日。
尾威の民たちは、年老いた者を背負い、病める者を台車に乗せ、互いに手を取り合いながら歩き始めた。
向かう先は、長く人の記憶から忘れられていた地──荒栖原。その道のりは険しく、苦しいものであったが、誰もが国を救うという意思のもとで動いていた。
そしてその群れの先頭に立つのは、ただ一人の呪術師。
背筋はまっすぐに伸び、何かを背負う覚悟をにじませながら、霧の中を静かに進んでいく。
荒栖原へ向かう道中。
一人の老婆がふと立ち止まり、橿本の背をじっと見つめて呟いた。
「……あれは…人じゃないものが、いっしょに歩いとるよ」
日頃から“見える”と言っては不思議なことばかり口にしていた女である。
だがその声に耳を貸す者はいなかった。誰もが信じるべき道を進んでおり、振り返る余裕などなかったのだ。 それでも老婆は、最後まで橿本の背を目で追っていた。
黒布の下に蠢く何かを、彼女だけは見ていたのだ。
第五章 落とされぬ罠
その少し前、尾威の城内。
静かな空気が漂う広間にて、荒正と橿本が再び言葉を交わしていた。
「宝の地図は送られた。これであとは満月の日に戦って終わりだな」
橿本は淡々と告げる。
「それはそうなのだが………呪術師殿、我が国の民を使って何をしようとしている?」
荒正は不安げに眉を寄せた。城の外に民の姿はなく、兵たちの間でも戸惑いの声が上がっていた。
「彼らには勝利への呪い(まじない)を手伝ってもらっている。
必要ないと思ったのだが、勝利への願いは兵への活力になるだろう。戦の前には戻らせるから安心してほしい」
そう言って橿本は、まるで何事もないかのように微笑んだ。
その笑みに荒正は言葉を返すことができなかった。
満月を三日後に控えたある朝、尾威の城へ急報が届く。
恵刃の軍が突如として国境を越え、尾威の居城に迫っているというのだ。
それは明らかに奇襲だった。
城へ向けて一直線に進軍しながら、周囲の村や耕地を避けて通っている。
土地は荒らされず、民も巻き込まれていない。
だが、その整然とした進軍こそ、攻撃の意志が明確である証だった。
荒正は、橿本に言われた通り大量の罠を張っていた。
しかし──その罠に、敵がかかることは一度もなかった。
そのまま恵刃の軍勢は風のように尾威の城門へと到達した。
門はすでに混乱の最中にあり、半ば開かれた状態で、兵たちは抵抗らしい抵抗も受けずに城内へ流れ込んでいく。 守りの薄い廊下を抜け、奥へ奥へと進むその様子は、まるで濁流が堤を越えるような──止めようのない力を感じさせた。
そして、城の奥。
広間の片隅に、数見荒正がひとり立っていた。
腰を落とすこともなく、ただ背を伸ばしたまま、ぼんやりと前を見ていた。
その姿には、戦うでも逃げるでもない、すべてを諦めた者の気配が漂っている。
「これで……終わるのか」
そう呟いた直後、刀が振るわれた。
首が落ちる音よりも先に、刃が空を裂く風の音が広間に響いたという。
その後、数見荒正の首は恵刃の城門前に晒された。
瞳はすでに虚ろで、苦悶の色も残ってはいなかった。
ただその表情には、敗北も後悔もない、奇妙なまでの静けさが浮かんでいる。
「首だけになって、ようやく執念から解き放たれたようだ」
そう言ったのは、見物していた民の誰かだった。
◇
戦が終わった後、山道にて男ふたりが顔を合わせた。
「もっと頑張ると思っていたのだが、あっけなく落城したな!」
晴れやかな笑みを浮かべてそう言ったのは、橿本である。
その隣に立っているのは、恵刃の国主・今仲慎之助。
戦を終えたばかりのその表情には、深い疲労と哀しみが刻まれていた。
「貴殿のおかげだ。罠の存在を知らずにいたらこちらの被害は甚大なものになっていた。
これで…妻への弔いになったと思う」
今仲の声はかすれていたが、橿本は何も言わず、ただ頷いた。
「奥方の首は地図の場所にあるだろう。あの国主が手元に置いていなければの話だが」
「明日にでも探しに行こう」
「何にせよ、これで戦いは終わった。自分との約束は果たしてもらうぞ」
橿本は静かに、しかし揺るぎない口調で念を押す。
「わかっている。その約束の民だが…どこへ? 姿が見えなかった」
「この国から南へ行ったところにある高台…荒栖原と言ったか。そこへ避難させておいた。彼らには今まで通りの生活をさせてやってほしい」
今仲は頷いた。だがその表情には、わずかな戸惑いの色も滲んでいる。
「迎えに行きたいが………呪術師殿にもついてきてほしい。我々だけでは怯えさせてしまう。敵対しかねない」
「わははは! それもそうだな。彼らが家へ戻ったのを確認するまでは共に居よう」
橿本の笑い声が風に乗って空へと舞い上がる。
静かな金陽山の裾野に、ふたりの影が長く長く伸びている。
呪術師の願いは叶った。
第六章 真相
橿本が「宝」の運び手として恵刃へ向かうその日、数見荒正は密かに一人の忍びを後をつけさせていた。 表向きには護衛をつけないという素振りを見せながら、裏では監視の目を光らせていたのだ。
その忍びは橿本には一切気づかれぬよう距離を取り、三日目の夜までは尾行を続けていたが、その夜──。
忍びは何者かによって喉を裂かれ、衣服を剥ぎ取られたうえで、林の奥に打ち捨てられていた。
その遺体は“山賊の仕業”だと思わせる姿をしていた。
忍びの存在すら知らされていなかった橿本は、死体の発見にも反応を示さなかった。
ただ淡々と、尾威の国の使者としての務めを果たすべく、恵刃の門をくぐったのである。
「宝」の一部を恵刃の国へ送る際に、橿本は始めから今仲と密かに話を交わしていた。
『これから四つの宝を恵刃の国へ送る。その役目をお前に命ずる。必ず送り届けるように』
橿本は自分が尾威の使者という立場に押し込まれ、従わざるを得なかったと静かに告げた。
「その“使者”である貴殿に監視の目はついているのか?」
「もちろん。消えてもらったがな」
あまりに淡々とした口調に、今仲はわずかに眉を動かす。
「どういうことだ」
「こうして話せなくなるだろう?
なに、山賊に襲われたかのように見せかけてある。心配するな」
橿本は夕餉の献立でも話すような穏やかさで言う。
今仲の顔には怒りも疑いも浮かばなかった。
ただその男の本性を、改めて確認するような沈黙が二人の間に落ちていた。
しかし……志鶴姫が無惨な姿にされてしまったと、怒りと悲しみに震える今仲に橿本は諭すように語る。
「落ち着け。短気を起こせば、宝とされた奥方は貴殿の元でもあるこの国へ戻ってこれないかもしれん。
自分が必ず奥方を送り届ける。それが供養に繋がると信じているからな」
さらに続けて口を開く。
「そして…数見荒正に必ず勝つ方法を教える。だから、今だけは怒りを静めてほしい。
その代わり尾威の国の城以外の土地と民には何もしないでほしい。彼らには罪がないのだから」
今仲は黙って頷いた。
愛する者を失いながらも、国主としての誇りと理性をかろうじて保っている。
怒りに任せて暴走することなく……最後まで道を踏み外さなかった。
すべては、橿本が望んだ通りに。
◇
橿本が背を向けたそのとき、今仲が声をかけた。
「……最後にひとつだけ、どうしても聞いておきたい」
橿本は足を止めたが振り返らない。
しばしの沈黙ののち、背中越しに問いが続いた。
「呪術師殿は我が妻が殺されるところは見ていないのか?」
静かな問いかけだった。怒気も恨みもそこにはない。あるのは……ただ、確かめたいという意志のみ。
橿本はわずかに視線を動かし、答えた。
「箱の中身が何なのかは知らされていたが……」
それきり、言葉は途切れた。
今仲は小さく息を吐き、目を伏せる。
「…………そうか。指輪が、なかったのだ」
「指輪?」
橿本が問い返すと今仲は短く頷いた。
その声は静かで、悲しみすらすでに通り過ぎたもののように聞こえる。
「妻がとても大切にしていた指輪が…なくなっていた。あの城を隈なく探したが、どこにもない。……きっと、最期まで手にしていたのだと思いたい」
橿本は目を伏せ、そっと唇を結ぶ。
「そうか……それは残念なことだ」
「呪術では見つけ…………られないか。すまない。忘れてくれ」
「わかった。この話は聞かなかったことにしよう」
ふたりの言葉はそれ以上続かなかった。風が金陽山の麓を渡っていき、どこからか鳥の声がかすかに届く。だがその静けさは、決して虚無ではなく、ひとつの別れを確かに見送るための静寂であった。
第七章 別れ
戦が終わり、焼け落ちた城の煙がようやく晴れた頃。
荒栖原へと避難していた民たちがぽつぽつと戻り始めていた。
その地に立つ一人の男──橿本の姿を見つけた瞬間、歓声が上がる。
「呪術師殿!」
「もう行かれてしまうのですか」
人々は口々に問いかけてきた。
「まぁな。故郷に帰らねばならんのだ。それにしても…予言めいたことを言ったが、あのような大掛かりな雨乞いは必要なかったな。すまなかった」
橿本は笑いながらそう言った。
「とんでもない。皆が無事だったのは荒栖原に居たからだ!」
「家にいたら逃げようとして怪我をしていたに違いないよ」
「城の火事も雨のおかげで早く消えた。みんなの思いが通じてお天道様が早く消してくれたんだ」
感謝の声が次々と上がる。
橿本はその一つひとつに頷くでもなく、どこか遠くを見るように、静かに微笑んでいた。
「呪術師殿。何度聞いても名を教えてもらえなかったが、後生だ。命の恩人の名を知っておきたい!」
「……………通りすがりの呪術師だ。忘れてもらって構わんぞ? わははは!」
そう言い残し、橿本は手を振って荒栖原の道をあとにした。
民は名を呼び、感謝の言葉を重ねた。中には駆け寄ろうとする者もいた。
だが、誰も彼の裾を掴もうとはしなかった。
この国に留まってほしい──そんな想いは、誰の胸にもあった。
けれど同時に、彼が去るべき時を自ら決めていたことも皆は感じ取っていた。
その背を見送ること。
それこそが彼に対する敬意であり、恩返しである。
民は、そう信じていた。
「帰ろ帰ろ~」
と機嫌よく鼻歌を歌う橿本の姿が、静かな林の中にあった。
「うむ! 見立て通り、美しい念がこもっている。これは素晴らしい呪物になるぞ!」
かつては多くの祈りと祝福が、この指輪に注がれていた。
今仲と志鶴姫の間にあった愛も、民の希望も──そのすべてがこの小さな輪に宿っていたのだ。
だが今は違う。
志鶴姫の絶望と、痛みと、裏切られた叫びすらも、この指輪に深く染み込んでいる。
だからこそ……美しい。
穢れと祈り、その相反する念が混ざり合った今こそ、呪物として最も完成に近い形だと橿本は感じていた。
橿本はそれをひとしきり眺めると、ふと眉を寄せた。
「指をとるのを忘れていた。これはいらん」
すぽっと抜き取った志鶴姫の指を、人工霊へ差し出す。
人工霊は静かにそれを受け取ると、骨の手で姫の指を挟み──ぐしゃりと押し潰した。
骨の隙間から血がにじみ、大地にぽつぽつと染みを落とす。
「楽しく帰ろう~」
再びそう呟きながら橿本は杖をくるりと一度振った。
それを股に構えると、ふわりと地を離れ、風に乗って身体が浮かび上がる。
布が風をはらみ、身体ごと空へと舞い上がっていく。
林の梢を越え、やがて彼の姿は青空の彼方へと消えていった。
荒栖原の丘に集っていた子らは、その様子をただ黙って見上げていた。
小さく手を振る者もいたが、声はひとつも上がらなかった。
──後に荒栖原ではこう語られることになる。
「呪術師殿は、空を飛んで帰っていったんだよ」と。
●感想
すげーーー小説っぽい!!!!!!!
ChatGPTに最初出してもらったときそう思ったのもつかの間、湿った薪が燃え広がるだのなんだのとんでもないことが書いてありまくったのでこっちで修正してはチェック修正してはチェック…を繰り返したので、誤字脱字チェックには向いてると思うけど小説をガッツリ書いてもらうのは向いてないのかもなあと思いました。
私は小説書けないので世の小説書きマンたち、すげえ…の気持ちになった。小並感
しかしあの小説もどきが6年の月日を経てこうして形になったのでこれでやっと成仏できる。
え?国主創作始めて6年も経ってるのか??
とにかく漫画描きに専念します。
橿本は荒正に監視役つけられまくってるけど作中以外にもぼちぼちいて、でも全員人工霊に消してもらってるし遺体隠蔽処理もやってもらってるしで人工霊いないと駄目だなコイツ、ってか便利すぎるな人工霊。
人少ないのに橿本も見張ってなきゃいけないし見張ってても消されるしでもう荒正は駄目ですね。知ってた
橿本にすがったらひどい目に遭うんですよ!!正しく使わなくちゃ駄目!
今仲は悲しみを乗り越えて強い男になることでしょう。
その試練を用意したんだからこの指輪はもらっていくぞ!わはははは!!!って橿本が言ってた。
コイツはほんまいっぺん絞めた方がいい。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
2025/05/25