紅千(紅視点) 黒縁眼鏡と毛さきが跳ねた鳶色の髪。青いネクタイはまだなんとなく見慣れない。
歩きながら守沢が遠慮ぎみな視線を寄越してくる。
下校中、駅へいく道でのことだった。
「駄々をこねてすまん」
「かまわねぇがよ。いっしょに帰りたいなんてどうしたんだ」
学年があがってクラスは離れた。タメで唯一気兼ねなくやりとりできる奴だけど、仲よしこよしのあいだ柄じゃない。わざわざ教室へ迎えにきて誘われたため、こっ恥ずかしくもあった。
「じつはな、鬼龍く……鬼龍」
言いなおした守沢は照れたふうに頬をゆるめている。男にしちゃかわいいツラだと、こういう瞬間に思ったりする。
一年生の夏、俺がひどい態度をとっちまったにもかかわらず、しゃべるときの守沢はいつも笑顔だ。今までの知り合いにはいないタイプっつぅか、そもそも声をかけてくる同級生なんざいねぇし。
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