マゼンタの獣マゼンタの獣
呼吸を遅くした。膨れ上がる熱量を、思うまま使い切るために。
増殖する心臓が視界を揺らし、思考の乱れを対消滅させる。左足に理性と衝動が爆発的に収束する予感があった。いいや、俺はそれを、確信へ変えたのだ。収束しろ。だってまだ、こんなところじゃ終わらない。終わりたくない! だから、地面に突き刺した右足を軸に体を捻った。ボールを見据えたのはたった一瞬で、あとはもう前へ、遠く、遠くない、ただ前へ、未来、違う、前、前に、遠くない、前、ぶち抜ける、前、俺の、前は、前、俺の、ゴールに!
ありきたりな体験談みたいに、スローモーションなんか見えなかった。ボールは当然のように、見知ったそれよりはやく、ネットを揺らす。
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