背中に傷を付けた猫「あれ? ケンケン、その背中どうしたの?」
テレビ収録の楽屋。私服から衣装に着替える際に上裸になった健十の白い背中には、肩甲骨の辺りから両側にかけてハの字に伸びる何本かの赤い筋があった。彼の白い肌に映えてしまう赤いそれは、カサブタのようで。
「んー? 猫に引っかかれたんだよ」
健十は、それを隠そうともせずそう答える。
「猫? つばさちゃん、猫なんて飼ってたっけ?」
不思議そうに首を傾げる悠太とは対照的に、剛士は何か察しているのか苦い顔をした。
「いたよ、可愛い子猫ちゃんが」
「オマエなぁ……」
どこか自慢げに笑う健十に咎める声を上げたけれど、彼はそれを特に気にしている様子はない。
「大丈夫だよ。どうせ、この傷跡が消えるくらいまで、ヌード系の仕事はないし」
そうだ。それを見越して、背中に傷跡を付けさせたのだ。
鏡越しに見える、自分の背中に付けられた傷跡をどこかうっとり見つめる健十になにも言えなくなって、「そうかよ」とだけ剛士は答えて着替えに戻った。
「消えちゃうのがもったいないくらいだけど」
なんて呟いた健十の、その背中の傷は完全に衣装に隠されて見えなくなる。
頭に猫耳のカチューシャを付けて、チョーカーについた鈴をころころと鳴らして、高く甘い声で啼いていたあの猫は確かに可愛かった。恥ずかしがっていたけれど、猫の日だから、というのを口実に猫をモチーフにしたランジェリーを着せて良かったと思う。
次は何を着てもらおうかな、なんて。鏡越しに映る、衣装の下にある猫の爪痕を思いながら健十は思案した。