慈雨の空 空が泣いている。
今年も五月雨の季節が巡ってきたようだ。那田蜘蛛山に小さな紫陽花が咲き、糸のような細く冷たい雨が降り続く。
僕は窓からそれを眺めていた。濡れて色濃くなった山の景色はいつもと変わることなく目の前に在る。
この家には日付や時刻を示すものは何もない。月の満ち欠けを追い、移ろいゆく花や葉の変化から四季を感じ取る。それで十分だった。何も変わり映えのない日々を送る僕たち家族にとって、日付も時刻もたいした意味をなさない。
とりわけ雨模様が続くこの時期は家に籠もりがちだ。僕は退屈をしのぐため、適当に家族をつかまえては話し相手になることを強いていた。
僕は視線を戻し、正面に座る母さんに声をかけた。
2884