瘴奸がいてよかった〜 貞宗の止まらない咳きを常興は黙って見つめていた。その背が以前より遠く思える。雨の降り続いたあの日に市河が去ってから、貞宗は他人を拒絶するようになっていた。以前は常興の言葉も耳に入れていたのに、今の貞宗には届かない。
貞宗の体調は悪くなるばかりだ。それでも大将が先頭に立たねば士気が下がると言って、貞宗は戦場に立ち続ける。常興は何度も体を休めて欲しいと伝えたが、まるで聞き入れてもらえなかった。
常興は歯痒かった。貞宗の力になりたいのにその力が自分にはない。貞宗の期待に応えようと鍛えてきた弓も、この戦場では本領を発揮しなかった。
すると貞宗と話していた長尾が去っていった。長期にわたる戦で他家との結束もない。このままではこの連合軍すら瓦解するかもしれなかった。
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