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    リク@マイペース

    @em_up6

    ※無断転載&無断使用&AI学習禁止※
    好きな時に好きなのだけ描きたい。
    お絵かき帳で絵日記帳で漫画や小説も載せてます。
    キャラ崩壊系とかギャグ系とかほのぼの系が好き。他にも好きなのあったり。

    ↓好きカプや好きキャラ↓
    DQ11(グレシル/主シル/カミュシル/シルビア受固定/にょビア受固定)
    アルラス(コルネイユ、ヴァローナ、漆黒オウィ他)
    幻水(ルク坊、主坊、坊ちゃん受固定、にょぼ受固定)
    スタレ(今の所列車組、ギャグ系)
    その他色々(Pixivに記載)。

    ジャンル雑多になってきてる気がする…。攻受逆転は好みではありません…汗。守備範囲はジャンルによって変わります。
    ゲーム寄りX垢かここかブルスカか翡翠singかくるっぷによくいます。

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    リク@マイペース

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    ソルティコorダーハルーネにある酒場での出来事/英雄はちょい俺様だけど甘い/旅芸人は天真爛漫で鋭かったり鈍かったり/コメディメイン/英雄は旅を通じて酒を飲んでもすぐに眠くはならなくなってるって設定
    誤字脱字あるかもご容赦を
    紙で読みたい気持ちがあります……
    0222にぴくしぶにも載せました

    ##DQ11

    グレシル(←○○要素有り)小説(タイトル考え中) 声が、全身を駆け抜ける。低過ぎず高過ぎず、持ち主の姿と同じようにーーーー只々心地良く澄んでいて、そして美しいものだった。
    「……」
     気分の向上を感じつつアルコールを流し込もうとグラスに指が触れた刹那、無意識に上がっていた口角に気付く。
    「フッ」
     どうやら俺の心は満足しているようだ。何を指しているか、それは答えるまでもない。少しだけ離れているが、上から下までハッキリと見える愛する者のショータイム。
     ……正確にはゴリアテに気付いた奴らに祭り上げられ、やむを得ず行うことになったのだが。
    「……」
     勇者やベロニカ達の追跡を逃れ、二人だけで飲めると思った矢先の邪魔の群れを思い出し、心の騒めきと怒りが湧き上がる。まさかの事態に、奴らの手が回っているのか!?と疑ったものだ……今もそうなのだが。
     最高に良かった気分が一転し、負の感情が纏わりつく感覚に襲われる。この場に必要ないと、払拭するために透明の液体を胃へ流そうとした、その時だった。
    「〜〜♪」
    「……!」
     ゴリアテが見ている。視線だけではなく、体ごとこちらを向けて。それは光り輝く博愛を込めた瞳に、華の如く美しい笑顔だった。
     ほんの数秒の出来事で、心が晴れやかに、満たされ、穏やかに、黒い感情が根こそぎ霧散していく様を感じる。
    「……」
     いつだって俺に光をくれるのは、お前だったな。
    「全く、敵わんな」
     喉を通る液体がより美味く感じるのは、きっとゴリアテのせいだろう。せい、と言うよりはお陰、かもしれないが、どうでも良い。そう思えるくらい幸せだった。
    「……替えは?」
    「同じ物で」
    「それにしても……酔っ払いをも虜にする素晴らしい歌声と、それに合わせた魅せ方をお持ちでいらっしゃるのですね」
    「……おい」
     幸福に浸る俺に刺さる一回り上であろう店主の声。限りなく低く牽制を含めて言葉を放つが、一切相手にされず返ってきたのは並々と注がれたグラスだった。
    「ゴリアテからすればショーの一貫に過ぎん」
    「間近で見ることが出来て美しい歌声を肴に熱視線を浴びることが出来るショーとは……素晴らしい」
    「それは俺に向けた物だ。ゴリアテの全ては既に俺のものだからな」
     左様でございますか、という言葉を最後に黙々と仕事に戻る仕草を見せ、歌い終わるまで話しかけるな、と含みを持たせ睨み付ける。何処からか一瞬視線を感じたが、あの美しき佳人に想いを募らせた輩だろう。無駄な行いだ。
    「……今度こそ堪能させてもらおう」
     小さな呟きは誰の耳にも入ることはなく。ゴリアテへと意識を向け、先程感じた幸福感をゆっくりと味わうのだった。

    ◾️

     歌い終わると同時に、視界に入る人々から拍手と賞賛の言葉がたくさん掛けられた。もちろん、グレイグからも拍手と笑顔……険しさが入ってるけどそこは割愛してあ・げ・る・わ♡
    「お楽しみいただき、ありがとうございました♡」
     アンコール!アンコール!と、アタシを舞台に招いた人(興奮が凄かったからファンなのね)が興奮気味に囃し立てる。もう一ステージ始めてもいいけど……。
     熱が籠る頬を撫で、チラリと彼へと視線を向ける。アイコンタクトのつもりで、どうしましょ?と投げたのだけれど、
    「行くぞ」
     既にグレイグが側に立っていて、手首を掴んでいた。声色は至っていつも通り硬いけど、何となくだけど……それとは違うものが入っている感じがした。握る手もそれほど力が入っていない……怒っているわけではないことは読み取れたわ。そもそも怒られる理由はアタシには思い付かない、だって無いんだもの!
    「聞いているのか?」
    「えぇ、聞いているわ」
     何も返さないアタシを不思議に思ったらしい。考えるのはヤメ!と思考を切り上げて、グレイグが望む答えを告げる。
    「俺が座っていた席で飲もう。もう頼んでいるぞ」
    「あら♡ありがとう♡」
     複数のファンが不満の声を上げながら露骨に残念な顔を見せる。のだけれど、グレイグが睨みを効かせて大人しくさせたの。大人げないけど……ちょっと嬉しかったのはヒミツよん♡
     アタシ達が舞台から降りたあと酒場とは思えないくらい静まり返っちゃったけど、踊り子ちゃん達がまたステージでショーを始めるみたい。すぐに活気を取り戻りして、騒がしくなっちゃったけど……楽しく盛り上がるのが一番だからとても嬉しかった。

    ◾️

    「疲れただろう?」
     さり気なく先にイスへと座るように促す彼の心遣いに、暖かいものが胸に宿る感覚があった。
    「ありがとう♡ウフフ、乙女心にキュンキュン来ちゃったわ♡」
    「ほぅ、ならもっとお前の乙女心を掴み……いや捉え、俺に溺れるようにすれば何があっても……」
    「…………前言撤回。やっぱアンタ乙女心解ってないわ」
    「何っ……!!何と言う難しい代物だ乙女心……!!」
     余計なことを言うもんだから、胸に宿った暖かさが走って逃げていったわ。もぅ……何言ってんのよホント。冷ややかな視線に居た堪れなくなったグレイグは、誤魔化すように咳払いをする。流石にわざとらし過ぎない?
    「そ、それより……座ったらどうだ?」
     再度席へと促した彼の表情には少しだけ焦りを感じたのだけれど、すぐに引っ込んでしまった。それと同時に手首に感じた熱も離れて行く。掴まれていたことをすっかり忘れてしまっていたわ。
    「そうね」
     これ以上引き伸ばす理由もないし、音を立てないように席についた。うん、固すぎず柔らかすぎず……座り心地は悪くはなかったわ。
     グレイグはドカッと品が良いとは言えない音を立てて無造作に腰を下ろした。かと思いきや、店主ちゃんから手渡されたグラスを目の前に差し出してきたの。
    「お前をイメージさせて作らせたんだ」
    「まぁ♡ 嬉しい♡」
     混じり気のない綺麗な赤色に、ぷかぷかと浮いている氷。照明の光が当たるとキラキラ輝いて……。
    「情熱の赤と透明の純真さが一緒にいるみたいね」
     ふと零れ出た言葉はそのまま消えていく……かと思いきや、グレイグの興味を惹いたらしい。グラスとアタシの間で視線が行ったり来たり……。流石に何をしたいのかがわからなかったわ。
     どうやら疑問が表情に出ていたみたい。彼の瞳がこちらに移った時、あぁ、と相槌を打つと、
    「まるでお前のことではないか」
     と恥ずかしげもなく告げた。少しだけ表情が緩かったけど、真剣な言葉で。
    「も、もぅ……! 恥ずかしいわね!」
     瞬時に熱が頬中に広がっていく。どうすればいいのかわからなくて、只々顔を背ける事しかできなかった。

    ◾️

     グラスに注がれた赤と同じと言っても過言ではない程に、ゴリアテの頬は紅かった。序でに言えば耳も紅かった。暫く……と言っても精々数十秒程度だが、こちらへ顔を戻す素振りはなく。
     最初は清らかな乙女の如く可愛らしい反応を目に焼き付けていたのだが、それも限度がある。時間は有限だ。何時までもこうしてはいられない。
     いつの間にか握りしめていた自分のグラスから、一口だけ喉を通す。
    「何を言う、俺はそう思ったから言ったのだぞ」
     手荒な真似は出来るだけ避けたい。まずはゴリアテの出方を探らねば。尋問ではないのだから嘘を交える必要はない……真実を告げれば良い。
     ほんの少し時が過ぎたあと、ゆっくりと振り向く。どうやら熱が収まったのだろう、元の顔色へ戻っていた。バツの悪い表情……かと思いきや違っていた。
     意図を読み取ることが出来ずに無意識に腕を組み、考え込む。のだが、答えが返っていないのに先に思案しても意味が無い。己の考えが纏まった瞬間、平然としたものから太陽の様に輝く笑みへと変わり「でも」と口火を切った。
    「それを言うなら貴方も情熱と純真があるじゃない!」
     推測出来るか、表情も言葉も。何を言っているのだ……と、呆れた瞳を俺に向けるという展開は安直過ぎて選択肢にすら無かったのか。少々強張っていた体から力が抜けていく。脱力し過ぎて椅子から滑り落ちるという失態は避けることが出来たのは幸いか。だが、しかし。
    「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
     真っ向から称賛を浴びる……それもゴリアテを象徴すると言っても過言ではない言葉と同じだと、尚更喜びの度合いが跳ね上がる。顎髭を撫で付ける手に、いつの間にか自分が照れ隠しの行動を取っていたようだと気付かされた。
    「あ、でもスケベだから純真は無いわね」
    「何を……!!」
     上げて落とすとはこの事か。
    「…………くそっ……思い当たる節があるせいで言い返せん……!!」
     握り締めた拳に衝撃が走り、同時に叩きつけたの様な鈍い音が耳に入る。どうやら無意識の内に力の限り天板へと八つ当たりをしていたらしい。
     正直な所、反論の余地は無かった。当然か。二人きりで尚且つ邪魔されないと確信した時は、ベッドに連れていって抱いて愛を深め合っていたのだから。……失敗に終わる事もあったが。
    「あるのね……」
     呆れを含めた美しいアイスグレーの瞳から棘めいた視線が放たれる。傷口に塩を塗る行為は止めろ。平時であれば全く気にもならん上にダメージにもならないのだが、お前だと致命傷になる場合もあるのだぞ!?
    「ぐっ……」
     ゴリアテだけならまだ良いのだが、大きな音を立てて興味を引いてしまった結果……注目の的になってしまった。
     項垂れていて周囲が見渡せなくとも空気が変わった事は理解しているさ。間違いなくあらゆる角度から他人の目を感じる。
     いや待てよ……。見方を変えればこれは良い機会ではないか。先程のショーで熱視線を送っていた男や女が少なからず……いや多数存在していた事は承知済みだ。舞い降りた好機に思わず口角が吊り上がる。
    「確かに純真さはないかもしれない」
     視界に入る白鼠の双眸には、純粋な疑問の色が浮かび上がっていた。熟れた林檎の様な紅い唇に触れる寸前のグラスを天板に戻し、体ごとこちらへと向ける。その刹那、店主は俺達から遠ざかっていった。視界に入らない位置から巻き込まれる事なくこちらの様子を見て楽しむつもりなのか……見せ物ではないのだが。
     まぁいい、余計な事に気を取られるのはここまでだ。興味津々の野次馬共に見せつけてやるとしよう。

    ◾️

    「ならば情熱は俺で純真はお前になるな……。二人で一つ……と言いたかったのだろう?」
     きっと今の俺の顔は緩んでいて、自分自身では見れたものではないだろう。しかしゴリアテには効くだろう。この美しき佳人の笑顔に、全てに魅了されている……俺の様に。
    「ちょ、ちょっと……!何言って……!」
     見開いて揺れる瞳から動揺が読み取れる。握り締めた拳を胸の高さまで上げ、慌てふためくその姿。他の人間が同じ動きをした所で上品と言った括りに入らないはずなのに、ゴリアテだと品があるように見える。
     生まれ持った高貴さに加えて、世界的スターに上り詰めた努力の賜物なのだろう。
    『いや本当マジで何言ってんの??つーか何やってんだよこのバカップル。見せつけてるのか??』(※酒場にいる方々の心の声)
    『う、羨ましいいいいい!!』(※熱烈な方々の心の声)
    『今話題のデルカダールの英雄と世界的スターのロマンスの一部始終!?ってタイトルで記事書けるんじゃね!?』(※一部の方の心の声)
     反応を確かめるべく体ごと背後へ向けると、視界に入る悲喜交々の野次馬共が姿は、優越感の肴として最上級のものだった。こうも上手く事が運ぶとは……試して正解だったな。元の位置へと戻ると同時に、ゴリアテの口が再び開いた。
    「もぅ! 酔っ払ってるんでしょ!」
    「いや、正気だ。酒に飲まれてはいないと断言出来るぞ」
    「正気!?いつの間にお酒に強くなったのよ!」
    「いつもでも弱いままではいられぬ。お前と共に飲み明かした日々や個々の鍛錬が糧となっているのだ。……今はそう簡単に潰れはせぬぞ」
    「た、確かにいつの間にか寝る事が無くなったような……」
     驚愕に満ちた佳人の表情は、己の心を満たす馳走にもなるのか。これは癖になりそうな心地良さだ……。
    「早いうちに克服したからな」
    「そ、そうなの……」
    「あぁ」
    「じゃなくて!」
     確立された己の優位性に浸っていたが、ゴリアテの言葉で現実に引き戻された。酔いに任せて話す事が悪いとは思わんが、仮に覚えていない場合……勿体無いじゃないか。
    「正気であ、あんな恥ずかしいことを……!」
     急に立ち上がり、腰を下ろし、またも頬を染めていく。自らの言葉を皮切りに、先程の言葉を思い返したのだろう。その愛らしい表情を目で楽しみたいとふと思い、俯くゴリアテの頬に触れようと手を伸ばす。が、直前で元の体勢に戻ってしまい叶わなかった。残念に思う気持ちが顔に出てしまったが、幸いにも気付かれる事はなかった様だ。
    「……」
     騒々しさを取り戻しつつある最中、きらりと輝く双眸が真っ直ぐに向けられていた。答えを求めているのか?と思い至ったが、それらしい言葉が出てこない。脳内を駆け巡り数々の引き出しを開けてみるが、やはり無く。
     ここは正直に、ゴリアテだからだ、と分かる意味合いの言葉を伝えた方がいいだろう。その刹那、ふと思い出す。前々から釘を刺しておいた方が良いのではと、思案していた事を。効果があるかは不明だが、少なくとも『こういった事態』になる可能性があるのだと知っておいて欲しいんだ。
    「お前以外に言うわけなかろう。それに」
     一呼吸置いた後、
    「お前も魅了や誘惑とも取れる言動があるではないか」
     射抜くような鋭い視線を向け、淡々と告げる。……この発言には別の意味を含んでいるのだが、果たして気付くのだろうか。

    ◾️

     眼光の鋭さに怯んでしまって悲鳴を上げそうになったけど、すぐに自分を取り戻した。目の前の男の口から出た言葉を今一度思い出す。……魅了に誘惑、ですってぇ!?
     バンっとテーブルが悲鳴を上げる。そんなに力を入れたつもりはなかったのだけれど、強く叩き過ぎちゃったみたい。ごめんなさいねテーブルちゃん!あとでちゃんと綺麗に拭いておくから!
     今はこのわけわかんないことを言う人に、ハッキリと言い返さなくちゃいけないのよ!
    「はぁぁぁああああ!?ア、アタシがそんなはしたないことするオンナって言いたいの!? そう思っているわけ!?」
     言葉遣いが荒げてしまっていて、乙女に相応しくないのはわかっているけど、こればっかりは言わせてちょうだい!グレイグのことだから、絶ッッッッ対に下品な意味も入ってるんでしょう!?
     悲しいというよりも怒りの方が強かった。アタシはそんなことしないって分かっていて、そんな馬鹿げたことを言うのね!?
     少し前みたいに、また色んな人からの視線をヒシヒシと感じる。幸せで楽しいことなら大歓迎だけど、こんな……こんなことで注目を浴びるのはイヤよ!
     怒りを発散するかのように一気に喋ったせいなのか、頭から下に向かって疲れの波が勢いよく押し寄せる感覚を覚えた。重くなってしまった脚をゆっくりと動かして腰を下ろし、呼吸を整え……ようとしたその時。アタシの時よりも激しい衝撃が耳に入った。原因は言わなくてもわかる……グレイグだったわ。
     眉間の皺が更に増えて眼光はより鋭く、今日一番と言っていいくらい……怖かった。叩いた所が少しへこんでいるように見えたけど、見間違えだと信じたい。
     なんて呑気なことを考えていると、彼の表情がより深刻なものへと変わり、額には血管が浮き出るほど怒りが滲み出ていた。鬼の形相って表現がピッタリだったわ。
    「あるわけ無いだろう!!その様な行動をしてみろ!!仕置きだけでは済まさんぞ!!」
     仕置き、という言葉に恐怖で体が微かに震えそうになったけど、重要なところはそこじゃない。彼の中でアタシは軽いオンナではない、って認識があるの……よね?
    「……貴方さっきと言ってること違くない?」
     そういったことをする、と思いつつ、やったら許さない、って思っているってこと?ちょっと待って、頭がごちゃごちゃになってきているじゃない!
     意味を理解しようとするもどう噛み砕けばいいのかわからず、目を覆ってしまった。
    「いいや、合っている」
     無骨な手が混乱しきっている手首を掴み、もう片方の手が頬に触れる。言葉は淡々としたものだったけど、行動はとても優しいもので。こちらを見据える翡翠の瞳には、不純な色は混ざってはいなかった。
    「お前にとっては普通の言動が、相手によっては誘惑と言った類に捉える事があるのだ」
    「え」
     落ち着いていた脳内に再び衝撃が走る。例えばショーが終わってから控え室にいた団員に『一緒にご飯食べに行きましょ!』とか……そのままの意味の言葉が誘っているように聞こえる、ですって?同じことを繰り返してしまったけど、噛み砕けないとわからないくらい脳へのダメージが大きかったみたい。
    「やはり通じていなかったか……」
     溜息と共に肩を竦める。わざとらしい仕草に少しだけムッとしたアタシは、大きな手を頬からそっと外す。この行動が不快だったのか、手首を掴む力が少し強くなる。痛みはないけど振り解くのは難しい……と言うより無理。どうやらこっちは逃れることが出来ないみたい。目の前の大男に力で勝てないとわかっているから、諦めるしかなかった。なのでこの件は引き延ばさずお終いね。
     で、次にやることは決まっているわ。呆れ顔のまま見下ろす男に、ちゃんと言わなきゃいけない。瞼を閉じ、呼吸を整えて、準備が出来たら3、2、1……ハイ!
    「それならそうと最初からそう言ってほしいんだけど!?」
     そう、周りくどい言い方をしないで、ストレートにハッキリと言えばいいのに!!ありったけの思い(内訳:怒り、驚き、困惑)を込めたからなのか、乙女に相応しくない荒げた声になってしまった。……いいえ、違うわね。これは乙女とか関係ないわ。誰だってこんなこと言われたら……アタシみたいな反応と行動になるでしょ!?
    「確かに直接伝えても良かったが、時と場合によっては『冗談を言うな』と茶化すだろう?」
    「ぅ……」
     言い返すことが出来なかった。だって……言葉通りの展開が脳裏に浮かぶんですもの! しかも鮮明にバッチリと。
    「それに……どうだ?今までにこの手の奴等は少なからず存在していたのではないか?」
    「……」
     グレイグの言葉通り、そういう意味で捉えて迫ってきた男性はいたのかもしれない。さっきの例え……あれは皆と旅をする少し前にあった本当の出来事なのだけれど、お食事に誘ったら『よっしゃああああ!!シルビアさんから来たああああ!!』って喜んでいてとっっっっても興奮していたわ。
     ……えぇ、段々と思い出して来たわね。ハッキリと言ってきたり、ストレートに切り込まれたことも……ある……じゃないの!!
     どうしてかはわからないけど、ジワリと汗をかいてしまう。アタシが悪いわけではないのに!
    「思い当たる節がある様だな?」
     くるくると変わる表情を見れたことが物珍しかったのか、はたまた面白かったのか……どちらにせよ気持ちの変化があったみたい。手首を掴む力が緩まり、離してくれた。少しだけ痕が残っていたけど時間が経ったら消えると思うし、宿に戻ったらケアをすれば良いからあまり気に留めないことにするわ。
     それよりも今は、どう言葉を返すかが大事ですもの!
    「う……、その、思い返してみたら、あったかしらん……? えっと、舞い上がったりとか、すごい押してきたりとか、で、でも……!」
    「……」
     気迫に押されて上手く言葉に出来ない。蛇に睨まれた蛙ってこんな感じなのかしら?……なんて逃避しかけたけど、シルビア!ここは正念場よ、とオンナの勘が働いたの。納得してもらわないと、後々大変なことになってしまう……そんな予感がする。少しだけ騒めく心に寄り添い、大丈夫よん♡と徐々にテンポが速くなる心臓を落ち着かせる。
     内心慌てまくるアタシの知ってか知らずか、グレイグは再び頬に手を添えて来た。いつの間にか手袋を外していたらしい。ゆっくりと撫でる指が心地良かった。
    「落ち着いてくれゴリアテ。素直で美しく純粋な心を持つお前が、この手の話題で嘘を付く事はないと理解しているさ」
     眉間にある皺の数が減っていて、ほんのちょっとだけ口角が上がっている。少しだけ和らいだ表情の彼を見て、落ち着きを取り戻した心に安心感が生まれ波紋のように広がっていった。そのあとにとんでもなく疲れちゃったけど……わかってくれて、良かった。

    ◾️

     苦悩、焦燥、思案、安堵といった様々な局面を経て、最終的に辿り着いたのは疲労だった様だ。……本当に表情豊かなのだなお前は。いや、当然か……職業を鑑みるに、感情を表に出す事が必要不可欠である事は、火を見るより明らかだ。
     ゴリアテが一通り落ち着いた所で、頬を撫で続けていた指を止め離す。名残惜しいが、何時でも触れることは出来る。人前では恥ずかしがって嫌がるが、その姿を瞳に焼き付けるのもまた一興。脳裏に浮かぶ少々涙を携え上目遣いのゴリアテ……。俺だけの素晴らしい肴を堪能しつつ流し込む酒は……一層上手く感じるな。
    「はぁ……」
     再び喉を潤そうとグラスに手を伸ばしたと同時に、佳人の唇から溜息が零れ落ちた。天板を見つめたままの美しい白鼠の瞳は陰りを帯び、長い睫毛は心なしか生気が無い様に見える。持ち主の心情を表しているのだろう……寝台で思う存分可愛がった後とは似て非なるものだった。
     何がそうさせているのか……は、心当たりがある。先程の事態を経て残った疲労だろう。一口胃へ流した後に尋ねようか、それとも早く答えを導き出すか。思案に陥りかけたが、為すべき事は当然……ゴリアテの憂いが何かを知り、取り払う事だ。
    「どうした?疲れたのか?」
    「そうね……」
     眼球を動かし視線をこちらへと動かす。かと思いきや、すぐに元に戻ってしまった。そのまま会話を続けるかと思いきや、体ごと向けてまたも溜息を吐くのだった。これは意図的に行なっているか、と探りを入れようと思案しかけたその時「話が」と先に言葉を紡ぎ出す。
    「色んなところに行き過ぎているんですもの……」
    「うむ……そうだな」
    「そうだなって……貴方のせいなんですけど!?」
     端麗な眉が吊り上がる。聞くまでもなく、記憶が鮮明に甦ったのだろう。口調は柔らかいが、微かに怒りが含まれている様に感じた。返答次第では好感度に影響を与えかねない……関係性に亀裂が入るとは思わないが、誠意を示すのも大事だろう。己が発端である事には同意しかない、という理由もあるが。
    「それはすまなかった」
    「やけに素直ね……」
     アイスグレーの奥に不審の二文字がはっきりと見える。別の言葉に置き換えたとて、言わんとしている事は分かるとも。この世で最も愛する者から鈍色の眼差しを受けて、良い気分になる男はいない。だが、
    「俺としては目的を達成出来て満足だからな」
     この麗しき濡烏の佳人が誰のものなのか、有象無象に知らしめる事が出来たのだ。
    「…………ねぇ。差し支えなければ、聞いても良くって?」
    「あぁ」
     オンナの勘、とやらが動いたのだろう。声色は普段と変わりはない。その上、輝く瞳から疑念の色は消え去っていた。代わりに純粋な疑問が浮かんでいる……ように見える。相槌を打った後、口を閉ざしたが十数秒後、再度言葉を投げかけてきた。
    「その目的ってさっきの……恥ずかしい言葉と関係あるのかしらん?」

    ◾️

    「ほぅ、鋭いな」
     芯を突いた問いに改めて思う……オンナの勘は侮ってはならぬと。俺を含め数多くの人間から自身に向けられる想いには気付かぬ事も多々あるのに、何故今回は直球で辿り着いのだ……解せぬ。だが今優先すべきは、ゴリアテの勘を元に導き出された言葉に成否を出す事だ。
    「ん……」
    「……」
     こちらへ向けられていた瞳の位置が徐々に下がり始め、爪先まで手入れが整った指を唇に当てる。思案を始めた合図だろう。聡明なゴリアテの事だ、どのような答えが出るのか……非常に楽しみだ。
    「まさか……人前で見せ付けたかった……とかじゃないわよ、ね……?」
     星々の如く輝きが散りばめられた瞳と俺の目が、互いを映し合う。その刹那、ゴリアテの表情が怪訝なものへと変わったのは、自身の顔のせいだろう……すまない!
     言葉尻に疑問符が付けられている事などどうでもいい! 俺は、俺は……心の底から感動しているのだ……!!
     徐々に震え始めた己の拳に視線を落とした麗人の瞳に、不安の色が混じり始める。全く必要無い感情を持たせてしまった事に少々心が傷んだ。が、それすらも必要無い行為だろう……この震えは喜びから来るものだからだ!!
     調子が悪いのかと、様子を伺うが如く極めて冷静に声を掛けてきた。これ以上沈黙を貫く必要は無い。お前の思考をマイナスの方へ向かわせはしないさ。
     一呼吸置き、喜びの震えを止める。目を細め不快感を与えない程度に片方だけ口角を上げ、アイスグレーの瞳をしっかりと見据え、口を開いた。
    「素晴らしい推察だ!! 心身共に通じ合っており、俺の妻なのだから当然だったな!!」
     ゴリアテだけでは無く、周囲の連中に聞こえる位の声量で言い放つ。愛する恋人に気付かれないよう『俺の妻』の箇所を強調したのは言うまでもなかろう。
    「ちょっ……!ま、また……!」
     未だ心に潜む羞恥が拡がり始めたのか、佳人の頬に朱が差し掛かる。罵倒……と言う程では無いが、言葉で遮られ違う方向に話が進んでしまう前に理由を言っておいた方が無難だろう。
     大衆からも向けられる事には腑に落ちんが、これもまた好機である事には変わりない。輝きに満ちた瞳を見据え、口を開く。
    「お前が歌っている最中に熱を帯びた目を向ける不届者の存在を認識してな……」
     復活していたはずの騒々しさがいつの間にか静まり返っていた。ここにいる全員が俺達の方へと意識を向け、一言一句逃すまいと神経を研ぎ澄ませていたのだろう。
    「……そうだったの?」
     どうやら結論が見えていないようだ。勘よりも先に天然が発動したのだろう……この手の話は俺以上に鈍い時があるのだ……仕方がない。
    「俺のものに不埒な思いを忍ばせて視線を送るなど言語道断」
    「……え、と」
     全てでは無いが言葉の節々から徐々に理解へと向かっている様に見える。……これ以上引き延ばす必要は無いな。奴らの視線に苛立ちも湧き上がってきた所だ。
     暇を持て余していた方の手で触り心地の良いゴリアテの頬を撫でながら、淡々と言葉を紡いでいった。
    「結果は見ての通り……お前は恥入ったものの拒絶はしなかった。そして、周囲に知れ渡った」
    「…………叫び声とか野次が飛び交っていたのは、そういうことだったのね……」
     実際の光景を奴は見てはいないのだが、鮮明に浮かんだのだろうな……疲労の色が顔に滲み出ている。しかし10秒も経たずに美しい花の様な笑みを携えたいつもの表情へと戻っていった。考えても仕方がない事だと、思考を切り替えたのだろう。
     このまま引き摺って負の連鎖を引き起こしそうになっては……と思案の回路へ進みそうになったが杞憂だったな。ゴリアテと同じ様に気持ちを切り替え、会話の続きへと舵を取る。
    「良い気味だ」
     未だ続く静寂の中、声量を少々強め一言だけ放つ。俺の言葉を受けて羞恥と呆れを表に出しつつも、甘い笑みを保ったままの佳人を肴に飲む酒は極上そのものだった。

    ◾️

     心底楽しそうにお酒を飲むグレイグの姿に、呆れが止まらなかった。彼の目的を聞いてアタシの心は重く……なんてことは無くて。むしろスッキリして清々しいっていうか……こう……とても軽くなって今にも空を飛んじゃいそうなくらいフワフワな感じって言うのかしら?
     うーん……的を得ないから伝えるのが難しいわね……。あ! もう一つあったわ。うふふ、それはね……。
    「……なんかちょっとだけモヤモヤしていたのがバカみたいって思っちゃったわ」
     クスッと笑みを零しながら話した。そう、面白くなっちゃったのよね……きっとバカバカしいって思っちゃったのかもしれないわねん♡
    「待て、どう言う意味だそれは」
     グラスを置いた彼は、睨み付けるように刃物のように研ぎ澄まされた視線をこちらへと向ける。そ、そんなに睨まないで欲しいのだけれど……だって怖いんですもの!
     自身の表情が少しづつ変わっていく様が見なくてもわかる。それはグレイグも同じだったみたいで、鬼って言っても差し支えないくらい怖い顔がいつもの険しい表情へと戻っていったわ。もぅ! 小さい子じゃ無くても泣いて逃げちゃうわよそれ!
     ん……話が逸れちゃったわね。彼の顔がまた魔物みたいになる前に早く話しちゃった方が良いわ。なんて思った時、良いタイミングで美味しそうなおつまみを差し出してきた店主ちゃんに気を取られたけど、すぐに翡翠の瞳へと戻した。
     アタシがよそ見をした瞬間、彼の目の奥に独占欲を含んだ真っ黒い炎が灯ってしまったことなんて、アタシには全くわからなかった。どうしてかって? だって、グレイグとの視線が交じった時は至って普通の……鋭い眼光だったから。
     そして、アタシは気付かないままもう一度笑顔を見せて、口を開いた。
    「……チラッて貴方を見た時店主ちゃんとお話していたのが見えて、その……乙女心がキュウってしちゃったけど……。今の話を聞いたら、あの時も『自分のものだからな!!』みたいな感じで言っていたんでしょう? って思ったら……アタシ……必要のない思いを自分で作っちゃったのねって……。そもそも……アタシは貴方のことを……」
     そう……彼の方を見た時お話中だったのを覚えている。とは言え表情が楽しそうではなかったのよね……今ならわかるの、アタシのことを言っていたのねって。この人のことだからステージ鑑賞が楽しくて、熱が入り過ぎていたのかもしれないわね。
     当時のことを思い出した時、また乙女心がキュウってしちゃうかと思ったけど……ならなかった。だって、あの時の感情は綺麗さっぱり無くなっちゃったのだから。
     恥ずかしくなっちゃって瞼を閉じたのと同時に、何故かテーブルが悲鳴を上げる。それも何度も何度も。もちろんアタシのせいではない。原因はーーーー。
    「ッッッッ!!」
    「グ、グレイグ!?」
     片手で顔を覆い、もう片方は強めに叩き続ける彼に……正直引いてしまった。少し前とは違う種類の……不気味さを含んだ怖さがあった。どうやら自分だけではなく近くにいる人達も同じみたい……って、なんとなくだけどそう感じたわ。
     チラッと見てみると、恐怖のあまり顔が引き攣っている人もいた。うん、当たっていたわね。そうなるのもわかるわ。アタシだってちょっと引き攣ってしまってるんだもの。
     指の腹を唇に当てて違うことを考えている時も、グレイグの奇行は続いている。そっと肩に触れてみても止まる気配は無い。 ねぇ、どうしてしまったのよ!?
    「……」
     数分経った後ピタリとテーブルへの攻撃が止まった。少し……いいえ、まあまあへこんでしまっている所を見て、どうしてこんなことになってしまったのか……なんて全く必要のない疑問が生まれてしまった。でも答えは簡単ね、アタシが喋ったことを聞いてわけわかんない行動に出たグレイグのせい、よ。何この時間、意味がわからないのだけれど。
     ちょっと辛辣になりかけてたけど、グレイグを心配する気持ちは心の片隅に存在していた。
    「俺は……俺は……何という勿体ない事を……!!」
     彼の心の葛藤(?)が止まって整理が出来たのかもしれない。もう一度肩へ手を伸ばしたけど、グレイグが何かを呟いていることに気付いて触れる直前で引っ込めた。
    「えっ?」
     もったいない……? 何が……? どういうこと……?
    「博愛が心に根差しているゴリアテの嫉妬に濡れる表情という希少な……殆ど無いと言っても過言では無い……いや時折はあるであろうイベントを見過ごしていただと……!!」
    「…………」
    『…………』
     胸が少し苦しかったのに、この言葉を聞いた途端……一気に感情が消えて無くなってしまった。ねぇ、アタシの心を振り回していた時間を返してちょうだい。
     ここを中心に白けた空気になっていくのが肌で感じ取れる。皆が心の中で「この人何言ってんの??」って思っているのも、何となくだけどわかったわ。うん、アタシもそうなんだもの。
    「頼むゴリアテ!! もう一度見せてくれ!! 勿論此処では無くベッドで俺に組み敷かれて泣きながら……!!」
     がっしりと肩を掴まれ動けないように抑えられた上に、鼻と鼻がくっつきそうなくらい至近距離でとんでもないことを大声で言う……このおバカさんは……!!
    「ほんっっっっとにいい加減にしてちょうだい!!」
    「「「それはこっちのセリフだよこっっっっのバカップルがよぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」
    『シ、シルビアさんが泣かされるだとぉ!? み、見たい……!! 羨ましい……!!』
    『くっそおおおおお……!! 将軍め……!! 羨ましいだろおおおおお!!』
    『最高のネタ提供ありがてええええ!!』
     叫び声、悲鳴、笑い声、酒瓶が割れる音にイスが投げられて壊れる音……この日の一番の盛り上がりだったのは、一目瞭然だった。自分達に修理代の請求書が届くかもしれないと、焦りが生まれたのは……仕方のないことよね……。
    「外野が勝手に騒ぎ始めたか……。俺達のせいにされては困るな」
     騒がしくなった面々へ睨みを効かせる為にグレイグが席を外す。その……アタシ達……いいえ、貴方が元凶だと思うの……なんてもっともっと燃えて大変なことになるってわかっているから、言える訳もなく。
    「向こうはあの人に任せた方が良さそうね……。うん、そうしましょ」
     その隙にすっかり氷が溶けてしまったお酒ちゃんに、待たせてごめんなさいね、とウィンクと一緒に謝りの言葉を紡いだわ……もちろん返事なんてある訳もないけどね。
     それじゃ頂きましょ!と、グラスの縁に唇を寄せる。フルーティーな甘い香りが鼻を楽しませてくれて、幸せな気持ちがゆっくりと湧き上がってきたの。どのような味なのかしらん♡と期待を胸に口に含んだ途端、爽やかな酸味が広がっていった。
     色を先に見ていたから少し驚いたけど、とても飲みやすくて自分の中で評価がぐんぐん上がって行く。なぁんて美味しいのかしら!
    「グレイグに感謝しなくちゃねん♡」
     彼の方へ体ごと向けると、騒いでいた男性や女性が青白い表情で必死に頭を下げていた。ちょっと可哀想だと思ったけど……どうにか丸く収まりそうね。アタシの視線に気付いたらしく、こちらに振り向いたと同時に投げキッスを送ったら、また悲鳴が上がってしまった。そして鬼の形相に変貌したグレイグが怒りながら、再び鎮めに行ったわ……。
     えっと、もしかしなくても今のはアタシが原因……?
    「ア、アタシやらかしちゃったのかしらん……」
    「誘惑、に捉えた人がいるかもしれませんね」
    「う、うそ……」
    「先程の会話の通りの事態になるとは……」
    「戻ってきたら謝った方が良いのかしら……」
    「もしくは早めにお休みになるとか……ですので、もう一杯如何ですか?」
    「え、あ、そうね、お願いするわ……でももう少しゆっくり味わいたい気持ちもあるから、空になったらお声掛けしてもよろしくて?」
    「畏まりました。ですが夢の世界に旅立ちたいのでしたら、早めにお飲みになった方が良いかもしれません」
    「そ、そうね……」
     彼が戻って来るのが早いか、アタシがおやすみしちゃうのが先かは……どちらに転ぶのかは、この赤いお酒だけが知っている……のかもしれない。

    ◾️

     あの騒ぎからだいたい2時間後、アタシ達は宿に戻ることにした。戻ってきた彼に軽くお説教を受けちゃったけど、許してくれたのよん♡
     だから、心が広い男ってカッコよくて素敵よ♡って思ったことをそのまま言っちゃったら……、み、皆がいる中でキスしてきたの……。恥ずかしかったのは勿論だけど、また騒ぎになっちゃって……あ、殆ど同じ展開だったからカットよカット! ハイ、この話は終わり!

    ◾️

     酒場から出てほんの数メートルくらいなのに、人々の姿はなかった。眠りについた夜の町は少しだけ不気味に感じるけど、静かで穏やかな面もあって……何となく心が落ち着く時もあるの。
     歩く速さを合わせてくれているグレイグが、チラリとこちらに視線を向けてきた。それだけではなく、手を腰に添えたの。きっと飲み過ぎちゃったアタシを心配してくれたのね……。
     ありがとう、って伝えたら、男として当然の事をしたまでだ、ってカッコいいことを言ってきたの。乙女心がキュンキュンしちゃったのは秘密ねん♡ だって言っちゃうと調子に乗っちゃうんですもの!
     ……あ、眉間のシワと鋭い目付きはそのままだったけど、少しだけニヤニヤしてしていたことを思い出す。アタシ何かおかしなことでも言ったかしら?
     酔いがちょっとだけ回っているの頭では、思考は纏まらなくて、最終的にはわからないからやめ!で終わりへと向かった。はずだったんだけど……。
    「そう言えば」
     唐突に思い出したことがあって、思わず言葉が零れ落ちてしまう。側にいるグレイグの足がピタリと止まり、つられてアタシも立ち止まる。腰に触れていた手に力が入ったのか、指先が肌に少しだけ食い込んだ。
    「どうした? 飲み足りなかったか?」
    「違いますぅ!あの赤いカクテル……何て名前だったのかしら?」
     いつの間にか忘れてしまっていた、気になっていたこと……それは頂いたお酒の名称! 香りも良くて甘くて飲みやすかったから、今度お邪魔した時のために知っておきたかったの。
     グレイグの視線が刃物のように鋭くなってすぐに元に戻ったのだけれど……どうしてなのか聞く前に彼の口から言葉が降り注いできた。
    「……あぁ。あれは…………そうだ、シー・ブリーズと言うのだ」
     先程と違い不満が織り混ざった声に違和感を覚える。何かはわからないけど……オンナの勘がそう囁いているの。
    「知ってたの?」
    「…………」
     これは……もしかしてだけど……。
    「店主ちゃんに聞いたの?」
    「……そうだ」
     この場で聞かれたくなかった、ってこと……? 何を考えているのかアタシには思い付かず、今度は彼よりも先に話した。
    「もぅ……どうして怒っているの? 知らなかったってバレちゃったからなの?」
     眉間にあるシワが3本増えた上に、眼の奥に鬼が潜んでいて顔の険しさも3割増になっていて……正直怖かったわ。ほんのりとした心地の良い酔いが一気に覚めて、代わりに生まれたのはまたしても恐怖。この数時間で色んなことが起きて、様々な感情が生まれては消えて……気持ちの良いままで今日という日を終えることが出来ないのかしら……。
     アタシの変化に気付いたのか、視線だけで息の根を止めることが出来るんじゃ……って思ってしまうくらい怖かったグレイグの瞳が、少し柔らかさを取り戻す。
     腰に回していたはずの骨張った大きな手が、優しく頬を撫でる。布越しだから熱は伝わらないけど、思いはちゃんと届いているから……ありがとう。
     心に纏わりついていたものが暖かいものへと変わって全身を巡っていく感覚が、手に取るようにわかる。これ以上何も起きずに戻れますように、って願わずにはいられなかった。アタシの状態が戻った、って気付いているのかはわからないけど、グレイグは「それもあるが」と零し、話を続ける選択をしたみたい。
    「外野に邪魔されない場所で俺の方からあの酒について語る予定だったのだ」
     淡々と降り注ぐ言葉に、アタシはフライングしてしまったのだと気付く。翡翠の瞳には悲しみの色は見えなかった。とは言え、彼なりのサプライズを潰してしまったことには変わりはないから……謝らずにはいられなかった。
    「そうだったの……ごめんなさい」
     穏やかな風が小さな枯葉を、アタシの足元へと運ぶ様子が目に映る。そしてそのまま通り過ぎて行くのを、瞳だけで追っていた。完全に見えなくなった時、彼の手で無理矢理視線を合わせられたの。先程の険しさは既に無くて、代わりに呆れを全面出した表情へと変わっていた……眉間のシワはそのままで。
    「常々男連中に乙女心や女心がわかっていないと叱責をしている割に、お前は男心を全く理解出来ていないではないか……。今に始まった事ではないのだがな」
    「う……だって……」
     デリカシーなんて言葉は頭に無いし、ドアを蹴飛ばして土足でズカズカと乙女心に踏み込む人に言われるなんて……! でも耳が痛いわ……男心がわかっていなかったのは事実なんですもの。
     どうにか言い返そうと記憶の中を必死に探し回るも何も見つからなかった。そもそも突破口になる出来事を見つけて言った所で「今はその話をしてはいない。論点をすり替えるな」って跳ね返されて、機嫌を悪くした彼の手で事態が悪化してしまいそうな予感が脳裏を過ったの。オンナの勘を侮ってはいけないわ。
     結局何も言えずにアタシはちょっとだけ唇を突き出すような……まるで拗ねた子供のような態度に落ち着いたの。見開いた翡翠の瞳が揺れ動いて、ゴクリと唾を飲み込む音が鮮明に聞こえた。
     ゆっくりと降りてきた無骨な男の唇が額に触れる。最初はびっくりしたけど、徐々に気恥ずかしさが生まれて力を込めて瞼を閉じたわ。彩り豊かな鮮やかさから漆黒へと世界が変わる。でも怖くはなかった……むしろ視界を遮ったことによって心が安定したの。
     それと同時に額から離れたグレイグが「俺にのみ無防備なゴリアテの姿も味わい深い……良いオカズになるではないか……」って、頭の中に入れたくないことをブツブツ言っている。うん、と……聞きたくないから記憶から抹消するわね、えぇ、そうしましょう。
    「……」
     恐る恐る瞼を開くと、少しだけニヤついている彼の姿があった。その……気持ち悪さを感じちゃったのは……アタシだけの秘密よ。
     頬を再び撫でる手をやんわりと遠退けてみるが、気分が良いみたいで咎めるような目付きに変わることはなかったみたい。彼の中でこの話はもう完結したのなら、早く戻ってお風呂に入りたいわ……暖かいお湯に浸かってお気に入りのアロマオイルの香りを楽しんで……♡
     なぁんて想像を巡らせていると「あぁ、お前は乙女なのだからな」と急に話し始めた。本当に唐突だったからスルーしちゃいそうになったけど、何とか拾い上げることが出来たわ……って、終わったんじゃなかったの!?
    「何なのよもぅ! わかってるじゃないの! このイジワルスケベ!」
    「無駄だ、今の俺にその様な罵倒は効かぬ」
    「ム、ムカつくわね……!」
     心の底からイラッとしたけど、彼のいう通りこれ以上悪口をぶつけても効果が無いのは間違いないと直感が告げてきた。アタシ自身もそう思っていたから、すんなりと受け入れたわ。なので、早く帰りましょ、って言葉を紡ぐよりも前にグレイグの言葉に遮られた。
    「謝る必要は無い……あの状況で言うのは至難の業だった……そうだろう?」
    「そ、そうね……」
     怒号に悲鳴に荒れまくった酒場の様子が、無意識に頭の中に浮かび上がる。うん……彼じゃなくても、あんな時に話すことなんか出来っこないわ。思い出してしまったせいで、心臓の辺りが重くなる感じがして……なんかもう疲れちゃったから考えることを放棄しちゃったわ。

    ◾️

     月明かりに照らされた恋人の横顔には疲労の色が濃ゆく、心身の調子が降下しているのだと思い至る。この数時間で起きた出来事が元凶だろう……決して俺の言葉に依るものでは無い。
     僥倖な事に、ゴリアテの意識は己自身に向いており、周囲に人間の気配を一切感じなかった。悟られない様に緩やかに移動し、異議を唱えられる前に迅速に抱き抱える。文句の一つでも飛んでくるかと待ち構えるが、疲弊し切っているのか黙り込んだままだった。
     されるがままの佳人に満足感を覚え、世界一の果報者だと錯覚を起こしてしまいそうだが、余計な事態を招き足元をすくわれる事の無いようにある程度神経を研ぎ澄ませる必要はある。
     それでは……行くとしようか。

    ◾️

     目的地が視認出来る範囲に辿り着いた刹那、ふと脳裏を過ぎる。
    「ゴリアテ」
     今は二人だけの世界だと認識しているのだろう……夜空へ向いたまま呑気に口ずさんでいる。思案するまでもない……楽しんでいるという結論に落ち着いた。普段の天真爛漫で凛とした佇まいも良いが、油断し切って隙だらけの姿も格別と言えよう。
     多少の酔いが後押ししているのか、普段よりも蕩けた瞳がこちらへと緩やかに動いた。
    「……ん、なぁに?」
    「お前は俺に対して何かを言い掛けていたな」
     歩みを止め、しっかりと見据える。逃走、といった行動へ移す可能性を潰すべく、横抱きのままで問いを投げた。
    「え? えっと…………あ、あの時ね。えぇ、そうね」
     瞬時に判断出来ず何を指しているのか見当も付かなかったようだが、次第に鮮明になったのだろう。無意識の内に揺れていた眼球が再び定まる。
    「続きを教えろ」
    「続き? うんとね……」
    「あぁ」
     言葉として世に放たれる前に中断してしまった為、己が何を伝えようとしたのか薄れてしまっているのだろう。急かしても仕方がない……広大な記憶の海から美しい手で掬われるその時を、ひたすら待つ。と、構えていたのだが、数分も経たずに麗人の身に変化が訪れた。
     視界に広がる濡烏の佳人の頬には赤みが差し、口元は真一文字に結び、輝きに満ちたアイスグレーの宝石が緩やかに閉ざされてしまった。
     劇的と呼ぶには刺激が足りないが、ゴリアテの中で心境を揺さぶる出来事が発生したのは誰の目から見ても明らかだ。つまりは……掬い上げた言葉が、俺にとっては好ましいものではないかと推察出来る。
    「その、忘れちゃったわん♡ もうアタシったら忘れんぼうちゃんなんだから〜♡」
     脳内で高らかに鐘の音が鳴り響く。当たりだ、と確信を得た。喜びの感情が胸で暴れ回るが、表情に滲ませてはならぬ。乙女の勘に気付かれてしまい、不要な警戒へ促す流れを作ってしまう可能性があるのだが……今回は気を張る必要は無いだろう。
     どう見てもゴリアテの分が悪い。言葉の間に見えた一瞬の動揺を塗り潰し、俺に機会を与えない事を優先にしたのだろう。気を張る余裕は、確実に無い。無意識に己の口元が歪んでいく。貴様がよく口にする、いやらしい笑みへと。
     視線が交わった刹那、ゴリアテの表情が固まる。意識を向けるのが遅かったな……。
    「駄目だ言え。黙るのならここで抱いて言わせるぞ」
     半分は冗談だが、狼狽えてしまっている佳人の脳内では判断出来ないだろう。冷静を取り戻し面目を保とうと笑みを作るが、自然なものでは無い。
    「わ、わかったわよぉ! い、言うから!」
     どう足掻いても逃れる事は不可能だ、と結論に至った瞬間、諦めの色が瞳に滲み出る。
    「最初からそうすれば良いんだ」
     心の底から生まれた言葉が一言一句違わず、口から零れ落ちる。粘り強さでは俺の方が上回っていると、まだ理解していないのかお前は。
    「もぅっ! 勝手なんだから……! あのね、アタシ……あの時」
     美しい眼差しが鋭さへと切り替わる。しかし攻撃力は全く無い。愛らしさすら感じる文句を皮切りに、途切れながらも言葉を続ける。
    「……」
    「……アタシは、貴方のことを……信じているから……悲しませるような人じゃないって」
     宵闇の世界に混じり合う事のない虹の色が、一滴だけ降り落ちた。非常に小さなその輝きは、すぐに消え去ってしまうと思われたが……そのような事は無く。
     瞬時に世界を塗り替え、鮮やかな色を与えていく。全身に、ゴリアテへの愛が、想いが、駆け抜ける。不思議と腕に掛かっていた重みも、消えていった。
    「ゴリアテェェェェェエエエエエ!!!!!」
    「キャァァァァァアアアア!!!!! いったぁぁぁぁああああい!!!!!」
     町中、夜、騒音、迷惑、という言葉が吹き飛んでしまうくらい、俺は……否、俺達は叫んでしまった。宿が近い事すら記憶から消え去っており、二人分の叫び声に気付いた誰かがこちらに向かっている可能性が発生してしまったが……思案する余裕は全く無く。
    「もぅ!! いきなり手を離すなんて酷いじゃない!! おしりにアザが出来たらどうしてくれるのよ!!」
    「お、俺の恋人が……将来妻になる恋人が愛らし過ぎる件について……!!」
    「なんなのそれ!? 意味わからないわよ!?」
     非常に気になる発言が飛び出したのだが、その時の俺はゴリアテの言葉に捉われていた。紙一重で好機を逃してしまったが、脳の片隅に『尻』の文字のみ留める事が出来たのは不幸中の幸いと言っても過言ではない。
     ……そんな事は今は重要ではない!! 焦点にすべきは妻の言葉そのものなのだ!!
    「貴様が店主に気を取られた時に生まれた黒い感情が一気に消えてなくなった……!! 何と言う清らかさ……!! とてつもない浄化作用なのだ……!! お前は俺の太陽……俺だけの太陽……!!」
     絶大な破壊力を前に踏ん張っていた足が崩れ落ちる。しかし愛する者の瞳に情けない姿を映し出す訳にはいかぬ! 喜びに浸りそうになる心を震え立たせ、気力を振り絞り、再び立ち上がる。
     呼吸を整えながら輝きを放つ宝石を見つめると、その双眸には疑問の色が浮かびあっていた。
    「はいぃぃぃいい?????」
     目を見開き少々口を開く……間の抜けた表情の上、乙女に似つかわしくない発言だが……多めに見よう。一秒足りとも無駄にしたくないのだ!
     程良い弾力の美しい肢体を貫き、悦に支配された甘え声で鳴かせ、お前の中を存分に堪能し……一つとなってこの喜びをゴリアテにも分け与えたい。
    「今すぐ戻って抱くぞ!!!!!」
    「な、何言って、誰か助けイヤァァァァァアアアアア!!!!!」
     生まれながらに持ち合わせている品を保ったまま、麗人の唇から放たれた渾身の叫びを真っ向から受け止める。今の俺にとっては擦り傷にもならん!
     逃げられぬ様にしっかりと細腰や背に腕を巻き付け、熟れた果実の如く紅い唇を喰むまで…………数秒も掛からなかった。



    おまけ
    〜シルビアの悲鳴を聞き真っ先に駆け付けた姫と双子姉に説教(物理)を食らい、渋々SUKEBEは諦めた英雄だけど……?〜
    【深夜、宿屋の一室にて】
    「ゴリアテ、お前は尻がどうと言っていたな?」
    「えっ!? ど、どうして……」
    「気が動転していたがその言葉だけは残っていた」
    「き、聞こえていたなんて……!」
    「安心してくれ、抱くのは明日にするとも。優先すべきはお前の美しい尻に何が起きたのか把握する事だ」
    「大丈夫!! もう大丈夫だからーーーー!!」
    「さぁ脱げ!! 見せろ!!」
    「アタシの話を聞いてってばーーーー!!」

    おまけ終

    おまけ2
    〜例の件の行方からの、青年達の静かなる戦いへ〜
    【翌朝、朝食を取る前にて】
    「シルビア様、よろしいでしょうか?」
    「アタシ? 何かしら?」
    「……俺が行こう」
    「もぅ……呼ばれたのは貴方じゃなくてよ? アタシ行ってくるわねん♡」
    「何かあればすぐに駆け付ける」
    「そ、そう……。お宿のカウンターに行くだけだから大丈夫だと思うけど……」

    ◾️

    「こちらお預かりしている書類です」
    「書類……? どこかの公演の契約書かしらん? 預かってくれてありがとう♡」
    「は、はい……!」
    「…………ゴリアテ、さっさと戻ったらどうだ?」
    「そうね、じゃあまたねん♡」

    ◾️

    「……紙か?」
    「内容は何かしら……?」
    『請求書』
    「「…………」」
    「……この件は俺が片を付けよう」
    「でも」
    「破壊行為は有象無象共に非があるが、それらの原因は俺達だからな」
    「う、うん……」
    「だが、愛するお前に払わせるなど……男の風上にもおけん」
    「グレイグ……」
    「俺の手持ちで解決出来る額か……。即座に終わらせよう」
    「え、朝は閉まってるんじゃ……」
    「この紙切れを渡す為に態々早朝にこの場へ来たと推測すれば、店は閉じていようが人は起きているだろう」
    「ん、確かにそうかも……」
    「すぐに戻る」
    「えぇ、行ってらっしゃい♡」
    「……あぁ(愛妻の見送りか……素晴らしい……)」

    ◾️

    「彼が戻るまでお食事はおあずけにしようかしら……?」
    「朝っぱらからイチャついてるなお前ら……」
    「おはようカミュちゃん♡」
    「おぅ……オッサンが戻ってくる前にさっさと飯食っとくか」
    「……ねぇ、良かったら一緒に食べても良くって?」
    「お、おい、お前今飯は後でって……」
    「それは一人で食べるのは寂しいからよ! でもカミュちゃんがいるなら……ね?」
    「お前……」
    「何かしら?」
    「(マジかよ天然でやってんのかコイツ……!)」
    「ほら! 注文しに行きましょ!」
    「わ、わかった……」
    「あーーーー!! 抜け駆けかこの野郎!! あ、おはようシルビア! 今日も綺麗で可愛いね! 僕も一緒に食べたいから隣座っても良いよね? うん、ありがとう!!」
    「お、おはようイレブンちゃん♡ 貴方もカッコいいわよん♡ もちろんどうぞ♡」
    「…………チッ」
    「一人で良い思いするのは……当然ダメだよな? 相棒?」
    「めざとい勇者様だぜ……」
    「あのオッサンに先を越されてムカついてるのに、君にも同じ事されるのは……わかるだろ?」
    「知るかよ、俺には関係ねぇし。勝手に一人でムカついてろよ」
    「言ってくれるじゃないか……」
    「もぅ! 二人だけで盛り上がるなんて……悲しいわアタシ……」
    「ごめんシルビア盛り上がってなんかいないから寧ろストレス増し増しでキレて暴れそうになってたんだ!! 謝れカミュ!!」
    「原因はテメーだろ!! 俺に擦りつけるな!! ハァ……これ以上バカに付き合うのは無駄だな……飯取ってくる」
    「あっ! カミュちゃん待って!」
    「シルビア!! 僕も行くよ!!」

    勇者、元盗賊、スーパースターの三人で朝食を取りながら談笑(?)中、急いで戻って来た英雄と勇者の罵詈雑言の飛ばし合いが始まったのは言うまでもなかった。あ、元盗賊さんはこの争いに関わらない方針の模様です。
    そんな中、スパスタだけは『元気なのは良いことね♡』と、何処をどう見てそう思ったんだ?と言う多方面から一斉に突っ込みを受けそうな感想を胸に、優雅に眺めていたそうな。
    そして二人の矛先は、シルビア自身へと向けられてしまうのであった……。

    おまけ2終わり
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