彼女の恋人(今はいない人) 花城が酔った時、過去の恋人について語られたことがある。とてもいい人だったの、優しくて、賢明で、人を分け隔てしなくて。私も夢中で、この人と暮らす人生も悪くないって思った。復讐なんてやめて、一人の女として過ごせたらって。でもそう上手くはいかないのよね。彼、スパイだったの。私の思考を全部理解したスパイ。最後は私の手で葬ったわ。
花城はカクテルを傾けて笑った。今日は仕事が少ない日で、狡噛と須郷は別の部署に手伝いに出ていた。それでも仕事は終わってしまって、俺たちは彼らが解放されるまでバーで待つことにしたのだ。
笑っちゃうのは、彼も私の恋人として生きる方が幸せだって思いつつあったってこと。スパイの不安定な暮らしより、祖国を裏切って私と生きる方を選びつつあった。でも私がそれを無しにしたの。いつもの拳銃でね。
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