お気に入り「食べる?」
「えっ」
彼がその、きらきらと輝く赤い苺のショートケーキを特に気に入ってることは高専の皆が知っていた。いつもホールケーキをうきうきで買って来ては、誰かがちょうだいと言っても、一人で丸ごと食べきることが常だった。
「お気に入りなんじゃ、」
「はい、あーん」
目の前に出されたそれを、あーんという言葉につられたまま食べようとして、頭の中に警告が鳴り響く。
食べて、いいのか?食べたら何か起きてしまうのではないか?何が?
…うーん、あとらケーキを担保に何か無理難題を押し付けられるとかかな?
窺うように見た彼の表情からは、怪しいものは何も読み取れない。長いまつ毛に縁取られた目は、ただ「ほら」とフォークに刺さったお気に入りの一口を食べるようにうながしている。
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