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    mujo_taiju

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    mujo_taiju

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    大昔に書いたヴィン→ルク前提の宝ルク+セフィの話。ぼくの考える最強の宝条さん

    シスター・レイにて 私にとって彼女という存在が如何なる立ち位置に置かれた物なのか、推測し言葉にするのは実に容易かった。
     一言で簡素に述べてしまえば、彼女は女である。ごった返した装飾を引き剥がし、その場に遺されたシンプルな回答を事実として述べるそれだけの行為は、ひどく簡単なものだったが、その一言に対して漆黒の長髪に赤い眼を持つ異形の男はひどく憤慨した。
     奴は彼女に対して情慕を抱いていたようであるから、その反応も納得しえるものだった。拳銃を引き抜き銃口を此方に向ける。纏った真紅のマントが翻り、まるで静脈から噴き出す血液のごとく、鮮やかな色彩がシスター・レイから見上げる世闇を彩った。それと同時に、男と並んでいた金髪の男。ナンバーも持たず失敗作であるとこの私が判断したにも関わらず、奴は唯一のセフィロス・プロジェクトの成功品であった。彼が巨大なバスターソードを引き抜き、それに続くようにして男の隣に並んでいた獣が唸り声を上げる。XIIIの刻印を前足の付け根に施された犬にも似た四足の獣は、私がレッドXIIIの俗称で呼んでいたサンプルだと記憶している。飼い犬に噛まれるとはまさにこの事か。だが、それも悪くないと思えた。
     ぎらぎらとした彼等の敵意を浴びながらも私は退屈そうに、ただシスター・レイにエネルギーが充填されるのを待った。
     此処で朽ちる事は、とうに知れた事だった。今更、このような身体に未練などある筈もない。
     数刻前に投与したジェノバ細胞が、私の肉体の内で増殖を始める。肉体はやがて変異し、私の自我は跡形もなく失われるだろう。そうして其処に残るものは、ただの有り触れた異形のモンスターと同じだ。今まで私が生み出してきた無数の失敗作達と、おそらくは変わりない。凡庸な、天才でも無ければ秀才にも為れない、無能な劣等品から形取られるものなど、たかがしれている。ジェノバ細胞を植え込み異形化したうえに、魔晄ジュースを投与してステータスの底上げを測ってはみたが、そもそも自分に劇的な上昇を見込める程のキャパシティが存在しているとは到底思えない。ましてや、ジェノバと魔晄の力で心ばかりの変化があったとした所で、眼前に立ちはだかる彼等を打ち倒す事はまず在り得ないだろうと、私は早々に諦観を決め込んでいた。何せ此方は素体からして腐っているのだからそれも仕様のない話だとも思ったが、実験を施した私を討ち倒すのもまた私の産み出した作品たちだった。そう思えば、寧ろ誇らしくさえ思える。残念なのは、私の肉体がジェノバ細胞にどういった反応を示し、どのような形状に変化を遂げるのか。そうして人を棄てた私からはどのようなデータが採取できるのか。それを知る由が無いという、その事ばかりだった。――後悔は無い。

     私はセフィロスの事をなんと認識しているのか、時折曖昧になる。それらはルクレツィアと私の関係がいかなるものであるのかという問題も孕んでおり、私の持つガストへの深い劣等感とも強く絡み合っていて、ひどく難解だ。例えば1と2を+したとして、答えは3となるが、-した場合は-1が回答となる。私という数字、彼女と言う数字は確固たる形状を保っているにも関わらず、その関係性ひとつで結果は多きく異なったものとなるのだ。セフィロスを私は息子として愛しているのか。それとも彼を我が手によって生み出した最高傑作として誇っているのか。セフィロスを息子として定義するならばルクレツィアは愛すべき妻となり、セフィロスを作品と捉えるならばルクレツィアはセフィロスを生み出す為の素材にすぎない。ただの女とも言えた。そしてセフィロスを私の最高傑作としない限り、私はガストを超越したのだと強く言う事は出来ないだろう。この身を苛む強い劣等感を払拭するだけの材料には、ならなかった。

     命を落とした私は、星を循環するライフストリームの一部となり、次第に個の形は拡散してピントのぶれた写真のごとく、像を結べなくなり己を喪失する。そうして、やがて私は全てを忘れていくだろう。私を愛する等と言った、さながら女神のようでも悪魔のようでもあった一人の女の記憶も、彼女に私が抱いていた感情もろとも全ては飛散して星に帰る。
     その実力を周囲に知らしめて、天才と名高いガストの傍らで劣等感にもがき苦しむ私に対し、女神の如く無償の愛を彼女は送り続けた。その愛は私を癒しもしたが、同時に私を狂わせもした。ガストからの劣等感から助け出すのと引き換えに、彼女はまた別の劣等感を私に与えた。
     ルクレツィア、美しく誰よりも優しくありながら、残酷で軽薄な、何処にでも有り触れたただの女。
     私は彼女を愛していたのだろうか。答えは、応とも否とも言えた。
     人間が愛と呼ぶものはそもそもが、一定下の条件に置かれた脳が分泌する脳内麻薬が魅せるまやかしである。
     種を遺そうとする人間が繁殖相手を求めて惹かれ合う、いわばゲノムに仕組まれた生存本能の一環に過ぎない。
     だが、私も所詮人間だ。平凡で在り来たりた無能な科学者の一人である以上、理性より遥かに奥深くで眠る仄暗い部分で、脳内麻薬の魅せる仮初の感情を疎みながらもその傍らで翻弄され、疲弊し尽くしていた。ルクレツィアに対して私が抱いていたものは、確かに愛と定義して相違ないものであったのかもしれない。
     だが、愛とは総じて人を醜いものへと変える。鬱屈させ妬みや嫉みといった感情を掻き立て、卑屈にさせる。愛というものに理想を抱えていたのならば尚更だ、其処にあるのは夢に見たような美しきものではなく、どろどろとした確執や依存に執着といった薄暗い人間の本質だ。
     ルクレツィア、君はそれを識らなかった。馬鹿な女だ。私は、君がタークスのあの男を愛していると識っていた。タークスのあの男もまた、君の愛に喜んで答えたろうに、それでも君は私を選ぶ。あるいはより多くの知識を会得したいという科学者としての欲求が、そうさせたのか。本来ならば結ばれる筈の相手を切り捨てて、君は自ら進んで私の手中へと堕ちる。愚かなルクレツィア。ガストへの劣等感に苦しむ愚鈍で無能な一人の科学者を、科学者の一人として彼女は放っておくことが出来なかった。そこにあるものはけして愛と呼べるものではなく、エゴイズムの極まった偽善行為にしか過ぎない。それでも彼女は私を愛すると壊れたラジオのように繰り返す。ジェノバ・プロジェクトの成果が上がらないと苛立ち憤慨する私の背を、彼女は優しく抱きしめる。…虫唾が走った。白い彼女の柔肌を何度となく蹴り付け、殴りつけ、踏み躙る。お前はあの男を愛している筈なのだ。お前が結ばれるのはあの黒い髪に紅い目をした、あの男である筈なのだ。このような才能も無ければ人徳すらもない私のようなものでは、ない筈なのだ。然し私の仮説に反し、彼女は私に不気味なまでに忠実だった。ガストの後任として私が研究統括に就いた時も、周囲の人間はこぞって陰口を叩いた。あの男にガストの後が務まる筈がないと、私はその批判に対して激しく賛同した。その通りだと。だが、その中で君だけが言ったのだ。「宝条さんなら、きっと出来ますわ」と、妙に力強くはっきりとした口調で。君は一体私の何を、買い被っているんだ。腐った此の肉袋の中に詰まっているのは、ただ識りたいと願う強い欲求のみだ。其処に彼女の見込むようなものが埋没している訳でもない。ぶよぶよとした土色の肌の下に隠された醜いものを、美しいものへと捏造していく。彼女の頭はけして悪くはなかった。その気になれば真実を探求する事も出来ただろうに、それらの行為を妨害する、全ては期待や理想といった感情の仕業だった。
     然しやがて彼女は気付くだろう。私は彼女に向かい膝を折り曲げ無様に縋りつくようにしながら言った。君の言う愛とやらが真実のものであるのならば、君の胎の中にいるその子をくれ、と。ガストの手放したジェノバ・プロジェクト。それを私が完成させる事が出来れば、常に私の背中へ付き纏っていたガストの影を払拭できるような気がした。
     ルクレツィア、君の子供はその為の犠牲だ。私を楽園へ導くために君と、君の子供を供物として捧げる、君の愛が本物だというのならば出来る筈だろう?
     彼女は暫し目を伏せて思案に暮れたが、やがて厳かに口を開く。その姿たるや、不気味なまでに美しく、まるで神聖なものすら帯びているようだった。
    「貴方が望むのなら」と、彼女は言った。
     遠巻きに立つ赤い目をしたタークスの男が、それらの遣り取りを呆然と見ていたのを私も彼女も識っていた。自らを実験体とする事をタークスの男の知らしめ、奴が制止の言葉を差し向けてくれるのを女は待っていたのか。そうする事で男の気を惹きたかったのか?だが、男はルクレツィアを愛するあまりに彼女を制止する事すら出来ない。感情に翻弄されるがあまり愚かしいまでに引き起こさされる齟齬と擦れ違いを、私は酷く残忍な気持ちでただただ傍観していた。互いに愛し合い、結ばれる筈の二人の男女。男は女に相応しいまでに美しくそして彼女を必ずや幸福へと導くだろう。だが、ルクレツィアを手にいれるのは私だ。醜悪で才能も無い卑屈で劣等感に満ち溢れた平凡な科学者である、この私だ。その事実は、さながら優越感ともとれる感情を伴った。
     愚かしく歪み淀んだ私の愛も、生命の循環の中で解け、やがては消えていくのだろう。
     だが、まだ全てを棄て去る時では無いと思った。私にはまだやるべき事があった。息子の此れからを見届けなくてはならない。
     ジェノバ細胞を己に投与する下準備として、私の記憶する限りのありとあらゆる記録や人格がデータ化し記録していおいた。それらは私の心拍が停止する事で肉体の死亡を感知し、別の器にそれらのデータを写し取る事で、私は再び蘇るのだ。それこそが私の再統合、…即ち、リユニオンである。だが、データとして残したものは私が必要と感じたものばかりだ。不要な感情、劣等感などは妨げになるだけと判断し、必要最低限の知識だけを写し取った。其処に、ルクレツィアへの愛情は残されない。ガストへの劣等感もまた。今まで私を苦しめていた全てを棄て去り、漸く私は研究欲を満たすべく延々と思考し実行するだけの機能を持った、完全な人間へと化すのだ。
     だがそれは正確にいえば、私ではない。本来の『私』は己すらも実験材料として、粗悪なサンプルとさして変わらぬであろう異形と化して死ぬのだ。皮肉なものだ、完全な人間となるのは『私』ではなく『私のコピー』に過ぎない。
     そしてまた、ルクレツィアへの愛を棄て去る事が出来たのも、私ではないのだ。
     私は結局この精神の全てがライフストリームとなって星に溶け出すまで、それらの情を棄て去る事は出来ないのだろう。
     美しいルクレツィア。さながら私を惑わす悪魔のようでもあり、私に手を差し伸べる天使のようでもあった彼女の事を、私は死ぬまで愛し、そして翻弄される事しか出来ないのだ。
     彼女との間に産まれた愛する息子、セフィロス。奴が、力を求めている。父としてその要求に答えてやりたいのか、或いはただただ何処までも強く高みへと登っていく我が最高傑作が、果たして何処まで上り詰める事が出来るか如何かを知りたいが為の知的探究心に過ぎないのか。いずれにせよ、息子の為に死ぬ。それはひどく、悪い事ではないように思えた。
     自分の為に私が死んだともなれば、私を忌み嫌っていたセフィロスからしてみれば相当の屈辱に違いなかろう。嘗ての息子であれば、忌々しげに眉間にしわをよせ、口を噤んでいた所だろう。やがてはライフストリームの中に拡散するであろう昔の記憶の中に描かれる、不機嫌そうな息子の顔を思い返すと、自然と口角が吊り上った。
     何れ産み出されるであろう『私のコピー』には持ちえない優越感を味わいながら、私は人の姿を失って行くのだった。
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