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    IQ低めのバナサ
    なんかもっと良い感じのオチつけて漫画で描いてほしい

    ばなさたいむきらら「悪魔用の自白剤?」

     そう言って夜会でメイクピースから渡されたのは、小洒落た装飾を施された細いガラス製の瓶だった。中身には薄い紫色をした透明な液体が入っている。
     ナサニエルはその液体を照明に透かしながら、しげしげと眺める。草花を模した細かな瓶の装飾が黄金色の光を反射して、きらきらと輝いている。中の液体の色と相まって美しい。しかし、これといって特に変わったところは見受けられず、ラベルのない香水にしか見えない。コンタクト越しにはなにも映らなかった。少なくとも第三の目以上でなくては痕跡が見えない代物らしい。

    「そうとも。ピンのところで手に入れた変わり種でね。そう実用性が高いわけでもないが、罰を与える手間は省ける。忙しいきみには活用できるんじゃないかと思ったが、どうかね?」

     小瓶から視線を外して隣のソファに腰掛けるメイクピースを見ると、得意げな顔をしている。ナサニエルは内心さほど興味をそそられなかったが、にこりと愛想のよい笑みを浮かべた。そんなものなくても、じゅうぶん悪魔たちを操ることはできている。もらっておいて損はないが、後日感想を聞かれるのも、こんなもので貸しを作った気になられるのも面倒だ。

    「そうですね、たしかに興味深い代物です。メイクピースさんは本当にいつも面白いものを持ってきてくださる」

     「ですが、今は特に……」と、そう言いかけてナサニエルはふと思い至った。たしかにこんなものはなくとも悪魔たちに真実を喋らせる方法には事を欠かない。けれども、罰を与えられない悪魔にはこれ以上ないほど有効なのではないか? 自分にはとっておきの存在がいるではないか。

    「――いえ。ぜひ使わせて頂きたいですね。ところでこれの安全性は? 大事な召し使いに使うわけですから害のあるものでは困ります」

    「きみも用心深いな。そこのところは心配いらない。気になるようだったらわたしのインプにでも使っていくといい」

     もっとも、メイクピースはそこまでちゃちな罠を仕掛けてくる男ではない。安全性についてはさほど疑っていなかったが、念のためだ。勧められるまま、自白剤に害のないことを入念に確認したナサニエルは、夜会を早々に切り上げることにした。帰宅したら、早速使ってみよう。使う対象が決まった途端、いてもたってもいられなくなったのだ。
     
     使ってみてわかったが、実用性こそないものの、これは思ったより面白い代物らしい。
     ひと吹きの効果時間はおよそ一分。完全に乾ききれば効果は消える。大量に吹き付ければ、乾きづらくなったぶんだけ効果が延びるが、一気に三十回吹きつけたところで、三十分持つというわけではない。せいぜい五分程度だ。ひと吹きずつ使っていく方が結果としては長く使える。口を閉ざされてしまえば効果を発揮できないので、効果を見破った個体相手には何度もは使えないだろう。届く距離に至ってもそうだ、霧吹きで吹き付けられる範囲でしか使えない。ペンタクルで召喚してすぐの悪魔には届かないだろう点を顧みても、メイクピースの言ったとおり、たしかに実用的とは言い難い。
     それでも、自白剤の効果自体は間違いなく本物だった。悪魔はこの自白剤を前に、自身の本心を隠すことは一切できなくなる。一切、だ。ナサニエルはメイクピースのところの悪魔に試すだけでは効果を確信できず、自身のインプにも使ってみてその面白さを実感した。
     ナサニエルのインプは教育が行き届いているため、普段は慎ましくひかえめで忠実であった。それがこの自白剤を使ってみたところ、そのインプから普段は絶対に言わないであろう鬱憤による罵倒雑言の数々を聞くことができたのだ。効果が切れたあとのインプは顔面が蒼白で、罰を恐れてがくがくとかわいそうになるほど震えていた。インプに手酷い罰を与える選択肢もあったが、自白剤が間違いなく本物であったことを確認できて満足したため、なにも言わずに解放してやった。

     帰りつくなり、ナサニエルは書斎の椅子にどかっと座り、手を鳴らした。

    「バーティミアス!」

     呼びつけたバーティミアスが来るまで、片手で小瓶を弄ぶ。今のこの高揚感だけでも譲ってもらった価値がある。
     すぐに書斎の中央に煙が渦巻く演出があり、煙が人型を形作っていく。それはやがて人間そのものになり、気が付けば目の前には見慣れたエジプト人の少年がくたびれた顔で立っていた。最近はちゃんと解放してやってるから、このくたびれた顔はバーティミアスの大袈裟な演技で、ただのアピールであることをナサニエルは知っている。
     ふわあとわざとらしくあくびをしたあと、少年は首をこきこきと鳴らしながら言った。

    「なんだ、ボス? 今日の仕事は終わりのはずだ」

    「ご苦労。仕事じゃないよ、ちょっとこっちへ来てくれ。もう少し近くまで……ここ、隣まで来てくれ」

     ナサニエルが手招きをすると、「いったいなんだっていうんだ?」といぶかしげな様子のバーティミアスが椅子のすぐ近くまで寄ってくる。ナサニエルは椅子に座ったまま、隣に来た少年の姿をした悪魔を見上げた。例の小瓶を素早くバーティミアスへと向ける。反射的にバーティミアスは身体をのけぞらせようとしたが、しゅ、と小気味のよい音を立てて、中身がバーティミアスへとかかる方が先だった。

    「ん!? なんだ? なにをした?」

     バーティミアスが一歩下がり、自分にかかったものの匂いを嗅ぐ。

    「たいしたものじゃないよ。気分は? 痛みはないか?」

    「いや……痛くも痒くもないしなんの匂いもしない。が、なんか魔法がかかってるな? うっすらだがなにか見えるぞ。なんだ? なにを企んでる?」

    「別になにも」

     いまいち変わったようには思えないが、ひと吹き目はどのみちパッチテスト代わりだった。異常がないことがわかり、安全性において使うことへのためらいは完全に消える。ひと吹きの効果時間が短いため、こんなやり取りの間でもう効果は切れてしまったかもしれない。
     ふた吹き目以降は、これを使うだけの価値のある質問をすべきだ。ナサニエルはごくりと唾を飲んだ。
     もし、このジンの本心を洗いざらい聞けるのならば、なんて興味深いのだろう。だが、今になって新たに別のためらいが生まれていた。どうせ罵倒も雑言も普段から聞いているから、本心でそれを言っているとわかったところでダメージはない。と思っていたが、本当にそうだろうか。
     この自白剤を使ったら、いったいどんな言葉が飛び出すのだろう。ナサニエルの中で恐怖と期待がないまぜになる。
     ……期待? 自分はいったいなにを期待しているんだ?
     ナサニエルはかぶりを振った。一瞬止めかけた指を押し込み、そのままもう一度中身を目の前のジンへと吹きかける。バーティミアスはあからさまに嫌がっているようだったものの、害がないとわかったからかその場でじっとしていた。
     そしてナサニエルは静かに尋ねた。

    「……ぼくのことをどう思ってる?」

     自分で聞いていながら、なんてバカバカしい質問なのだと思った。けれども、短い効果時間で遠回しにやり取りするなんてまどろっこしい真似はできない。緊張で口の中が乾いている。
     バーティミアスは面を食らった顔をしたのちに、生意気な表情で唇を歪めた。

    「はん、ずいぶんかわいい質問だな。そんなかわいいこと言って、このおれを煙に巻けると思ったら大間違いだ。……ん? この際はっきり言わせてもらうが、おまえなんか常々かわいいばっかりで、おれがどう思ってるか知る由もない、は? ごほん。いいか、おれがおまえを好きだろうがなんだろうがおまえにはこれっぽっちも関係ないし……、おい、なに見てる、今バカみたいな顔したな! そんな顔してるとキスしちまうぞ、本当におまえは昔からかわいくてしょうがな……待て、おれはずっとなに言ってんだ?」

    「いや、それはぼくの台詞」

    「なんだ!? やっぱりなにか変だ! おまえおれになにをした!?」

     自分の口から出た言葉の意味よりも、自分の口から意図しない言葉が出たこと自体に驚いてるようだった。バーティミアスが混乱と戸惑いでわけのわからなさそうな顔をする。もう効果は切れた頃だろうか。ナサニエルは、唖然としながら目の前のジンを見つめた。
     今のが本心か? そんなバカな。まさかだろ! この自白剤の効果をバーティミアスに知られていて、からかわれたのではないかと思うような言葉の数々。とても信じられない。あまりにも突飛すぎて、なぜだか頭の中に宇宙の光景が浮かぶ。
     ナサニエルがぽかんと口を開けたまま呆けていると、手に持っていた小瓶をぶん取られた。バーティミアスが瓶の中身を透かすようにして睨み付ける。

    「これのせいだな。かかってる魔法はわからんが、なにか思ってもないことを言わせる力があるらしい。おそらくいらんおべっかをぺらぺら言わせるような魔法だな、くだらない代物だ」

    「返せよ、まだおまえに使うんだから」

    「使わせてたまるか。おれにあんなおぞましいこと二度と言わせるな。こんなの嘘っぱちのジョークグッズだ」

    「ジョークグッズなんかじゃない、本物の自白剤だ。効果は散々試したから間違いない」

     バーティミアスがぴたりと止まる。瓶から顔を逸らさないまま、目線だけがぎぎぎ、とナサニエルへと向いた。

    「自白剤……?」

    「……そ、そうだ。自白剤だ。インプに使ったときはぼくのことを散々こき下ろしたから、おべっかを言わせる効果なんかないぞ。それはたしかだ」

    「……さっきのおれの言葉がおれの本心だと?」

    「……た、ぶん」

     ナサニエルは閉口し、視線を逸らした。そうは言ったが疑わしい。今日試した限り、どの悪魔も仕事に対する不満や主人に対する鬱憤をつらつらと喋り始めては、効果が切れたと同時に自分の発言にぎょっとする、というパターンができつつあった。それなのに、バーティミアスがあまりにも規格外だったので、すっかり自信はなくなっていた。ナサニエルのことを惜しげもなく「好き」だの「かわいい」だの言うだなんて、正直まったく信じられない。今になってその言葉の重みを感じて、ナサニエルは気恥ずかしくなってきていた。そうだ、バーティミアスがそんなことをこれっぽっちだって思ってるはずはない。やはりこれは自白剤などではなく、バーティミアスの言うとおり、なにか思ってもないことを言わせる効果があるだけのジョークグッズなのかもしれない。メイクピースに担がれたんだ。
     ナサニエルは熱っぽくなった自身の顔を平手で仰ぎながら、目の前のジンを見上げ、固まった。

    「……おまえ、」

     バーティミアスが片手で口を覆いながら、ナサニエルと同じく固まっている。目を見開き、耳まで顔を赤くさせて、比喩でなく頭から煙が出ている。成分が燃えているのか? なんだ?
     あまりにも珍しい表情に、状況も忘れナサニエルは身を乗り出してまじまじと観察した。それに気付いたバーティミアスは赤い顔のままゆるゆるとかぶりを振りながら、「こんなの嘘っぱちだ、偽物を掴まされてる」と吐き捨てた。その声は心なしかうわずっていた。

     瞬時に、ナサニエルの心に言い知れぬ熱い感情が湧いてくる。その熱は全身に行き渡り、一気にぶわっと身体が赤くなったのがわかった。体温が上がり、汗が吹き出してくる。
     バーティミアスのその反応が答えではないか。これは本物だ。本物の自白剤で間違いなかったんだ。だとしたら――と、ナサニエルがからからになった喉から声を絞り出す。

    「――お、まえ、ぼくのことかわいいと思ってるのか……」

    「思ってない」

    「ぼくのことが好きで……」

    「好きじゃない。そんなことあるはずない」

    「キ、キスしたいと……?」

    「〜〜ッバカ言え! いい加減にしろ! そんな胡散臭い代物の効果を信じるなんて、いくらなんでもバカげてるぞ!!」

     バーティミアスが姿を変えて大きなガーゴイルの姿になった。石の肌になったためにさっきのような表情の変化や顔の赤らみは感じ取れないが、相変わらず頭からぷすぷすと煙が出ている。ナサニエルの方もさきほどのバーティミアスに負けず劣らず赤い顔だったが、このジンの本心を知った今、余裕ぶった笑みが浮かんでいた。挑発的に、ナサニエルが乾いた唇を舐める。

    「へ、へえ。そう、そうだったのか。おまえがぼくをね……? わからないもんだな」

    「今すぐそのにやけた顔をやめろ。おい、これ人間には使えないのか? おまえにも使ってやる。そしたらすぐにでもこれが偽物だと言いたくなるはずだ」

     バーティミアスが早口でまくし立てながら、ナサニエルから奪ったままでいた小瓶を見せつけるように揺らす。ガーゴイルの大きな指につままれていては、うっかりぱりんと割れてしまいそうだ。

    「ぼくに使ってどうするって? ぼくがおまえをどう思ってるかとでも聞くつもりだったのか? バカだな、おまえ、ちっとも好きじゃなきゃそばに置いたりなんかしないよ」

    「そう言ってられるのも今のうちだな。これを使ったが最後、おまえはあることないことべらべらと喋らされ……ん? 今なんつった?」

    「……好きじゃなきゃおまえみたいなうるさいやつをそばに置いておかない、と言った。わかりきったことだろ」

     ナサニエルは拗ねたように口をすぼめながら言った。バーティミアスが自分を好きでいてくれるなら、と気が大きくなってつい口走ってしまったが改めて言葉にするとなんとも居心地が悪い。さっきから部屋の中が暑いのか自身が火照っているのか、ナサニエルは変な汗が止まらないでいる。
     バーティミアスはしばらくぽかんとしたあとに、石でできたくちばしをがちがちと鳴らして、「そ、そうか……」とだけ返事をした。
     なんとも言えない気まずく生温かい沈黙がふたりを包んだ。

    「……その自白剤は本物だったか?」

     お互い視線を合わせることもできず、それぞれ宙を眺めては時計の針の音だけを聞いていたが、いよいよたまらなくなってナサニエルがおずおずと口を開いた。
     バーティミアスがわざとらしい咳払いをして「さあな」と小瓶をゴミ箱に投げ入れた。ゴミ箱の中でガラスの割れる音がする。惜しい気持ちがないわけではなかったが、今となってはそれどころじゃない。
     ナサニエルがおそるおそるバーティミアスの方を見上げると、思いきり目が合ってしまった。慌てて目を逸らすも、気恥ずかしさで自然と口角が上がる。それを悟られぬよう、ナサニエルはとっさに口元を覆った。

     落ち着きなく指で書斎の机を叩き、次の行動をどうすべきか考えていると、ふっと影が差した。すぐそばのずんぐりと大きな影が自分のことを覆っている。バーティミアスだ。ちらりと盗み見をするも、無言で眼前に立つガーゴイルの表情はさっぱり読めない。
     けれども、バーティミアスの関心と視線が一心に自分へと注がれていることを強く感じた。ナサニエルの胸が高鳴り、言い知れぬ高揚感が湧いてくる。同時に、このジンに好き放題甘えてやったらどんな反応をするのかと、いたずら心がうずいた。
     ナサニエルはおそるおそるとガーゴイル姿のバーティミアスに触れた。

    「……キ、キスしていいと言ったら……?」

     情けない! ナサニエルの声はすっかりうわずっていてしまっていた。初めて師匠に黙ってインプを召喚したときも信じられないくらい緊張していたが、今よりはずいぶんマシだったように感じる。自分側にアドバンテージがあるのだと、堂々としたつもりだったのに、なにも発揮されていない。ナサニエルはガーゴイルの腹のあたりに置いた手で、少しだけその石の肌を撫でた。なめらかな不思議な感触。目線を上げる勇気はなかった。
     またしても沈黙が降り、ナサニエルが自身の発言を後悔し始めた頃、目の前の岩肌があっという間に見慣れた黒い肌に変わった。腰布を巻いたエジプト人の少年の姿だ。
     ガーゴイルの腹に置かれていたはずのナサニエルの手が、今は少年の頬に沿えられた形になってる。体格差のために、さっきまではどうにか目を合わせずに済んだのに、今はがっちりと互いの視線が絡み合う。
     あ、と思ったときには遅かった。ナサニエルは胸ぐらを掴まれて、ぶつけるようにして少年の唇を押し付けられた。歯同士ががちりとあたり、鈍い痛みが走る。想像していたような色気もなにもあるものではなかった。

    「これで満足か?」

     唇を離すなり、挑発するようにバーティミアスが、ふん、と鼻を鳴らした。少年の顔は余裕ぶった笑みが浮かんでいるが、さきほどのバーティミアスをまざまざと思い出す。ナサニエルは「それはこっちの台詞だ」と笑った。



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