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    【新刊予告】CROSS OUT
    ロサンゼルスからニューヨークまで、車で横断するブロマンス赤安です。ひとまず書けているところまで。文庫サイズで、いつも通り挿絵をちょくちょく挟む本にできたらと思います…

    【新刊予告】CROSS OUT「その人の素顔を知りたければ、一緒に旅をするといい」


    【 到着 】
    ロサンゼルス国際空港トム・ブラッドレーターミナル。世界で7番目に混み合っているらしいこの場所は、途切れる事なく人波が押し寄せては引き返し、巨大な波打ち際の様にも感じられた。

    そんな空港の出口付近に赤井は1人、壁に背中を預けて立ってた。ごった返す人混みを抜け何とか日陰を確保したものの、8月の日差しからなる暑さは容赦がなく、首元を次から次へと汗が伝う。乱暴に雫を拭うついでに腕時計に視線を落とす。事前に伝えられたフライト時刻と入国審査、その他諸々を考えるともう間もなく現れるはずだ。

    果たして彼は本当に来るのだろうか。

    数日前から幾度となく繰り返された問いが、再び頭を擡げる。足元に置いたボストンバッグには、数日分の衣類と必要最低限の日用品、そしていくばくかの本が入っている。荷物を詰める間、寸分たりとも興奮を感じなかったかと問われたら嘘になるが、旅の前夜とはそういうものだと納得させた。これで待ちぼうけを食らった末に、傍のボストンバッグを抱えて家に帰った日には笑いものだが、リアリティがあるのはむしろそちらの方だった。

    もう一度腕時計を確認し、顔を上げた。出口から塊のように流れ出す様子から察するに、無事に該当の便が到着したようだ。その老若男女、人種も様々な人混みの中に彼の姿を見つけた。意外なほどあっさりと現れるものだから、思わず呆気に取られる。人の視線に敏い彼も程なくして気付いた様で、同じように少し呆けた顔をして、視線を彷徨わせた後に決心した様にこちらにやってきた。

    「お待たせしました」

    一言では表現し難い、複雑な表情を湛えた彼が、それでも凛とした声でそういった。

    曇りなく照らし出されるような強烈な日差しの中、かつて銃を突きつけあった友人との旅が始まった。


    【 ことの始まり 】
    「赤井君、検査の結果を見たよ」
    ジェームズはタブレットに指を滑らせながら普段通りの落ち着いた声で、休職と言っても過言でない暇を提示して来た。思わず困惑の表情を浮かべた俺に対して、内容に関しては必要以上には憂慮はしていないと、はっきりとした口調で付け足す。彼の言う結果とは、一月ほど前に行われたメンタルヘルスに関する検診を指しており、当日の受け答えはもちろん、結果も一通り目を通したがそれ程までに不味かった覚えはない。

    「そちらを見せて頂いても?」
    「もちろん。でも同じ内容が君の元にも届いて居ただろう」
    「ええ、そのはずです」

    検査結果が表示させたタブレットを受け取り目を通す。冒頭にハッキリとした文字で心神耗弱状態と書かれ、続いて推奨される休暇日数の目安が記されていた。その他の細かな項目にも不調や不安定さを感じる内容が点在し、眉間の皺が更に深くなる。ざっと読むだけでも、傍目にはまともな姿を装いながら、内面では酷く傷つき、今にも崩れそうな男の姿が浮かび上ってくる。組織壊滅の功労者のペルソナ像として申し分無い内容だった。

    どうも、と一声かけてからタブレットを返却する。

    「何か気になる点でもあったかね」
    「いえ。少し確認したい事があるので、引き継ぎに関しては改めてお時間を頂いても宜しいですか?」
    「もちろん、他にも気になる事があったら何でも言ってくれ」

    無理をさせたね、赤井君。心の底からの労りの表情を湛えるジェイムズに、曖昧な返事を伝えてその場を後にした。この分だと自分にのみ正しい検査結果が届いており、本国や決定権のある層には先ほどの内容がばら撒かれている可能性が高い。この程度の作業であれば彼には造作もない事だろう。

    バーボンこと降谷零とは組織壊滅の間際、形式上の和解を済ませたものの、その後も友好とは言い難い歯切れの悪い関係が続いていた。ひた隠しにしていた真実の共有と、幾ばくかの言葉の応酬に全くの意味がないとまでは言わないが、壊滅への大手と並行して互いの気持ちを整理するためには、余りにも時間が足りなかった。業務に支障をきたさない程度の確執がそこはかとなく、けれど根深く存在しており、今も必要最低限のコミュニケーションのみという交流に留まっている。

    結局目的の人物を捕まえたのはどっぷりと暮れた日付が変わる間際の時間となった。駐車場で8本目の煙草の灰を空かんに落としていた所に彼が現れた。小脇にグレーのジャケットを抱え、首元を寛がせ、待ち伏せた俺に驚く様子もなく目の前で足を止めた。

    「お疲れ様です。赤井捜査官」
    「どういうつもりか聞いても?」
    「話が早くて助かります」

    間髪入れずに質問を被せた俺に、とぼける素振りも怯むこともなく彼は言葉を続けた。

    「旅に同行して頂けませんか」

    仕事ではなく、プライベートの旅行になるのですが。淡々とした口調で発せられたその言葉を理解するまでに、大袈裟な表現でなく数分を要した。


    【 再びのロサンゼルス 】
    体にのしかかる様なバックパックを肩に背に、やや不安げに辺りを見回しながら近づく彼は一見でなくとも学生のようにしか見えず、思わず少し笑ってしまった。

    「何ですか」
    「いや、すまない。久しぶりだな」
    「半年ぶりですね。お変わりないようで何よりです」
    「ああ、君も」

    上滑りするような会話は1分と持たず終わりを迎え、気まずい沈黙が二人の間に漂った。彼とはこれから約二週間、寝食を共にしながら過ごすことになる。出会い頭のぎこちない滑り出しは先行きの不安を感じさせるには十分だった。

    「この先にレンタカーの受け取りを手配しています。一応まともそうな業者を選びましたが、あなたの希望があるのなら取り直しても構いません」
    「いや、この辺りは俺も馴染みがない。君の選んだ店でいい」
    「分かりました」
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