ある一日の終わり 南の国に腰を落ち着けてから、もう何年経っただろう。一日の仕事を終え、夕食を済ませたレノックスは、コーヒーを啜りながらぼんやりと部屋の中を見渡した。
床も壁も木張りの、丸太小屋のようなこの家は、自分で少しずつ修繕をするうちに、だいぶ使い勝手がよくなってきた。いま、マグカップを置いているこのテーブルも椅子も、自分で切り出した木材から作ったものだ。はじめは生木のような色だった天板も、今では馬の毛のような褐色に変わって、ところどころ傷や汚れもついている。レノックスは、ゆっくりとテーブルの凹みをなぞった。ざらざらとした、塗料に覆われていない生の木材の感触を指先で追う。それは、存外好ましいものだった。きれいに直してしまってもいいけれど、特段その必要を感じない。手元のカップにふたたび視線を落とす。ゆっくりと上る湯気は、香ばしいコーヒーの匂いをまだたっぷりと含んでいた。
3006