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    COCwarm

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    ⚠注意

    ・二次創作
    ・鴉取も不死身の人になったという解釈
    ・鴉取の従兄弟の鳳目線(ソプスクHO2)なのでソプのネタバレもあるかも
    ・春川の口調わからん。こんな事言わないかも

    鴉取小話唸るような熱さ夏の日
    コンビニに駆け込んでアイスを2本買った。
    薄いサンダルはアスファルトの熱に耐えきれずにジワジワと皮膚に熱を与えている。

    馬鹿みたいに陽の光を吸収する黒髪は、いくら手で拭っても拭っても皮膚に貼り付いて気持ちが悪い。

    グラグラと揺れ始める視界。
    歩きながら食べるようにもう一本買っておけばよかったな…と後悔した。

    目的の建物に着いて大きく溜息をつく。
    都心部から数十㎞離れており、最寄りのバス停から徒歩30分ほどにあるこのボロ平屋は
    庭木は手入れされておらず、郵便物は郵便受けから溢れている。

    「はじめさーん…生きてる…?」

    ちょっと前までまともに生きていたはずの従兄弟は
    突然継いだ神社を放棄し、何もかもを捨ててここに越してきた。

    「入りますよー…」

    相変わらず鍵すら掛かっていないスライド式の扉
    力を込めるが錆びているのか、ただ横に引いただけでは開かないようだ。
    軽く上に持ち上げるように下部を足で押し上げる。
    上下に揺らすように引けばギシ、ギシと音を立ててそれは開いた。

    開けてすぐ、電気もついてない廊下が目に入る。
    暗い為若干外よりは涼しいが、このぶんじゃ冷房の期待はできないだろう。

    「あー…っちぃ…」

    入ってすぐの扉はお手洗い。その正面はたしか台所。
    奥には客間と、突き当りが従兄弟の部屋。
    従兄弟の部屋は一度入ろうとしたら怒られたので近寄らないようにしている。

    歩くたびに床が鳴る風情がある廊下にはそのままの意味で何もない。
    目につくのは歩くたびに舞う埃ぐらいだろう。
    あの人はどうやってこの家で生活をしているのだろうか。
    ここは世を忍ぶ仮の家で別に住処があると言われた方が納得ができる。

    「台所借りますよー」

    俺と従兄弟……もとい、はじめさん昔から仲が良かったわけでもない。
    特段悪いというわけでもないと思うが、なにぶん特殊な家系だったようで
    普通の親戚との関係というのがよくわからない。
    親同士は頻繁に顔を合わせていたと思う。
    はじめさんにちなんで俺に「おわる」なんて趣味の悪い名前を付けるぐらいなんだから。

    ただはじめさんは伯父さんからは滅茶苦茶に嫌われていたというか
    居ないものとしてあの家からは扱われてた気がする。
    原因は何かは知らないけど、俺自体はあの人は別に嫌いではないんだよな。
    ちょっと変わってるところもあるのは否めないけど…

    「なんもないじゃん。マジでなんで生きてるんだあの人…」

    冷蔵庫を開けると冷気が頬を掠めて心地よい。
    中身は相も変わらず空っぽだった。
    冷凍室に手土産のアイスを投げ入れて隣の棚の戸に指をかける。
    指に纏わりつく埃に少し眉を顰め、中のグラスを物色した。

    「流石に水は出るんだ」

    蛇口を回すと水が出る。
    当たり前だけど少しだけ安心した。
    流しに腰を預けて乾いた喉を潤すと、ようやく生き返ったような気がしてくる。

    さっき俺はあの人のことが嫌いではないとは言ったけど
    「苦手」という言葉を適用していいのなら、この言葉が一番適切だ。
    真面目というか、何を考えているかわからないというか。
    表情から何も読めないんだよな。
    あの人の上っ面だけで笑ってる感じがあんまり得意じゃないんだとおもう。

    昔に少し皮肉を込めて「はじめさんっていつも笑顔だよね」って言ったら
    「貴方がそれを言いますか?」って言われたっけ。
    俺の笑顔は職場でも好評なんだけどな。
    一緒にしないで欲しいよ。

    まぁそんなわけで嫌いではないからたまに顔は見たいけど
    いざ対面するとなるとちょっとだけ億劫だ。

    シンクに預けていた重い腰を上げてグラスを流し台に置く。
    よし、と覚悟を決めて台所の扉に触れた。

    「…!」

    その瞬間、背後に鋭い気配を感じる。
    さっきまでこの空間に人の気配はなかった。
    あるとしてもそれはこの扉の向こうであって扉も何もない背後からしていいはずがない。

    再びグラスを手に取り、脳が処理をする前に振り返って背後の気配に向かって投げる。
    現役体育教師の投げる剛球がその人物に当たって砕ける…はずだった。

    振り返るとグラスは宙に浮いている。
    いや、厳密には黒い靄のような物体が包み込むようにしてその場に停滞しているのだ。
    状況の理解がようやく追いついたとき、支えを失ったようにグラスが地面に叩きつけられた。

    ガシャンと音を立てて砕ける。
    そしてその靄の中心が裂け、ぬるりと見知らぬ男が現れた。

    「ちょっと!?いきなりのご挨拶過ぎない??」

    その男は身なりのよい男だった。
    高そうな革靴と腕時計、スーツを身にまとい、桃色がかった茶髪が色味の無いこの空間のせいかやけに鮮やかに見えた。

    「…って、あれ?鴉取さんちょっと雰囲気変わった?」

    金瞳が見開かれた。
    本能が「こいつは危ない」と警鐘を鳴らしている。

    危ないものは排除しなくてはいけない。
    何か得物になるものはないかと視線を巡らせたが、それらしきものはない。
    ならばと拳を構えて身を半歩下がらせた。

    「はじめさんの知り合い?」
    「いやよく見たら違うな。そんなに警戒しないで下さいよ。トモダチですって」
    「へえ、最近の友達ってのはそうやって現れるんだ。びっくりだね!」

    拳を振り下ろす。
    しかしその拳はそのまま力をいなされ、宙を掠めた。
    そのまま手の甲を掴まれ、力が込められる。

    (…強いな)

    振りほどくのは不可能と判断しそのまま体重をかけて肩を突き出した。
    恵まれた体幹から繰り出されるタックルだ。並の人間は立ってられないだろう。
    男は体制を崩して背後の壁に打ち付けられる。

    「いってて…」
    「で、何者なの本当は?」

    拳を軽く払い、掴まれた甲を軽く摩った。
    男を見下ろし、改めてよく観察してみる。

    やはり目につくのは髙そうな身なりだ。
    平均よりは大柄に見える。
    この台所には窓はあるが、どう見積もっても彼の体格で侵入は不可能だろう。
    ではやはり見た通りあの靄から出てきたとしか考えられない。

    「怪しい者ではないですって!」

    かなり強く叩きつけたつもりが男は何事もない様子で立ち上がる。
    警戒心を解くつもりか笑顔を見せた。

    マジか、脳震盪ぐらい起こしてもおかしくないというのに。
    こいつは本格的にマズいやつかもしれないと再び拳を構える。

    「怪しい奴はみんなそう言うよねぇ?」
    「ああもう。じゃあどう言えばいいんですか!」

    「ちょっと、人の家で暴れないで下さい」

    再び張り詰めた空気は第三者の声で解かれた。
    腕を組み、壁に右半身を預けるようにして立っている彼はここの家主だ。

    この猛暑の日に全く熱さを感じさせないのはその着流し姿のせいだろうか。
    それにしても汗一つかいてないのはいささか違和感がある。

    「はじめさん!そいつ不法侵入!」
    「違いますって!!」
    「…はぁ。了、拳を下ろしなさい。不法侵入には変わりないですけど」

    彼は大きくため息をついて身を起こし、背を向ける。

    「お茶ぐらい出しますから」

    振り返らずにこっちにこい、と指先を動かす。
    仕方なく拳を下ろしてその背中についていった。



    「ああ、従兄弟ですか!どうりで!」

    男は納得がいったのか掌を拳で叩く。

    ちゃぶ台と座布団しかない客間に通された2人。
    お茶を出す、とは言ったがまさかポットと粉末タイプのお茶を渡されるとは思わなかった。
    茶髪の男は特に何も気にする素振りを見せず湯を入れて湯呑を振っている。
    せめて何か混ぜる物が欲しいという発言するタイミングを失ってしまった。

    「そんなに似ていますか?」
    「いや見た目もだけどすぐ手が出る所とかそっくりだなって」
    「お望み通りにして差し上げてもいいんですよ」

    鴉取は男に視線を向けず手元の本のページをめくった。
    友人というには少し距離があるというか。
    なんとなく居心地の悪さを感じる。

    「えーと…はじめさん、俺にも紹介して欲しいなって」
    「春川です。はじめましてどうも~」
    「どうも?鳳です」

    差し出された手を一応握るとブンブンと上下に振られる。
    テンションが読めない人だな。と思いつつも振り払うのは失礼にあたるし力に沿って揺れることにした。

    「いやーまさか鴉取さんに身を案じてくれる親戚がいるとは!」

    たしかにはじめさんは実家ともだいぶ前から縁が切れていて
    気に掛ける身内と言えば俺だけなのかもしれない。

    この前親戚付き合いで伯父さんの家に行ったときは彼の部屋どころか
    かつて生活していた形跡一つなかったと思う。

    「流石に数か月連絡が取れないと生きてるか確認したくなるじゃないですか」
    「うんうん。家族愛って素晴らしいっスね!」

    紙を捲る音がピタっと止まる。

    思わず彼の方向を見ると顔を動かさず、瞳だけがこちらを捉えていた。
    見たこともない睨みつけるような表情に一瞬空気を飲むが、すぐにその視線は本に戻される。

    「孤独死とかもあるっスからね~」
    「いやいや、年齢的にも流石にまだそれはないでしょ」
    「え~でも自殺とか色々?ねぇ?」
    「自殺って…」

    最近も生徒の自殺騒動に巻き込まれてとんでもない目にあったと言うのに
    うんざりするワードだ。反吐が出る。

    「それは勘弁してほしいかな」

    吐き捨てるように言葉が出た。

    「おや、何か考える所がおありで?」
    「職業柄?教師ですから。その手の話にはうんざりで」
    「へぇ、教師!それは素晴らしい!」

    春川の目が細められる。
    なんだろう。言葉にはしにくいが、この人とはあまり関わってはいけないような
    話せば話すほど何かを削られていくような錯覚に陥る。

    そうだ、一言で表すと居心地が悪いんだ。
    床の無い地面を歩いているような。何が潜んでいるかわからない暗闇を歩いているような。

    「えっと…春川さん?はじめさんとは友達って言ってたけど…」
    「それ以外形容しようがないッスからね」
    「申し訳ないけどはじめさんに友達がいるとは思わなかったな」
    「お、ナイス観察眼」

    パタン、と本が閉じられる音が響く。
    音の方向に目をやるとこちらにゆっくりと顔を上げる音の主と目が合う。

    「私も貴方にそう形容されるのは気分が悪いです」
    「えー?でも余計な事は言わない方がいいと思うっスけど」

    口元だけが曲げられる。
    これだ。この人の上っ面だけで笑ってる感じが苦手なんだ。

    2人の会話の内容はよくわからないけど
    これが深く立ち入ってはいけない話題だということはわかる。

    「別に構いませんよ。言わない方がいいと思うのは貴方の感情でしょう?」
    「う~ん。それはそうなんスけど」

    見られている。気味が悪い視線だ。

    昔っから人の視線には人一倍敏感だったからなんとなく肌で感じ取れる。
    これは「品定め」されている目だ。
    教師が生徒に、親が子供に向けるような評価を伴う視線。

    ならば俺はいい親戚でなくてはいけないな。
    これ以上暗闇を突くのは蛇が出る。

    「2人とも友人ってわりにはほら、雰囲気が似てないじゃないですか~
    類は友を呼ぶというでしょう?そういう意味ですって!」
    「あはは!たしかに!」
    「そうですね。こんなに軽薄そうな方と似てると言われたら困ります」

    空気が緩んだ事に胸を撫でおろす。

    はじめさんの生存も確認できたし、ここいらでお暇しよう。
    組んでいた脚を解き床に手をついて立ち上がる。

    座っていた時間は短いがなんだかとても疲れた気がする。
    掌を天井に向けてグググっと伸びた。

    「ともかくはじめさんに友達がいるなんて安心したよ」

    返事はない。
    彼は再び手元の本に視線を向けている。

    「じゃあ俺はそろそろ帰ります。冷凍庫にアイス入れておいたから食べてね」
    「ありがとうございます」

    礼をする時ぐらいこっち向けばいいのに、と思いながら
    勝手に来て上げてくれたんだからそれでよしとしよう。と自分を納得させる。

    本当は聞きたいことが山ほどある。
    冷蔵庫に何もないけど食事はどうしてるの?
    その友人は一体何者なの?
    何故、突然何もかもを捨ててこんな所で暮らし始めたの?

    それら全て飲み込んで、笑顔を見せる。
    俺はただ理解がある親戚でいればいい。

    「じゃあね」

    彼はこちらを再び見ることは無かった。
    まったく。興味が無いのを隠そうとしないんだから

    客間を出て暗い廊下を歩き、玄関の開き難いスライド扉に手をかける。
    足音がついてくるもんだからそろそろ振り返るか。

    「何ですか?」
    「お見送りっス」
    「それはどうも」
    「家の場所どこっスか?送りますよ~」

    彼の手元にまたあの黒い靄が現れる。
    折角突っ込まないでいるんだから。そっとしておいて欲しい。

    彼はきっとこの状況を楽しんでいるんだ。
    まるで玩具の反応を楽しむ子供のようだな、と思った。

    「遠慮しときます。寄りたい場所があるので」
    「そう?じゃあ暑さに気を付けて帰ってくださいっス」

    靄が消える。
    彼は残念そうに眉を曲げていた。

    本日二回目の扉をこじ開ける。
    灼熱の日差しが地面に当たり、ユラユラと漂っている。

    ああ、この道をまた歩くのか…と憂鬱な気分になる。
    サンダルの先で2回地面を叩き、スマホを確認した。

    次のバスは20分後か。
    小走りで行けば充分間に合うな。

    「さて、病院寄ってから帰ろっと」

    行きより表情は明るい。
    鼻歌を歌いながら、軽い動きで走り出した。



    「いやぁ元気ですね!走っていきましたよ!この暑さは人間には毒だろうに」

    ガリッ、ガリッと氷が砕ける音が響く。
    もう暑さ寒さに何も感じなくなって久しいが、アイスを甘いと感じる味覚はあるようだ。

    茶髪の男は客間には戻らず突き当りの部屋に向かった。

    「なに勝手に食べてるんですか?」
    「どうせ食べないでしょ」

    部屋の中は廊下や客間からは想像できないほど混沌としている。
    床には謎の言語で書かれた本が散らばっていた。

    それを踏まないように部屋内に入ると全く換気されてないのだろうか
    カビのような臭いとそれに交じって鉄臭さが鼻につく。

    雨戸が隙間なくぴっちりと閉じられており、なんとも形容しがたい置物のような物が
    ずらりと並べられていた。

    「いい加減諦めたらいいのにー」

    食べ終わったアイスの棒で近くにあった石板を突く。
    円から始まりミミズが這ったような模様が刻まれている。
    男はちょっとだけ眉をしかめて向き直った。

    「あんな素直でいい弟分がいるんだから。ね?」

    男が笑う。
    部屋の奥で羊皮紙を集めていた鴉取は忌々しい表情を浮かべながら向き合った。

    「……彼を「素直」と本気で思ってるのであれば貴方の目はとんだ節穴ですね」
    「ん~~~教師をやるにはちょっと「悪臭」が凄いとは思いますけど。
    素直じゃないですか?物分かりがいいっていうのかな?」
    「ナチュラルに悪口を言いますね?別に臭いなんてしなかったと思いますよ」
    「あはは。余計な事は言いませーん」

    それより、と身を乗り出す。

    「てっきり俗世との関りを全~部絶ってこんな所に引きこもってると思ったのに
    まさか身内に居場所を教えていたなんて!」
    「彼は手段の一つですよ」
    「手段?」
    「ええ。「鍵」の権能を他人に押し付けることができた場合。
    臓器のように適正というものがあるのであれば私に近い方が赤の他人よりも可能性があると思いませんか?」

    彼は己の胸のあたりに手を当てた。

    「えぇ…それって…」
    「一番近しいであろう弟はもう居ません。代替品は近くに置いておいた方がいいでしょう?」
    「さ、最低すぎるっス…」

    呆れたようにため息をつく。

    「だから手段の一つと言ったでしょう?こうして別の手段を探しているわけですから」
    「そういう問題です?いい加減世界の滅亡なんて馬鹿らしい事諦めて大人しくしてて欲しいっスよ~」

    その言葉に忌々しいものが疾風のように心を満たしていく。
    この男の口からその単語が出る度に怒りに身が支配される。
    皮肉にも普段は波打たない彼の心の水面に唯一波紋が広がる瞬間とも言える。

    「いいえ。たとえ手足が捥がれようとも貴方の大切な箱庭おもちやを壊してみせますよ」

    そして恍惚な笑みを浮かべる。
    それかかつて自分に「死」という自由の選択ができた頃よりも生き生きとしていて

    「この世界に祝福を与えてみせましょう」

    まるでこれから先の道筋に大きな希望を抱いている少年のような笑顔だった。
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