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    Chikuwa01410w07

    @Chikuwa01410w07 らくがき放り投げるところ

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    Chikuwa01410w07

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    小説かけねえつってるでしょうが!ミプ未満。

     特になんの前振りもなく"お前が好きだ"と言われた。言葉の意味も意図もわからず、ミラージュは情けないながら"なんて?"と呆けた声で聞き返してしまう。
     定例になりつつある宅飲み会での出来事。クリプトが選んだ退屈な哲学的映画を、ミラージュお気に入りにソファに並んで慎ましやかに観ていた時のこと。聞き間違いか、もしくは映画の感想か。ただもう、心は十二分にざわついている。彼がああいった言葉を用いるのも、こういった感情を持つのも、そしてそれを自分に向けることなんざ想像もしていなかったのだ。
     彼はこちらを見ない。映画と違って見ているだけでストーリーが進むことはないらしい。何か意味のある言葉を発しなければ、とそう思う程に言葉が縺れて絡まって座礁気味だ。口をもごもごとさせながらクリプトが"冗談だ"と言ってくれるのを待つしかない。あるいはその意図の暴露を。

     感動的なBGMが壮大に場違いを演出しはじめる。退屈な製作者たちの羅列を見る暇はない。映画は終わっていい。だが、この関係が終わるのはまっぴらごめんだ。気まずい。自分たちは同僚なのだ。明日からだって顔を合わせなければならない。間違いが許されない最終局面。一対一。撃ち合わねば焼け死ぬだけ。無意味だ。
     驚くことにスタッフロールが終わる頃まで膠着状態は続いていたが、終わりと同時に彼が息を吐き出し目を伏せる。ミラージュはここしかないと思って映画の感想を相手に問うた。

    「ありきたりだが、まあまあだったな」

     共感できそうにない感想を述べたクリプトがようやくこちらを見る。いつもの人を小馬鹿にしているときの口角。そのまま彼は身体を解すように伸びをし、ボキボキと小気味よい音が響く。それが関係性が崩れる音のようにすら聞こえてミラージュは寒気がした。いつもならここで彼は、都合が良ければこの後シャワーを浴びて、ミラージュ宅に泊まっていく。今日も明日も予定はないと言っていたはずだ。だが、彼は"じゃあ、またな"といって立ち上がったのだった。
     ミラージュは焦った。先程の言葉をなかったことにされることを。クリプトなりの大人の優しさを受け入れることができなかった。そして彼が抱えているであろう気持ちを無視することだって。友人としての好きであれば、大喜びでスキップと鼻歌まじりにご機嫌になるだろう。だがもし、性的にみられているならば話は別だ。嬉しくないわけではない。だが、その気持ちに応えてやれることもない。本当に?
     だから"待て待て"と咄嗟に相手の腕を掴んで引く。クリプトは予想してなかったのか簡単に体勢を崩してソファに倒れ込んだ。ミラージュを下敷きにする形で。そして混乱から抜け出れないでいるクリプトを羽交い締めにするようにして、とにかく逃さないようにした。一瞬お互い呆けていた間があったが、数秒後にはクリプトがもがきはじめる。離せと叫びつつ容赦ない動きをするクリプトをなんとか抑えて、待ってくれ、落ち着けと連呼するしかできなかった。

    「俺は女が好きだ!!」

     そうしてぐらぐらと煮詰まった思考から飛び出た言葉は最低だった。クリプトが硬直し、時が止る。ミラージュは自分が何を言ったのかすら理解できていなかった。いや、わかってはいたが、わからなかった。言い訳だ。こんなことを言う必要がどこにあった。断り方もいなし方も、もっと他にあったはずだろう。そうしてまたミラージュが思考の泥遊びを敢行していると、クリプトの身体が小さく震えていることに気づいた。そして小さく漏れ出る声。血の気が引いたのもつかの間、次の瞬間にはクリプトがあっけらかんと笑いはじめたものだから、またしてもミラージュは混乱の渦に巻き込まれていく。泣いているのかと思ったが、どうやら笑いを堪えていただけらしい。彼は暴れるのをやめ、ミラージュご自慢の胸板に額を押し付けた。

    「知ってるさ」

     懐いた猫のように数回、額が擦り付けられる。ミラージュは自分のやたらとうるさい心音がそのまま伝わらないことだけを願っていた。いいや嘘だ。やんわりと熱を持ちはじめた下半身を今すぐ消し飛ばしたいという願いもある。最低。
     どうしたものかと考えあぐねていると、クリプトが苦しい、と呟いた。抱きしめすぎたかと思い腕の力を弱めてみると、彼はすんなりとこちらの拘束から逃げ出てソファから立ち上がってしまう。あまりにもあっけない脱出劇だったが、再び絡め取る勇気も覚悟も、その度胸がミラージュにはなかった。

    「…クリプト」
    「帰るよ」

     表情も声も柔らかく穏やかなトーンだった。彼はいくらか乱れた佇まいをさっさと正し、すまない、とか細い音を添えた。

    「…悪かった。それと、忘れてくれ」
    「お、おおう、それは、もちろん、だが」
    「ありがとう。おやすみ。…ミラージュ」

     引き止めるべきなのではないか。このまま帰らせたら、取り返しのつかないことになるんじゃあないか。警鐘が鳴り響く。ミラージュは女性が好きだ。昔からそうなので、男を相手にとは考えたこともない。別に同性愛に対して否定的なわけでは決してない。ただ、自分がそういった関係をもつかと言われれば確実にNOと答えるだろう。本当に?実は最近自信がない。ただ、そうやって自分のことがわからないから目の前の男の気持ちに応えてやることができなかったのだ。

     結局、動けないまま去っていく彼の背中を見つめる。ドアが閉まる音がやけに静かだった。

     あの日以来、食事も酒も、試合後の反省会すら、すべての誘いを断られるようになった。それどころか常に物理的な距離を保たれていて肩を組むことすら避けられている状況だ。今ではもう軽口の応酬すら失った。無視をされるわけではないが、ぎこちないく、そっけない。出会った当初とまではいかないものの、仲が良いと思われるような空気がまるでなくなった。それに気づいている者もいるようで、しきりに喧嘩をしたのなら謝れとアドバイスがかけられる。喧嘩、であればよかったのかもしれない。どちらが悪かろうがこちらが折れて謝罪して、二度としない反省している、と言えばもとに戻れただろう。だが現実は違う。彼を傷つけてしまっただけだ。
     かと言ってミラージュが加害者であるとも言われたくはなかった。恋愛にはこういったことはつきものだ。両想いである確率なんてそう高くはないし、フッタフラレタなんて筋書きは砂のようにある。お互いにいい大人だ。無視をしたり嫌がらせをするなんてことはない。ただフラットな関係に戻っただけで。いや、フラットな関係どころかとうとうファミリーネームすら呼ばれない有様。ウィット、と呼んでくれるようになったのはいつだったか。今ではただミラージュとしか呼ばれない。それも事務的に必要なときだけ。これではただの同僚だ。同僚。それでいいのではないか。

     よくはない。よくはないのだが。
     ミラージュはもうわからない。自分がどうしたいのかを見失っている。四六時中クリプトのことを考えるようになってしまった。これが彼の作戦であれば流石は参謀役といったところだろう。

     だから、街なかで彼の肩を抱く見知らぬ男の姿を見て、気絶しそうになったのだ。
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