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    18toririririri

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    セオドア・モルスとソフィア・アンブロージア・モルスのはじめましての話。
    ちまちま書き足すと思われる。


    よあけほのかのこ

    夜明仄かの子XXth September 1995
    我らが親愛なる明けの君、セオドア・アンブロージア・モルス様

    夏も過ぎ、空に牡牛座の輝く季節となりました。
    叔父上はいかがお過ごしでしょうか。

    我らが新たに先祖の祝福を受けた子を授かり2年となります。
    来年の春、湖水地方を望むカントリーハウスにて、3歳の誕生日の祝賀会を行うこととなりました。
    ご出席いただける場合は、絵葉書で構いませんので返信をいただけると幸いです。

    それではお待ちしております。

    敬具
    エリック・モルス



    「……ハァ」
    「どうしたのテオ、そんなに封筒を開いたり閉じたりして」

     大法典の教育機関である、アーデンの森に囲まれた魔法学校「学院」。
     その教員用の研究室の一つで、物理天文学を主に担当している魔法使い、セオドア・アンブロージア・モルスは二人掛けソファにもたれかかっていた。指先では今朝方届けられた手紙を弄んでいる。それを尻目に、対面のソファでチェスの駒をいじっているのもまた、学院で教鞭を執る魔法使い、人の世の名前で遊馬柊であった。手慰みにラジオから聞こえるチェスの試合を盤面上で再現していたものの、ゲームクロックを叩く合いの手かのようなため息に質問を投げてみることにした。
     はいともうんとも言わずに差し出された手紙の差出人の文字は滲んでしまっている。がしかし「連合王国」「北西イングランド」の字はすぐ判別できた。イングランド北西部と言えばこの友人が幼い頃の夏の住まいがあったはずだ、とまで考えて、なるほど折り合いの悪い実家からのお手紙らしいと想像がついた。
     セオドアはもう一つだけ大きなため息をついた。

    「一族に先祖返りが産まれたらしい。3歳になるから祝いに来てくれ、と」
    「へえ。でも今までそういう手紙なかったよね?」

     まあテオの魔法使い生の全部を知ってるわけじゃないけどさ、と注釈がつけられる。それでもここ2年で憂鬱100%の様子は見なかったように思った。セオドアは主旨の伝え終えた封筒をさっと手元に戻す。差出人をずっと擦り続けていたのはその名前と住所が変わってくれやしないかという小さな──乱暴に言えばみみっちい抵抗だったのだろう。手元では再びその抵抗を始めながら、至って当然のようにセオドアは言った。

    「3歳まではちょっとした事で死ぬからな」
    「うわ、現実的」
    「それで3歳を迎えられたら一族から出た魔法使いに祝ってもらい、その子供が成人して立派な魔法使いになるようにとパーティをするらしい」
    「アメリカのアニメーション映画でそういうのあった気がするけど」
    「知らない」

     ちゃちゃを挟みつつ盤上の駒をラジオの実況に合わせて動かす。封筒を机の上に放ったセオドアが、腕を伸ばして黒い駒の次の手を動かした。

    「俺の時はくじ引きで押し付け合いになったと聞いた事はある」
    「わあ」

     あの家の英才教育を受けた人間でも押し付け合いになるんだ。と、どれだけあの家は面倒事扱いにされているんだ。と、そしてそれを笑い話として伝聞される感じなんだ。の他色々が混ざった結果のワア、だった。生憎遊馬柊という生物の根源は異境の主であるので家を出た側の気持ちはわからないが、外の世界に魅力を覚えて元いた故郷に帰らない選択をした生き物は何度か見たことがあった。自分もまあ大体そのようなものである。つまり。

    「関心事が実家じゃないとこに移ったんだろうね」
    「そう思う。で、多分だが今回は俺ぐらいしかいない、んだ……」

     そこまで言うとセオドアはがくりと頭を抱える。100年以上前に家を出ているはずだが、いつまでたっても良くも悪くも純粋なこの男にはまだ実家への苦手意識が刻まれているらしい。それでもって真面目というか、根っこのところでお人好しなので行かない選択肢もないんだろう。そんな柊の推測通り、自分の感情と見た事すらない親戚の子どもへの思慮を天秤にかけた結果、男は手紙をゴミ箱に投げ入れることが出来なかったのだった。

    「いつなの?」
    「来年の5月」
    「冬じゃなくて良かったね」
    「ニホンのポストカード買ってきてくれよ……」

     代金は払うから、という言葉と共に漏れた大きな大きなため息に苦笑する。ラジオが先攻側のチェックメイトを伝えた。



     月日は過ぎて5月某日。
     セオドアはクリーニングに出してきたばかりの学院のローブを着込み、イギリスは湖水地方の玄関口──己の第二の生まれ故郷へと降り立っていた。支部のあるランカスターから列車を乗り継いで1時間足らず。終点の最寄駅からマナーハウスまでは徒歩でさらに数十分といったところか。これでも前に呼び出された時よりは便が良くなっている方である。すっかり観光地と化した街になんとも言えない想いがわいた。
     さて、向かう前に用意すべきものがひとつある。降りるときに駅員に確認したところ、今も営業しているらしかった。定休日ということもなく、店の前には切り花の刺さったブリキのバケツがいくつも並んでいる。

    「こんにちは」

     開いたドアを軽くノックしながら声をかける。来客に気付いた若い女の店員はいらっしゃいませ、とにこりと笑った。

    「いきなりで悪いが、小さな花束を一つ作って貰えますか」
    「ブーケですね。ご用途は?」
    「親戚の子供の3歳の誕生日パーティに」

     まあ、それじゃあ素敵なものにしますね、と店員は目を輝かせた。値段は気にしないが、子供が手に持つことが出来るサイズにして欲しい、と重ねて注文をつける。やたら大きく大人が受け取って家の中に飾られるのを見るよりも、自分の手で受け取る方が嬉しいだろうと考えたからだった。

    「花はどうしましょうか」
    「……、紫と水色を基調にしてほしい」

     紫と水色ですね、と確認を取り店員は店内から花々を集め始めた。紫のバラ、青と水色と白の花──ポップを見るとデルフィニウムというらしい。それからラベンダーを数本にカスミソウを手に取っている。
     先祖返りなら、紫の瞳か、銀青色の髪か、もしくは少し尖った耳をしているのだろう。とは言っても、最後に耳の尖った先祖返りが生まれたのはセオドアの三代前の時らしく、銀髪に至っては五代以上前の先祖返りが最後だったはずで。割とよくある紫目に合わせて買っておけば外れないと思われた。自家出版の英雄譚には真夜中の紫、星の銀青色と褒めそやされていたご先祖の色だが、まあ多分そんなものは一生見ることは無いだろう。
     ぼんやりとしているうちに色とりどりの花は可愛らしい大きさのブーケに変身していた。包装もおまかせにすると、店員は少々悩んだ末に鮮やかな青のリボンを結んだ。

    「ありがとうございました」

     会計を済ませて店を出る。観光地然とした道を歩き続け、見知った別荘地の趣の割合が増えてきた頃、ようやく懐かしきモルス家の夏の邸宅の庭先へとたどり着いた。相変わらずハーブの生い茂った庭を進み、玄関の前ですぅ、はぁと深呼吸をいくつか。意を決してノッカーを叩いた。

     数分間の記憶がない。どうやら意識がどこかに行っていたらしい。
     気が付けば、ほとんど昔と変わりのない別荘の中に足を踏み入れていた。最後に会った時から随分と年を重ねた甥が廊下を先導している。止まることのない賛辞と世辞に含まれた内容を汲むに、さっそくパーティーの主役のところへと案内されているらしい。おそらく気を遠くしている時にさっさと連れて行けというようなことを言ったのだろう。ありがとう数分前の自分。

    「こちらです。……ソフィー!」

     甥が部屋の一つを開けて入室を促す。光を反射する銀青色が目に入った。
     まるで、朝日が昇るまでの数十分間の空のようだった。強く輝く星だけが瞬く、暗さのある淡い青を少女の髪は映している。
     ほんものだった。コピーした紙をコピーし続けて、偶然上手いこと割合くっきりコピーできたような、そんな自分とは違う。

    「ソフィア、セオドア様だ。ご挨拶なさい」
    「はぁい」

    呆けている自分をよそに、甥は彼女をこちらへと呼び寄せた。
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