「なぁ。なんで『女が喜ぶ』で『嬉しい』なんだろうな」
ギンが机の上の執筆中の原稿用紙から目をそらさず、独り言のように言う。これは、後ろでギンの使う鉛筆をナイフで鋭く削る雑用作業をしてくれているヒーラーに向けてのものである。
「男が喜んだら、駄目なのかねぇ」
ギンが執筆を中断して、伸びをする。
「野郎が喜ぶ様より、女性が喜んでいる様のほうが華やかでいいだろ」
ヒーラーが、ギンの背中に返答をぶつける。
「で、その様を見て男が『嬉しい』んだろう。好きな人が喜んでた、嬉しい、みたいな」
「喜んだら駄目なのかねぇ男は」
再度、同じ事を言うギンにヒーラーが削ったばかりの鉛筆を手渡す。
「過去に『へらへらすんな』と、男が怒られた時代があったのでは?」
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