さっさと気づけ鈍感野郎!「好きな人が出来た」
光沢のある無機物でできた指がグラスの水滴に滑って危うく落としかけた。
ファルガーは慌ててそれを持ち直して内心胸を撫で下ろす。
真正面の棚に並んだ鈍く光るボトルを、バー特有の色気のある黄金色が照らして、まるで作り物みたいに端正なヴォックスの顔に反射していた。
その顔から思いもよらない言葉が出たものだから、ファルガーはカウンター席で揃って同じ方向を向いていたのを体ごとヴォックスの方に向ける。
「はあ?本当か?」
「冗談を言ってどうする。」
「いや、まさか、お前が1人の相手を決めるなんて。余程のことだと思ったんだ。」
ヴォックスは鬼である。
かつて主君としてクランを纏めあげ、
時にはそのクランから逃げ出すものを己自ら切り捨て、
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