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    nunu

    @nunu_kouhai

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    nunu

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    レノとフィがサマ〜バカンス的な何かに行く話の続きです。
    なにもないけどキスはしてるし一緒に寝てる

    二泊三日の遠出 Ⅳいくばくかはそこでやり取りされた熱の中に浸り、やがて呼吸が落ち着くまでフィガロはレノックスとまったく体を重ねたままであった。フィガロが体を起こそうとするとその背中を抱いていたレノックスの手が肌の上をたどって肩へと行き着き、そこはかとなくフィガロの肩を包み込んでからフィガロの体を進むべき方向へと押し上げる。そうしながらレノックスも自身の体を起こした。レノックスはフィガロをその場に縫い止めておくような意思を元より有してはおらず、そうした一連の動作に澱みはなかった。またその頬にかろうじて淡い残滓が見えようとも表情そのものはまったくの平静なのである。それらはなにもレノックスにだけ見られる特異的な事象ではなく、当のフィガロもまったく同様のことであった。フィガロは呪文を唱えて双方の身の回りにあった残滓を片付けると、続いて用無しとばかりに床に投げ捨てた衣服の数々を拾い上げた。下着を履き直す身振りに従ってソファーから立ち上がる。フィガロが傍らに視線を向ければレノックスも拾い上げた衣服を着用しようと腰を浮かせているところであった。
    「先に汗流してくる」
    フィガロは言う。するとレノックスは動作の最中にちらりとフィガロを見上げて短い言葉を返した。それだけでフィガロは部屋を出ると浴室へ向かった。昨晩も使用した陶器製の浴槽には何もなかった。しかしフィガロの意識が向けば瞬きの間にそこには湯が溜まった。フィガロは衣服を脱ぎ去ると、清潔な湯船の中にとっぷりと体を浸かわせて休息を得るのだ。ノブを捻り頭上からシャワーを浴びる。汗と一緒に少量の砂が流れたが、それはフィガロが海で拾ってきたものたちではなかった。フィガロはこの診療所へと戻る前に自身が運んだ砂はあらかた魔法で落としていた。すなわちそれらはレノックスが持ち帰ってものであり、そこからフィガロへ乗り移ったものたちであった。それらがすっかり排水溝の奥に消えていくのを確認するとフィガロは浴槽を出た。体に残った水滴を軽く弾いて軽装に着替え、濡れた髪には指先を通すだけで余分な水気を取り払った。
    浴室を出て廊下に入るとそこは青白い光に彩られていた。それは廊下に接続している玄関上部の小窓から月の光が注がれているためであった。またそこには少量ながらも暖色の光が混在している。ちょうど廊下の突き当たりにある部屋の扉がわずかに開いており、そこから淡く光が漏れ出しているのだ。その部屋はダイニングキッチンであった。耳をすませば水を流す音も聞こえてくる。フィガロは廊下を進みその扉を開けた。キッチンにはレノックスの背中があり、そのすぐ側に置かれたランプが光の源であった。ランプの中で小さな炎が揺れるたびにレノックスの大きな影もまたおろおろと揺れた。
    「レノ」
    フィガロの呼びかけにレノックスが振り向く。レノックスの手元には布巾と一枚の食器があった。またレノックスの影に隠れていた調理台の上にも数枚の食器が整然と積み重ねられている。どれもフィガロとレノックスが夕食の時に使用したものであった。
    「レノも入ってくるでしょ」
    「はい。ちょうど片付けも終わりそうなので、これが終わったら入ってきます」
    レノックスはそう言うと、再びフィガロに背中を向けた。作業途中だった手元の食器を拭きあげ、他と同様に食器の山の頂上に置く。レノックスはそれらをまとめて持ち上げるとフィガロが入ってきた扉の近くにある食器棚まで運んだ。数種類の食器を適切に分けては、こつこつと棚の中にひとかたまりずつ収めていく。フィガロはそんなレノックスに近づき隣に並んだ。
    「片付けなんて、別に明日でもよかったのに」
    フィガロがシャワーを浴びている間に、レノックスは手ずからすべての作業を終わらせたようであった。もしフィガロが逆の立場であれば一種の高揚と淡い倦怠感の間でそのように労力を使いはしなかったであろう。もし何かしら施すとしても確実に魔法を使用していた。そうすればレノックスがこの作業に費やした時間の半分ほどもかからずにすべて片付いてしまうものである。とどのつまりこの仕事を今日片付けてしまおうと、明日に回そうとその違いは瑣末なものなのだ。
    「他にすることもなかったので」
    レノックスはフィガロに対してちらりと視線をやり、淡々とした口調で答えた。そうしてまたその視線を食器棚に戻すと次々と手を動かしていくのである。フィガロは軽く相槌を打って返答するだけであった。その時にはもうこの話題への興味を失っていた。それからややもせずにレノックスは食器の片付けを終えた。レノックスは食器棚の扉を丁寧に閉めてからフィガロのほうに体を向ける。
    「俺も入ってきます」
    淡白な言葉を告げてレノックスが出ていくと、フィガロは三日三晩吹き荒れた嵐が去ったあとの野山にも似た静寂の中に取り残された。小さなランプの炎だけが申し訳程度に動作し、炎の色に染まった壁に小刻みに揺れるフィガロの影を落とす。フィガロは微かに思考する間、なにを見るともなくダイニングキッチンの灰色に染まった片隅に視線を送り静止していた。やがてフィガロはランプに背を向けるとダイニングキッチンを出た。廊下への扉が閉じると同時にランプの炎が突と絶える。フィガロは大いなる厄災がもたらす青白い光に覆われた廊下を進み、玄関のすぐ脇にある階段を使って二階に上がった。廊下には扉が二つあり、どちらも寝室へと続いている。フィガロは迷いなく一方の扉を開けた。そちらをフィガロの寝室、もう一方をレノックスの寝室として使用することは、昨日この家に案内された際に診察室などを整えることに並行して早々に取り決めたものであった。
    そこは魔法舎で各々に与えられている部屋よりもひと回りほど小さい部屋であった。部屋に入ってまず正面にある窓はとても大きく、そのためにフィガロの寝室にもまた大いなる厄災の冷ややかな眼差しは届いていた。たとえ太陽がまったく沈んだ夜中であっても、不自由を感じるためにはあまりにも明瞭とし過ぎているのだ。窓を中心にして右側には小さな机と椅子があり、対して左側にはひとり用のベッドがある。その作りはレノックスに割り当てた部屋とほとんど相違はなかったが、レノックスの部屋には机と椅子がない代わりに素朴なチェストがひとつ置かれていた。変則的な数日間の夜を過ごすためであればどちらの部屋であってもさして使い勝手の違いはなく、実際にこの夜までに使用されたのはフィガロの寝室にあるベッドただひとつだけであった。
    フィガロは呪文を唱えた。すると机の上に酒瓶とグラスが出現し、フィガロが自ずから何をしなくとも酒瓶の栓は抜かれ、グラスに濁りのある琥珀色の液体が注がれていく。フィガロが椅子に腰を下ろすと同時にグラスの中は満たされた。フィガロはグラスを手に取り、窓の外に広がる明るすぎる夜の中でひときわ目立つ月に視線を向ける。そうしてグラスを傾けると少々の粘性を持つ液体がフィガロの舌を濡らし、豊かな香りが鼻を抜けた。夕食の際に開けたものよりも強度のある刺激がフィガロの喉を滑り落ちていく。これもまた昼間、立ち寄った店でフィガロが購入した酒のひとつであった。手に取った時には魔法舎まで持ち帰ろうと考えてもいたが、夕食時に開封した酒瓶はすでに空であり、加えてフィガロの口寂しさを埋めるものは他になかったのである。フィガロは静かにグラスを口元に運び、体内に染み込んでいくアルコールを感じては、再びそれを求めることを繰り返した。しばらくの時間が過ぎると、フィガロはふいに人が近づいてくる気配を感じた。それからさほど間を置かずに「フィガロ様」と呼ぶレノックスの声が聞こえる。フィガロが振り返れば、部屋の入り口にはレノックスが立っていた。扉が動作する音が聞こえなかったのは、フィガロが元より扉を開け放していたからである。
    「こちらにいらしたんですね」
    「ああ」
    フィガロは頬をゆるめてうなずいた。風呂から上がってきたレノックスも軽装に着替えており、濡れたままの頭髪はなめらかな陶器のような光沢を帯びている。レノックスが室内に立ち入るとその光沢はいっそう目立った。フィガロのすぐ側まで歩み寄るとレノックスの視線はフィガロの手元に向けられ、次にそれはまたフィガロの顔に戻される。濡れた前髪がかき上げられているために、普段よりもレノックスの表情にその感情が浮かぶ様は明らかであった。フィガロはレノックスにグラスを差し向けて首をかたむけた。
    「レノも飲む?」
    「いいえ……。俺は、今日はもう遠慮しておきます」
    「そう? 寝る前に飲むにはいい酒だと思うけど」
    フィガロはそう言ってグラスを口に運んだ。わずかなアルコールが喉を可愛らしく弄びながら落ちていく。
    「それも今日買われたものですか?」
    「うん。せっかくだからね。レノと飲んだ酒は勧めてもらったやつだけど、こっちは自分で選んだんだ。お土産にしようと思ってたんだけど、開けちゃった」
    「はあ……。明日も早いんですから、あまり飲みすぎないようにしてくださいね」
    「白けさせるなあ」フィガロは軽やかに声を上げて笑った。「でもいいよ、これで終わりだから」
    フィガロはグラスの底に残っていたもうひと口のアルコールを飲み下した。空になったグラスを机の上に戻す。するとグラスは酒瓶と共に音もなくその場から消えた。まっさらになった机の上にフィガロは片腕を置き、頬杖をついて改めてレノックスを見上げる。
    「座らないの」
    室内に唯一ある椅子を占領しているのはフィガロ自身であり、フィガロはそこから退けようという気はなかった。フィガロがレノックスに示すのはベッドの上である。
    「フィガロ様がもう寝られるようなら、俺も自分の部屋に行きます」
    「俺がまだ寝ないって言ったら?」
    フィガロは朗らかに、舌の上で小さな石を転がすようにレノックスに問いかけた。レノックスはフィガロと視線を合わせたままひと息の間だけ沈黙した。その後レノックスが選択したのはフィガロの示し通りに行動することであった。フィガロは満足げに口角を上げてレノックスに向かって片腕を伸ばした。やけに緩慢にその名前を呼び、レノックスが着ているシャツの袖口を掴んで引く。
    「もう少しこっち」
    レノックスがまとうシャツの布がぴんと張り詰める。しかしすぐにレノックスがベッドの縁を移動してフィガロに近づいたためにそれはわずかな時間のことであった。フィガロとレノックスの膝はいまや触れ合う距離にある。フィガロは薄い布をレノックスの隆々としたの腕に掴み変え、互いの間にあった空間を押し除けるように腰を浮かせた。まず唇が触れ、フィガロの空いていた手がレノックスの肩を掴む。そうしてフィガロはレノックスの大腿の上に腰を落とした。フィガロの目前には依然として違わない表情があった。赤い目はフィガロを見ていたが、フィガロが再び近づくとそれはいささか下方に移り、やがて瞼が閉じたのに準じてその裏側にありありとした赤が隠れる。はじめこそフィガロはレノックスの様子をうかがうなりある種の反応を誘うなりしていたが、それに飽きてしまえばあとはただ冗長にやり取りを続けるだけであった。レノックスの首に腕を回すと湿った毛先がフィガロの肌をなでる。冷ややかな水分が皮膚の上に短い道を描き、その周辺はかすかに粟立った。しかしフィガロにそれを避けようという思惑はなく、かえってレノックスの頭髪に深く指先を通して頭頂部まですっかり抱え込むようにした。濡れた毛束をかき分けたフィガロの手には細くなった毛束がぴったりと張りつく。けれどもそれらに拘束力はなく、フィガロが指先を梳き通そうとすると少しの引っ掛かりもなくすべてがフィガロの手の形に従って流れていくだけである。今や香ってくるのは浴槽を満たしていた泡の香りで、真潮の気配はほとんど感じられない。フィガロの唇はゆるやかな弧を描き、小さな笑い声をこぼした。レノックスはそんなフィガロの様子に気がつくと不思議に動作を止めたので、フィガロは閉じていた両目を開いてレノックスを見やった。
    「……少し待っていただけるなら、先に乾かしてきますが」
    「別に俺は気にしてないけど? そのままでもいいよ」
    「そうですか?」
    「うん」
    フィガロはうなずく。そうして再びレノックスの濡れた髪を指先で梳き、指に絡まってはすぐに抜けていく毛束たちをの動きを追いかけた。そんなことを幾度か繰り返したあとフィガロはふいに「ああ」と短く声をこぼした。
    「それか、俺が乾かしてあげようか?」
    フィガロは語尾を持ち上げる。レノックスに対する問いかけに聞こえる口調であったが、実際のところフィガロはレノックスの応答を待つことはなかった。フィガロは先程までしていた動作と同様に指先でレノックスの髪を梳いた。すると先程とは一変してフィガロが触れた場所からたちまりに水分が飛んでいくのである。フィガロの手をいいだけ覆っていた水分もとうに消え去っていた。レノックスの毛髪の大部分は変わらず光っていたが、その中でフィガロが施しを与えたその部分だけが夜半の大河にひっそりと見える中州のようであった。フィガロは続けて違う毛束に手をかけて乾かすと、また別の毛束を探り出していく。
    「フィガロ様、大丈夫ですよ」
    「大丈夫って?」何が、とフィガロは笑い、それは白々しい口調であった。
    「髪です。自分で乾かせるので」
    レノックスは言う。月光を受けて一層の冷静さを得た赤い瞳がフォガロを見上げていた。
    「せっかくフィガロ先生が親切にやってあげるって言ってるのに」
    「ええ」
    レノックスの返答は静かなものであった。
    「なんか贅沢なんじゃないの」
    「そうでしょうか」
    レノックスはわずかに首をかたむける。
    「まあでも、いいんじゃない?」
    フィガロの声は朗らかであった。フィガロはレノックスの濡れた髪をいくどもなで下ろしていた手をその場から引いた。それはフィガロがレノックスの頼みに従ったのではなく、それ以上フィガロの魔力で施しを与える必要がなかったからである。いまやすっかり乾燥したレノックスの髪は華美な色艶を失い、暗闇に紛れるには十分な黒で月光を受け入れている。フィガロはその身をレノックスの膝の上からベッドへと移し、さらにレノックスの背後へ回るとまるで草木がゆっくりと萎れていくように体を横にした。取分け弾力性があるわけでもないマットレスがフィガロの体をそこに留める。レノックスの視線はそんなフィガロの動作を追いかけていた。
    「レノ」
    無表情のままフィガロを見下ろすレノックスに対して、フィガロはやや間伸びした口調でそう発した。レノックスはわずかなあいだまるで考え込むように黙っていたが、間もなくレノックスはベッドの外に下ろしていた足をベッドの上に乗り上げると、その体ごをフィガロのほうを向くように座り直した。レノックスの片腕がフィガロの頭のすぐ真横に付き、レノックスがゆっくりと背中を丸めていくたびにフィガロとの距離は縮まっていく。やがて互いの呼吸がもたらすわずかな空気の揺れすらも感じ取れる距離まで近づいたところで、フィガロは自身の頭を持ち上げてレノックスに自らの唇を寄せた。少しの早急さもなくやけに慎重に呼吸を交わす。それは互いを離れる時も同様であった。フィガロはレノックスの両肩をやわら掴み、押し返す。フィガロのすぐ上でレノックスはとどまってその瞳を開いた。静かな赤い瞳がフィガロに注がれる。
    「レノはさ、このまま続けたい?」
    「え?」
    フィガロの問いかけに対してレノックスは目を丸くし、たまらずと言った具合に声をこぼした。そのいささか上擦った声色にフィガロは頬をほころばせる。
    「明日には帰るだろ。だから、せっかくならもう一回くらいレノとやっておこうと思ったんだよ。でも、やっぱりどっちでもいいかなって」
    「はあ……」
    レノックスは低い声で呟く。ぐらついた眉が困惑の感情を描いていた。あっけらかんとそれらの言葉を口にしたフィガロとの間には顕著な差があるのだ。
    「やればそれはそれで満足すると思うけど、いまお前とやらなくても別に後悔もしないだろ」
    「まあ、それは、そうだとは思いますが……」
    レノックスはのんびりと繋げた言葉でフィガロをうかがう。フィガロはそんなレノックスの首に両腕を回した。かすかにレノックスの体がフィガロの方に落ちてくるが、それ以上互いの距離を近づける手段にはならなかった。強いて言うなればそれがレノックスを物理的に拘束する手段のひとつとなることは可能であったが、元よりそんな思考はレノックスに対して無意味であった。
    「ねえ、だからさ、レノが決めてみてよ。どっちがいい?」
    「俺がですか?」
    「うん」
    フィガロは頷く。
    「フィガロ先生は……」
    「だから、俺はどっちでもいいって。そう言ってるだろ」
    フィガロの声には少々の早りがあったが、レノックスは静かに呼吸をするだけである。互いの呼吸音とかすかに伝わる鼓動の他に物音はなかった。その沈黙は実際には一分にも満たない短いものであったが、フィガロとレノックスを繋ぐのは嫌にまどろい空気であった。時間の流れまでもを絡め取るようなべたつきがあり、フィガロは次にレノックスが口を開いた時には随分と久々にその声を耳にしたような気がしたものである。
    「それなら、しませんよ」
    レノックスの声音は平然としたもだった。
    「だろうね。お前はそう言うよ」
    フィガロは両目を細めてレノックスを見上げた。レノックスに対する拘束を解くとすぐにレノックスは上体を起こしてフィガロの上に重ねていた体を退ける。そのままフィガロに背を向けてベッドからも去ろうとするので、フィガロはその背中に声をかけた。
    「レノ。向こうで寝るの?」
    「ええ。そのつもりでしたが」
    レノックスは振り返り、その視線をフィガロに戻すと首を傾けた。
    「こちらにいた方がいいですか?」
    「それも、レノックスが決めてよ」
    フィガロは頬をゆるめてレノックスにそう投げかける。フィガロがレノックスに問いかける視線に揺るぎはなく、それはレノックスの瞳もまた同様のことであった。そうしてレノックスは今までの動作を再び繰り返し始めた。ベッドの淵から下ろそうとしていた足をベッドの上に置き、長たらしい腕を硬いマットレスに付いてその上を移動する。フィガロは体を壁際に寄せた。フィガロがそこに気を回したところでベッドの狭さにさほど違いはなかったが、少なくともソファーの上と比較すると男二人が肩を並べるにはよほどベッドの役目として似合っていることを知っていた。レノックスはフィガロの隣に開かれた空間に体を持ってくる。ベッドの足元に手を伸ばして薄手の夜具を掴むと、それをフィガロとレノックス自身の上に広げながらフィガロの隣で体を横たえた。
    「レノ」
    フィガロは天井を見ていた視線をちらりと動かしてレノックスを見た。
    「明日、帰る前にルチルにも何かお土産を買わないとね」
    「ええ、そうですね」レノックスはうなずく。「若い魔法使いたちに羊を見てもらっているので、そのお礼もしたいです」
    「夕方には診療所を閉める予定だから、その後に町中まで足を伸ばしてみようか。今日行った市場の奥にも商店街が続いていたから、なにか良いものがあるかも」
    「はい。そうしましょう」
    レノックスの返答を聞いて少しの静寂が流れた後、フィガロは寝返りを打ってレノックスのほうを向いた。仰向けに寝転がるレノックスの体の輪郭を淡く確認し、広々としたレノックスの右肩に額を押し当てると両目をまったく閉じてしまう。しかしそうして触れ合ったレノックスの体はすぐにフィガロから離れた。レノックスもまた寝返りを打ったためである。フィガロが瞼を薄く開けばレノックスの体がちょうどフィガロと向き合う形で落ち着いたところであった。フィガロは軽く背中を丸めてレノックスの胸元に自身の額を持っていく。ささやかに波打った夜具を直したレノックスの手はやがてフィガロの背中へと回った。そうしてフィガロは今度こそまったく両目を閉じるのだ。
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    DONEレノとフィがサマ〜バカンス的な何かに行く話の続きです。
    なにもないけどキスはしてるし一緒に寝てる
    二泊三日の遠出 Ⅳいくばくかはそこでやり取りされた熱の中に浸り、やがて呼吸が落ち着くまでフィガロはレノックスとまったく体を重ねたままであった。フィガロが体を起こそうとするとその背中を抱いていたレノックスの手が肌の上をたどって肩へと行き着き、そこはかとなくフィガロの肩を包み込んでからフィガロの体を進むべき方向へと押し上げる。そうしながらレノックスも自身の体を起こした。レノックスはフィガロをその場に縫い止めておくような意思を元より有してはおらず、そうした一連の動作に澱みはなかった。またその頬にかろうじて淡い残滓が見えようとも表情そのものはまったくの平静なのである。それらはなにもレノックスにだけ見られる特異的な事象ではなく、当のフィガロもまったく同様のことであった。フィガロは呪文を唱えて双方の身の回りにあった残滓を片付けると、続いて用無しとばかりに床に投げ捨てた衣服の数々を拾い上げた。下着を履き直す身振りに従ってソファーから立ち上がる。フィガロが傍らに視線を向ければレノックスも拾い上げた衣服を着用しようと腰を浮かせているところであった。
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