38.7℃「吟、おはよー」
「おは……おい」
朝、興玉駅に現れた相棒を見て挨拶が止まってしまった。
「お前体調良くないだろ」
「んん〜大丈夫だよう?」
いやいやいや。全然まったく覇気がないから。
いつもよりポニーテールの位置が低いのも力が出なくて腕が上がらないからじゃないか?
「おいキィ、実際どうなんだよ」
『キィもハンシンと同じ意見だぞ〜……大丈夫だ、ギン』
いやいやいや!こっちもダメじゃん!
あからさまに100%体調不良なのに何言ってんだこの2人は。
「それに今日は帰宅部集合の日だし」
『我々が行かないと……』
「あーやっぱりね、そういう事だよな」
気負い過ぎだ。
「そんな状態で活動出来ると思ってんの?」
「平気だよぉ」
「ふぅん、ホントに?」
フラフラホワホワしている相手の左手首をガシッと掴む。
そのまま改札口から離れて、まだシャッターの閉まっている駅ナカ店舗の前まで引っ張って連れてきた。
「んん、なにするの」
「……さすがに改札近くだと学校の他のヤツら通るから」
キャップを少し上にずらして相棒の額に自分の額をコツンとあてた。
「……やっぱすごく熱あるじゃん」
「うぅ」
「あと体調良かったらお前、絶対こういう感じの隙は見せないだろ」
いつも凛としている相棒が、力無く涙目になって顔も紅く火照っている。
ーー思った通りだ。
これ、他のヤツに絶っっっ対見せらんない。
うぅぅ〜と長めに唸ったあと、観念した相棒がしょんぼり口を開いた。
「わかった。今日は学校休む。……いい?キィ」
『仕方ない早く治そう。気を使わせて悪かったな、ギン』
いつもより力の無いキィの言葉に気にするなと首を振る。
「じゃあ行くぞ。家まで送るよ。それとも病院に行こうか?」
「え……でもそれじゃあ吟が遅刻しちゃう」
ーーprrr♪
突然、僕のスマホが鳴った。
なんだ?と画面を見ると茉莉絵ちゃんからの通話呼出しだ。
「もしもし」
『能登くん、部長体調悪いんですか?』
「茉莉絵ちゃん?え、なんで」
『改札の中です』
はっ、と遠くの改札を見ると茉莉絵ちゃんと思しき女生徒が手を振っているのが見えた。
『先生には私から伝えておくので部長のケアお願いしますね』
「おっ、おう分かったーーけど茉莉絵ちゃんちなみにどの辺から見てたの?」
『いえ、お2人がまた朝の待ち合わせされてるなーと。そんなに見てませんよ?』
それって、最初からまるまるじゃん。
『あ、能登くんも休みますか?』
「いや、行くから!部長休ませたら僕は学校行くから、変な誤解はしな、」
『それではごゆっくり』
ツー、と通話が切れて既に改札の中から茉莉絵ちゃんの姿は消えていた。
「……茉莉絵から?どしたの」
『なんか、ギンも休むとか聞こえたような……』
あーもう、それは逆に出来なくなったよ!
早く学校に行かないと茉莉絵ちゃんが何を帰宅部の連中に言い出すか分かったもんじゃない。
「病人は気にしなくていいの」
「んん〜???」
朝の通勤と通学で改札口へと向かう大波を逆行しながら、フラフラとしたままの相棒の手を掴んで歩く。
実際のところーー僕まで発熱しそうだ。
「頼むから、早く良くなってくれよな?」
オチがない。