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    夢腐 琥鴞くんのかんがえごと

    診断メーカーよりお題「こんなに好きになる筈じゃなかったんだけどな。」を元に指を動かしてたら、こきょむざの歴史みたいになった。良さみのエッセンスを感じてくれ……あと膝枕は良いぞ

    ##小説

    沈思「こんなに好きになるつもりじゃなかったんだけどな」
    琥鴞こきょうは膝の上で微睡む無惨を見下ろし、その癖の強い黒髪を弄りながら呟く。

    元はと言えば生まれて初めて自分に匹敵する才能と思想と品格の持ち主、そして自分を遥かに上回る意思と生命の力に満ちた彼の姿に、朝廷暮らしで擦り減らした自我と欲を呼び覚まされたのだ。まつりごとに組み込まれた無味乾燥な人生を嫌悪し、知らぬ間に緩やかな絶望の道を歩んでいた自分に、彼は本当の人生を思い出させてくれた。初めから尊敬と親愛の情を寄せていたことは否めない。

    しかし、当時は彼の本性を今ほど理解していなかったのだ。自信に満ちた振る舞いは、他者に微塵も価値を見出さない過度な傲慢さからくるものだと知った。鋭い舌鋒は機知のみでなく、彼の生に根付いた深く絶え間ない怒りの現れだった。品性は病的な完璧志向と卑賤なるものへの嫌悪と蔑み、孤高は共感性の欠如、生命力は気も狂わんばかりの死への恐怖の裏返しだった。

    彼は肉体のみでなく精神も常人とはかけ離れていた。本性を知るに従い、はじめは彼の言い分に呆れていた琥鴞こきょうも、納得するに足る経験と時間を彼が過ごしてきたことを知った。彼を創り上げた物語は生命に課せられた運命の拷問のようだった。琥鴞こきょうは同情こそしなかったものの、逞しい生命の切な願いにいたく心を打たれた。

    琥鴞こきょうが悠久の刻と万物の流転に摩耗し始めた時分、彼は成果を催促する際と同じ泰然とした調子で琥鴞こきょうを叱咤した。琥鴞こきょうはその頃になってようやく、彼の異常な精神こそが永劫の年月を生きて尚正気たらしめる選ばれた証だと悟ったのである。

    しかし正気であり続けることは生命にとって耐え難い苦痛であろう。彼は悲願を遂げるためにあらゆる努力をしていた。休みも眠りもせずに働いた。終わらぬ生を手に入れるために苦しいだけの生を送る様は勤勉を通り越して滑稽であった。安息を知らぬ彼は、完全な命を手に入れた後、一体どのように過ごすのだろうか。それを思うと琥鴞こきょうは寒気を覚えるのだった。人生の歓びを知らぬ者が死ねぬ身体で終わりのない時を行く、それほどの苦しみは他にあるまい。苦心の末に自らを地獄へ導こうとしている友を、報われぬ絶望の未来から引き戻せる人物は、琥鴞こきょうを除けば彼の周りに誰一人としていなかった。

    琥鴞は自分の能う限りを尽くして彼を休ませ、歓びを嗜んで貰わんと試みた。彼は数十年毎に、報告書の回収と調査文献の指示を下しに琥鴞こきょうの草庵を訪れる。その折に、双六、碁、将棋の手合わせをし、連歌を詠み、儒学や仏の教えを批評混じりに語らい、異国の品を鑑賞しては伝聞話に花を咲かせ、果てには讃頌の歌を送りながらささやかな閨事に及ぶまで至った。初めは無益な徒労、時間の浪費と罵っていた彼であったが、琥鴞こきょうの根気と愛情の甲斐あって、百、二百と年を重ねるに従い、少しずつ興がる様子を見せるようになっていった。

    共に過ごす時間を楽しめるようになった彼は益々才気煥発な様子であった。人の心を抉ることに特化していた口からは小粋な皮肉が混じるようになり、消えることのなかった眉間の皺の代わりに愉しげで挑戦的な笑みを時々見かけるようになった。庵を訪れた後は思考の調子が良いと気付いたようで、理由なしに立ち寄ることも徐々に増えた。彼の方から気晴らしを強請る時など、琥鴞こきょうは胸の内の喜びを隠すのに難儀した。

    そうして親密になる頃には、琥鴞こきょうにとって彼は言葉で表せぬ存在になっていた。友であるが親友以上、恋人のようでもあるが別れはなく、かといって夫婦と呼ぶにはいつでも瑞々しい仲で、時に師弟のようだが役割は多分に逆転し、最早彼ら二人の関係は彼ら二人だけの名もなきものであった。

    人であった時代は色恋沙汰を疎んじていた琥鴞こきょうだが、今や彼への透き通った尊敬と思慕、深い愛情と軽やかな好意なしに生きていこうとは思わない。どれだけ長い年月を経ようと、数多の興亡を目にしようと、またこの気持ちが変質しようと、彼を本質をみつめる覚悟がある限り、その変化もまた楽しんで行けるだろう、そう琥鴞こきょうは確信している。だから……
    「見果てぬ夢の先を楽しみにしているよ。僕の愛しいもちの君」
    膝上の頭が身じろぎし、うっすら開いた瞼の間から紅玉の瞳が覗く。昔と変わらぬその輝きに、琥鴞こきょうは柔らかく微笑みかけた。
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