「そらとぶノコッチ」ぼくはノコッチ。
しずかなすあなできままにくらす、のんきでじゆうなノコッチだ。
きょうもぐーっとのびをして、つちをしっぽでほりかえす。
せっかちディグダがとびだして、ぼくのおなかではねかえる。
「ああびっくりした。おどろいた。そんなにいそいでどうしたの?」
ディグダはふらふらしながらいった。
「ああ、ごめんねノコッチくん。おいしいきのみがあったんだけど、たべたらめがまわっちゃって」
「へえ、そんなきのみはおもしろい。ぼくもたべてみたいなあ」
「このあなつかえばすぐつくよ。のんきなきみにはあうかもね」
ディグダのとおったトンネルを、ぼくはのそのそくぐりぬけた。
ぼくはあなからはいだして、くさのうえにころがった。
「やあ、ちじょうはまぶしいなあ」
あさつゆがキラキラひかるくさむらは、ぼくにはまるでほしぞらだ。
ぼくはめをもーっとほそくして、くうきをおおきくすいこんだ。
つちのにおいもいいけれど、くさのにおいもきらいじゃない。
さてさてきのみはどこだろう。くんくんにおいをさがしてみると、みずみずしくてすっぱそうな、おいしいにおいがみつかった。
「わあ、これは……」
くさむらのなかに、おおきなきのみがおっこちている。ディグダがかじったやつかなあ。
ちょっとかじってみたとたん、じゅわりとはじけるすっぱさに、ぼくはぱちぱちまばたきした。めがさめるようなおいしさだ。
いくらでもたべたいくらいのごちそうだ。すあなにもってかえりたくて、ぼくはあたりをみまわした。おちているのはこれだけだ。ほかにもあったらいいのだけれど。おなじにおいはどこだろう。
「あっ あんなところに……」
においをたどっていったさき、ぼくのあたまのずうっとうえに、おおきなきのみがぶらさがっていた。
「おいしそうだなあ、たべたいなあ……」
きのみはたかーいきのうえだ。ゆらしておちてこないかと、おおきなみきにずつきをする。
「えいやっ、あいたっ」
なんてずぶといみきだろう。えだはちっともゆれないくせに、ぼくのあたまはぐらぐらゆれた。ゆらしてとるのはむりそうだ。
ぱたぱた、ぱたぱた。ぼくはひっしにはねをうごかす。
だけどぼくのちいちゃな2まいのはねは、ちっともたかくとべやしない。
「うーん、うーん」
しっぽをじめんにつきたてて、コイキングみたいにはねてみる。
だけどぼくのしっぽジャンプじゃ、ちっともえだにはとどかない。
「ひぃ、ひぃ……」
ぼくはへたりとしっぽをたれて、うらめしそうにそらをみた。
ムックルがあかいきのみをくわえて、パタパタとんでいく。
いいなあ。きみはとべていいなあ。おいしいきのみがあったって、とどかないんじゃかなしいだけだ。ぼくはやっぱりつちのなかがおにあいだ。
「おや、やめてしまうのですか?」
えっ?
あさのひかりがまぶしいなかに、くらいよぞらがうかんでる。ぼくはめをぱちくりさせた。
「あなたもとんでみたいのでしょう?」
よぞらがぼくによびかける。ぼくはきのみがほしいのだけど、ほんとはとんでみたいのかしら。
「がんばるあなたをおうえんします」
こえにつづいて、おひさまよりもまぶしいひかりが、めのまえにキラキラひろがった。そして、ぼくのからだがうきあがる。ぷかぷか、ふわふわ。
「わあ、わああ!」
ぼくはおもわずじたばたした。そしたらはねのうごきにあわせて、ぼくのからだはふらふらすすむ。
ぼく、とんでる!
あわあわしながらはばたいて、とうとうぼくはきのみにかじりついた。
じゅわり。じわり。すっぱくて、みずみずしくて、げんきがぼくのおなかにしみわたる。ぼくはなんだかうるうるした。
「じょうずにとべましたね」
よぞらがぼくによびかける。おいしいきのみをたべたわけでもないのに、よぞらはとってもうれしそうだった。
ぼくはゆっくりじめんにおりて、よぞらにきのみをさしだした。
ありがとう、よぞらさん。あなたがとばしてくれたのでしょう?
「わたくしはてだすけをしただけです。がんばったのは、あなたですよ」
そうかなあ。そうかもしれない。
「あなたにはあおぞらもおにあいですよ」
そうかなあ。そうかもしれない。きっとそうだ。
ほめられたのがうれしくて、ぼくはぴょんぴょんとびはねた。
ぼくはノコッチ。のんきなノコッチ。
つちのなかでも、くさのうえでも、あおぞらのなかだって、ぼくはじゆうにいけるのさ。
だって「そらとぶノコッチ」だから!
***
「……なんですか、この絵本」
「おや、アオキ。貴方、この間『そらとぶノココッチ』を交換したでしょう。その子をモデルにした絵本を美術の授業で作ったと言うので、貸してくださったのです」
「はあ……(なんだか内容に別の意図が見えるようなんですが……)」