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    mijinko_baketu

    お絵描きは好きだけど技術は残念ながら…
    絵は女体化only、文章はふたなりORカントボーイのどっちか。

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    mijinko_baketu

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    ※完成版が支部に置いてあります
    本来予定していたエア新刊が間に合わなかったけど、何か祝いたかったので書いたブツ。昨日描いた落書きネタが含まれている。超短い。

    顔のない男ある日当然、晴明の顔が思い出せなくなった。
    憎々しい相手であり、宿敵である男。記憶の中の彼の姿は、頭部だけ墨で塗りつぶされたように黒くなっている。そして、ふとした時に全く別人の顔が張り付いているのだ。
    顔が思い出せなくとも、ついている顔が本人のものかどうかは流石に分かる。
    他人の顔で、他人の声で話しかけてくる晴明は、ただただ気持ちが悪い。最初は自身に対する嫌がらせだと思ったが、鬼一との会話で彼女も同じ状態だと言うことが分かった。話によれば彼の弟子である紫式部ですら、顔が思い出せないらしい。個人的に起こったものではなく、全体に影響を与える大掛かりなバグとみえるが、理由が分かっているのなら話は早い。
    自分が言わなくとも誰かしらが訴えているとは思うが、言って損はないとダヴィンチの元へ訪れたところ、返ってきたのは「出来ない」の一言だった。理由を尋ねるとこれはバグではなく、マスターの影響を受けているせい。つまり、彼があの男を欲しがるあまり、イマジナリー晴明なるものを生み出したことが原因らしい。
    確かに、かつてマスターの部屋に忍び込んだ時に、色々なタイプの男の絵描かれており、端に晴明と書いてあった。夢で見たシルエットが本物かどうか知らないかとも聞かれたことがある。正解を知っている側からすれば、段々煮詰まっていくのが面白おかしくて、内心笑いながら見ていたそれが、後々自身らに影響を及ぼす程大きな力になるなど誰が想像しただろう。
    今年、新たに出会ったサーヴァントに、彼が度々夢中になっていたことも知っていたし、口に出すこともなくなったので、あの男のことなどどうでも良くなったと思っていたのに、余程マスターは晴明が欲しいらしい。
    優秀な人材ではあるので、いないよりかはいた方がいいに決まっているとは思うが、対して付き合いもない相手によくもまぁ、そこまでめりこめるものだ。自分くらいの縁を刻んでから執着してもらいたいものである。
    とはいえ、隠されているものを見たくなるのは人間の性。道満が生きていた時代、男が意中の相手の顔を見ようとあれこれ頑張っていたように、舞台が現代に移っても根っこの部分は変わらない。人の関心の引き方をよく分かっている男の策略に、マスターがまんまとしてやられているようで非常に不愉快である。あれは自分の玩具なのだ。カルデアにすら来ていない相手に遊ぶ権利などない。
    悶々としている時は本人で遊ぶのが一番だ。
    マスターの部屋へと足を向けると、彼の部屋のドアが開いているのか独り言が聞こえてきた。
    「安倍晴カス」
    暴言だ。誰が聞いても暴言でしかない。中々来ない男への恨み節だろうか。自分が言うのは良いが、他人が彼の悪口を言っているのは生前の頃同様に、あまり気分の良いものではない。からかうつもりで来たと言うのについ、苦言を言いたくなってしまい、衝動のままに行動に移してしまった。
    「ンンン……。マスター、人の通りのある所で悪口を言う事はやめた方が良いかと。壁に耳あり障子に目あり。どこで誰が聞いているのか分かりませぬ故……」
    背後から声をかけられたリツカは振り返り、目を見開き軽く口を開け、間抜けな顔を晒した後、困ったように頬を掻いた。
    「へ? オレ、悪口なんて……あ! もしかして、あべのハルカスのこと? あべのハルカスは大阪にある建物の名前だよ。美術館が中にあってさ、印象派の絵とかが来日してるんだ。ゴッホとも仲良くなれたし、行ってみたいなって思って……。そっか、安部晴カスって思った訳ね。心配してくれてありがとう。誤解させちゃってごめんね。うんうん、道満の大切な人だもんね」
    「ンンンン!? 大切な人!? マイマスターともあろうお方が、何を仰っているのやら。拙僧とあやつは宿敵ではありますが、それ以外に何かある訳では……」
    「大丈夫、誰にも言わないから安心していいよ。オレ、用事あるからまたね」
    立ち上がりヒラヒラと手を振る彼は、小さく足音を立てて自室から出ていった。
    締まるドアを見つめ、リツカが完全にいなくなったのを確認すると、深いため息を零す。
    からかうつもりがからかわれてしまった。いや、彼のことだからからかったつもりはなく、本気なのかもしれない。そちらはそちらで大問題である。
    苛立ち紛れに爪を噛み、傍に会ったベッドへと転がる。ミシミシと嫌な音がしているが知ったことではない。いっそのこと壊れろと思いながら首を動かすと、ふわりと見知った香が鼻をくすぐった。
    記憶と香は結びついているもので、瞬間的に脳内で再生される記憶。

    まだ晴明と親しくしていた頃、二人で月を見ながら酒を飲んでいたところ、手を滑らせ酒を服に零してしまい、彼の案内で服を借りることになったのだが、濡れた着物を脱いでいる最中に背後から抱きしめられ、酔いもあってか一夜の過ちを犯してしまったのだ。
    隠していた下半身の秘密を暴かれ、ほとに立派な魔羅を挿れられ、女のように喘いだあの日。抱きしめられ、当時としては珍しい口付けをされた。そう、その時に浮かべた男の顔が……顔が。
    瞼の裏に焼きついたあの日の情景のなか。男の顔だけが違っている。
    こいつは誰だ。
    「ひっ!」
    知らない男が愛を囁き、知らない男が肌を触り、秘部を穿つ。これが悪夢でなくてなんだと言うのだろう。
    脳裏に張り付く記憶を振り払い、ベッドから勢いよく起き上がる。ふと視線を下に向けると枕の端から香袋とみられるものが見えていた。
    匂いの原因はこれだろう。誰に貰ったかは知らないが、本当に腹の立つことばかりしてくる男だ。イマジナリー晴明なるものを作り出し、人の記憶を塗り替えてくる上に、晴明のつけていた香と似たようなものを枕元に置いて。勝手に人のベッドに寝転がった自分の行いを棚に上げ、リツカへの悪態をつく。
    執着している男がカルデアに来ないよう呪いでもかけてやろうか。自分も会えなくなるが良いのかという点に関しては何も心配していない。道満あるところに晴明あり。光あるところに闇があるように、闇があるところには光がある。何かしらの形で必ず出会える自信があった。だから、呪ったところで困るのはマスターだけなのだ。憂さが晴れるほど絶望の表情でも浮かべてくれればいいと術を練っている後ろで、扉が開く音がして部屋の主人が帰ってきた。しまった思い、途中で術を中断し愛想笑いを浮かべながら出方を伺うと、彼の口から想像もしていなかった言葉が飛び出した。
    「道満! 晴明さん来たよ!」
    「久しぶりですね、道満。元気にしているようで何よりです」
    ドアの外からひょっこりと顔をのぞかせる男の顔は、かつて飽きるほど見た本人のもので、悪態よりも先にぽろりと言葉が口から出た。
    「……晴明殿。貴方そういえばそんな顔でしたね」
    これで次に記憶が戻ってきても大丈夫。そんな意味を込めて、ほぅと小さくため息を零した。

    end
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