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    mijinko_baketu

    お絵描きは好きだけど技術は残念ながら…
    絵は女体化only、文章はふたなりORカントボーイのどっちか。

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    mijinko_baketu

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    海外で子供(晴)に出会った道の話。ふせったーくんの仕様の問題でこちらに移動

    未定有給を使い近場の国へ一人旅へ行っていた道満は、道の端で日本人と見られる男の子に出会う。何故、同じ国の人間と思ったのかと言うと、子供の着ている服が牛若丸でおなじみの水干だったからである。格好が時代錯誤な上に、周りを見渡しても親の姿はない。普通に考えて迷子だろうか。見目麗しいこともあり、放置すると人攫いに合うかもしれない。平和な日本にいる分からないが、海外は子供の誘拐がそれなりにある。流石に気づいた以上、みて見ぬふりをして後で何か事件に巻き込まれたとあっては後味が悪い。仕方がなく子供に声をかけることにした。
    「ンン、そこの貴方。そう、貴方です」
    キョロキョロと周りを見渡した後、自身に向けて指さす子供に頷く。
    「両親とはぐれたのですか?」
    「いえ、迷子ではありません。誘拐されたのです」
    「へ? ンンンン!? 誘拐!?」
    何でもないように答えたが、とんでもないことを言ってくれたものである。まさか、既に事件に巻き込まれていたとは思わなかった。厄介ごとに首を突っ込んでしまったことに後悔しつつも、一人の子供の未来が救われたのだ。仕方がない事なのだと自分に言い聞かせ、どこから攫われたのかを尋ねた。
    「何処から連れて来られたのです」
    「日本からです」
    「ンン、言い方が悪かったようですね。日本のどこに住んでいたのです」
    「京都です」
    京都。着ている服装からするに、祭りの最中に誘拐されたのだろうか。改めて子供を観察して気づいたのだが、怪我をした様子はないし、着ているものも汚れてはいない。どうやって誘拐犯から逃げ出したのだろう。このタイプの犯罪は組織的なものが多い。そんな相手がガバガバな環境で子供を監禁するだろうか。見張りだっているはずなのに、おかしい事この上ない。子供に直接訪ねようかとも思ったが、誘拐の最中のことを聞くのは大人だってきついはず。怖い思いをした時のことを思い出させ、子供に泣かれては面倒だ。
    それよりも、誘拐犯が子供を探しているかもしれない。一刻も早くここから立ち去らねばと思いたち、目の前の少年を小脇に抱え、宿泊しているホテルの一室へ移動する。ドアを開いて体を滑り込ませ、キョロキョロと周りを確認してからドアを閉める。ひとまずは大丈夫そうである。安堵のため息を漏らし、小脇に抱えていた子供を地面におろす。急に知らない男に連れ去られたのに、泣きもせずケロリとしている。泣かれたら自分が犯罪者扱いされていたかもしれないことに今更気づき、変な汗が噴き出す。子供の肝が据わっていて本当に良かったと思いながら、可能な限り視線を合わせると、親の連絡を尋ねた。
    「坊や、両親の電話番号を知りませぬか?」
    「いえ、知りません」
    「では、住所は分かりまするか?」
    「それは分かります。晴明神社です」
    晴明神社。歴史に詳しくない人だって一度は聞いたことのある名前。平安時代に活躍した陰陽師、安倍晴明を祀る神社だ。
    やはり、儀式の最中に誘拐されたと考えてよさそうである。服装の理由もこれで分かった。有名な神社の子供となれば、電話番号が知らなくとも簡単に調べがつく。これなら連絡を入れるのも簡単だと安堵し、自身の携帯を操作して、晴明神社のホームページに記載されている携帯番号に電話をかける。
    数コールの後、出てきた女性に神主、もしくは神主の家族に変わって欲しいと頼むも、電話口の相手は困っているようだった。それはそうだろう。いきなり神社に電話をかけてきて神主を出せなど普通ではない。上司を出せと言ってくるクレーマーのようだと思いながらも、どうしてもかわって欲しいのだと言うと、電話口の女性が分かりましたと呟き、暫くして男性が電話に出た。
    「もしもし、私が晴明神社の神主です。何の御用でしょうか?」
    「ンン、いきなりのこと失礼いたしまする。実は儂は今XX国にいるのですが、そこでお宅の息子さんを保護致しました」
    「はぁ……。お言葉ですが、うちに息子はおりません。どなたかと間違っておられるのでは?」
    後は子供を大使館に預ければお役御免だと思っていたのにまさかの返答。どういうことなのだろうと子供を見つめるも、本人は元は晴明神社にいたのだと言う。では誘拐されたのは神主の子供、安倍家の者ではなく、巫女などの子供だったのだろうか。それならば、神主の言葉にも納得がいく。
    悪戯ならば切らせてもらいますと言う神主に慌てて待ったをかけ、その神社で誘拐された子供はいないか尋ねたところ、暫くの沈黙の後、神主が「あっ!」と声を上げた。どうやら思い当たる節があるらしい。
    やはり神社で誘拐された子供はいたのだ。自分が覚えていないだけでニュースにでもなっていたのかもしれない。
    「では、子供の親御さんに電話を変わっていただくか、連絡をとってくだされ」
    「いえ、私が対応します。その子はうちの子供で間違いありません」
    「?」
    先ほどまで息子はいないと言っていたのに、急に変わった発言に違和感を覚える。もしかして、目の前の子供は男の子ではなく女の子だったのだろうか。いや、それならば水干を着ず、別の衣装を着ているはずだ。意味が分からないが、子供は神社にいたと言っているし、神主はうちの子だと言っている。互いの意見は一致しているのだから何も問題ないはずだと無理やり納得し、次の話へに移ることにした。
    「儂はこの後この国の大使館に子供を預けまするので、その後のことはそちら側とやり取りをお願いいたしまする」
    これで終わったと思った。面倒ごとから解放されて旅行を再開できると信じていたのに、何をとち狂っているのか、神主は道満に子供を連れてきて欲しいと頼んできた。
    「いえ、大使館に預けるのではなく、貴方が連れてきてくれませんか。勿論、貴方と子供の分の飛行機代、バス代はこちらが持ちますし、手間賃もお支払いします」
    「ンン、何を言っておられるのです。誘拐なのですよ。しかも、国内の問題でなく海外のブローカーが絡んでいるような犯罪です。国に任せるべきでしょう」
    「いいえ、貴方に連れてきて欲しいのです。国に関してはもう連絡を入れておりますので、その点はご安心を。貴方にしか頼めないことなのです」
    貴方のことを信頼していると言われて、はいそうですかと納得できる者などいるのだろうか。第一、会ったこともない相手に信頼されても困るだけである。こうなれば、受けたことにして無理やり大使館に置いていくしかない。
    「分かりました。では、後払いと言うことで宜しいですか?」
    「勿論です。どうか、よろしくお願いいたします」
    何度も感謝の言葉を述べる神主に、騙そうとしているだけに罪悪感が湧いてくるが、この問題は個人でどうにかするレベルを超えているのだ。仕方がない事なのだと割り切り、大使館に連絡を入れようとした瞬間。子供が道満の腕、いや正確には服の端を掴みをこちらをじっと見つめてきた。
    「貴方と一緒が良いんです。一緒に帰ってくれますよね?」
    どの程度、電話の内容が聞こえていたのか知らないが、首を傾けお願いをしてくる子供。ぐっと引き込まれる感じがし、携帯電話を持っていた手が止まる。何を勝手なことをと思うのに断れない何かがあった。唇が震え、声にならない。
    「ね? 良いでしょう? お願いします」
    再度、お願いをしてくる彼に、つい頷いてしまった。
    「約束は絶対ですよ」
    笑う姿はそこらの子供と変わらないのに、念押ししてきた言葉が耳に残って消えない。合わさっていた視線が外れた途端、緊張の糸が切れ、へなへなと床に座り込み、胸を抑える。今まで生きてきて初めての経験だった。ゾワリと背筋に冷たい汗が流れる。普通の子供ではないことに今更気づいたが後の祭り。
    ”約束は絶対”なのだ。
    守らなければ恐ろしいことが起こるような気がして、急いで帰宅の準備を始める。素早く、明日の飛行機のチケットの手配を終わらせ、次は部屋の片付けへ移る。手を動かしながらも、先ほどのことで頭はいっぱいだった。
    何故自分だったのだろう。助けた相手なら誰でも良かったのだろうか。そも、あんなに目立つのに誰も声をかけなかった。振り返らなかった。
    今になって不自然さが気になってくる。しかし、神主がうちの子と言ったのだ。生きている人には変わりないはず。安倍晴明の母は神の使い。その子孫ならば、何かしらの力を持っていてもおかしくないはずだ。そう、だから何もおかしくなどない。先祖返りか何かだと無理やり自身を納得させ、広げていた荷物をキャリーバッグへと詰め込む。そこまで散らかしていなかったこともあり、あっという間に片づけが終わると、明日に着る服だけを出して状態でさっさと寝ることにした。
    まだ明るい窓をカーテンで閉ざす。寝るには早すぎるぐらいだが、何時間も子供に構う気になれないし、都合の悪いときは寝るに限る。
    「外にさえ出なければ後は何をしていても構いませぬ。儂は先に寝させてもらいまする」
    「待ってください。お腹がすきました。何か食べたいです」
    一体、いつ誘拐されてどのような環境で監禁されていたのかは知らないが、流石に無視するのは可哀想に思い、バッグの中を漁り、念のためにと入れておいたカロリーメイトを取り出し渡そうとして、そこで初めて子供が何かを握っていることに気づいた。じーっと見つめていると、少しだけ手を開き中身を見せてくれた。
    何かの欠片のようなもの。このくらいの年頃の男の子は木の棒とか、そう言うものが好きなのだから別におかしな話ではない。自分も海で拾った綺麗な石を大切に持っていた。それがただのガラスの欠片とも知らずに……。
    思い返して懐かしい気持ちになりながら、ソファに横になる。
    ベッドは子供が使うように言うと一緒に寝ると言ってきた。変な子ではあるが、子供は子供。寂しいのだろうと思い好きにしなされと答え、ベッドに入り込むと眠りについた。

    寝ていたはずなのに、胸元に違和感を覚え目を覚ます。
    何事だと思い視線を下にやると、子供の頭がそこにあった。抱きつかれているのかと思ったが、胸にぬるりとした感触がする。まさか、この年で乳を求めているのかと驚き、引き剥がそうとするも信じられない力でしがみついてくる。
    「おやめなされ。儂は乳など出ませぬ。乳首の大きさを見れば分かるでしょう」
    引っ掛けるほどもない小さなそこ。当然、乳首など咥えられるはずがない。何度、出ないと言っても子供は胸をしゃぶるのをやめないどころか、胸を揉んできた。
    なんというマセガキなのだろう。見たところ小学低学年ぐらいなのに、実際はもっと上だったのだろうか。いや、それよりムキムキマッチョの大男?に欲情するとか性癖が歪み過ぎている。人生何週目なのだ。
    今まで加減していたが我慢の限界を迎え、頭を鷲掴み無理やり引き剥がす。暗闇の中なのでハッキリ見えている訳ではないが、吸われていた部分がジンジンとするし、唾液のせいで冷たさを感じる。
    最悪な気分になりつつも、思いっきり投げ飛ばす訳にもいかず、掴んでいた子供をシーツの上に放り投げる。痛いと片手で頭を押さえているが知ったことではない。加減してあげただけ感謝をして欲しいものだ。
    他人の子ではあるが、こうして出会ったのも何かの縁。将来、犯罪者にさせないためにも、セックスについてのマナーを教えなくていけない。妙な使命感を覚え、涙目でこちらを見ている子供に話しかける。
    「良いですかな。性的な行いは相手の同意があって初めて成立するもの。無理やりは犯罪ですぞ。それに貴方にはまだ早い行いです。大人になってから思う存分しなされ。道徳に反していなければ誰も文句は言いませぬ」
    精通もまだのくせにと、遠回しにNOを突きつけたはずなのだが、子供は声を弾ませこちらににじり寄ってくる。
    「じゃぁ、大きくなったら私としてくれますか?」
    「ンン、そうですね。大人になったら考えても良いです」
    「駄目です。今考えて下さい」
    よくある子供の戯言。軽く流そうと思ったし、逃げるための保険も入れたのだが、流石普通ではないだけあり、罠に引っかからなかった。
    「大きくなるまでどれだけかかると思っているのです。今決める必要はないでしょう?」
    見た目からして十代前半。まだ人生は飽きるほどあるのだ。セックスの相手など今すぐ決めるようなことではないと諭すも、子供は頑として聞き入れない。
    「いいえ、ハッキリ決めておくべきです」
    「決める以前に何故、儂なのです。貴方は顔も良いのですし選びたい放題でしょう…」
    別に相手に困るような顔でもないのに、そうまでして自分に固執する理由はなんだろう。強く求められる理由が分からなかった。
    道満と子供は、偶然出会っただけの関係に過ぎない。同じ日本人だから? 親元と離れて寂しいから? それが理由なら早まったことなどしない方が良い。将来黒歴史になること間違いなし。気まぐれなど起こさない方が良いと言いかけた時、子供が遮るように口を開いた。
    「おまえとは相性が良いからです。一緒にいて心地よいからでは理由になりませんか? こう、馴染むんですよね」
    相性が良いと言うのは何を根拠に言っているのか分からないし、心地良いと言われる理由の分からない。最後の馴染むとは一体なんのことだ。まさか、セックスの相手としてだろうか。してもいないのにそんなことを言われても困るし、受け入れるつもりもない。何一つ納得のいかない理由に一気に疲れてしまった。
    「言い分は分かりましたが納得はしませぬ。良いですか、今度胸を吸ったら大使館へ置いていくのでそのつもりで」
    「胸じゃなければ良いんですか?」
    「ンンン、余程置いていかれたいようですな」
    にっこり笑いかけると、子供は「嫌ですね冗談なのに」とムカつくことを言いながら、布団に入り込んできた。何かするつもりなのではと構えていたが、すぐに隣から寝息が聞こえてきた。誘拐された癖にこの余裕。一緒にいればいる程、可哀想だと思う気持ちがなくなっていく。同情心がゼロになる前に出来れば別れたかった。
    騒いでいたせいで眠れるか心配だったが、自分が思うよりも疲れていたらしく、目を閉じると心地よい眠気がやってきて、そのまま朝まで眠りについた。

    朝、子供によって起こされ目を覚ました道満は、時計を見て慌てて飛び起きた。昨日、早めに寝たはずなのにぐっすり眠りこんでいたらしい。
    服を着替え、事前に用意した荷物を掴み、忘れものがないかチェックしてホテルを出る。
    元はそんなつもりで選んだ訳ではなかったのだが、空港の近くに泊っていて本当に良かった。海外では時刻表通りにバスや電車は来ないので危うく飛行機に乗り遅れるところだった。子供の歩調に合わせていると間に合わないので、抱っこした状態で空港へと全速力で走る。
    連れが珍しい恰好をしているせいか、人々の視線を感じるがこれもあと少しの辛抱だ。飛行機さえ乗ってしまえばこちらのもの。日本につけば少しは動きやすくなるだろう。
    空港につき、一通りの手順を踏み飛行機に乗り込むと、漸く一息つくことできた。予定では空港のラウンジでゆっくりするつもりだったのだが、とんだ誤算だった。とはいえ、やらかしたのは自分なので文句は言えない。土産を買うことが出来なかったことが心残りだが、飛行機代や手間賃を神主がくれると言っているのだから、近いうちにまた行けばいいと気持ちを切り替えることにした。
    後は勝手に飛行機が目的地まで運んでくれる。子供のお守りもあと少し。
    横に座っている彼は出会った時と同じく、何かを握っている。ずっと持ち続けていたらしい。まさか、寝るときも握っていたのだろうか。絶対持ち帰ると言う執念に感心すら覚える。
    当の本人は座席の後ろ、自分から見て正面についている個人用モニターこと、機内エンターテインメントに釘付けである。流れている映像は海外の恋愛ものらしい。画面では男女が濃厚なキスを交わしていた。子供なら子供らしくアニメを見ていればいいのに、こんなものを見ているから出会ったばかりの人間の乳を吸うようになるのだ。本当はチャンネルを変えてやった方が良いのだろうが、下手に関わらると面倒なことになりそうなので、あえて無視を決め込むと持ち込んだ荷物から文庫本を取り出し、読み始めた。

    近場だったこともあり二時間半ほどで関西国際空港へと到着し、子供の手を引き京都行きのバスに乗り込む。
    やはりここでも人の視線を感じるのは物珍しさからだろうか。見目麗しい上に古めかしい衣装に身を包んだ子供。コスプレか何かだと思われているのかもしれない。簡単に写真や動画を撮れるようになった今、珍しいものはすぐにネットへ上がってしまう。撮されてネットに上げられるのだけは勘弁してほしいと思いながら、約一時間半バスに揺られ京都駅八条口へ。そこからタクシーに乗り、晴明神社の近くにおろしてもらった。

    代金を支払っている間は数分程度だったはずなのに、タクシーから降りた時には子供の姿はどこにもなかった。神社の近くだからと言って一、二秒の距離ではない。目的地である彼の自宅まで、待ちきれず一人で帰ったのだとすれば、駆けている後ろ姿が見えるはずなのに、道満の視線の先に少年の姿はない。
    子供は煙のようにして消えてしまった。文字通り跡形もなく。
    狐に化かされたような気分になり、頬を摘まんで現実かどうかを確かめてみたが、伸ばしている爪が食い込んで痛いだけだった。
    誘拐? 神隠し?
    ここまで連れてきたのに見失ったなど、神主にどうやって報告すればいいと言うのだろう。近くまで連れてきたのですがいなくなってしまいました?
    そんなこと言えるはずがない。そも、近くまで連れてきたとどうやって証明するつもりだ。航空券を見せたところで何の意味もない。
    ひとまず周辺を探す方が先だと思い、子供の名を呼ぼうとして口を開いたが、名前を聞いていなかったことに気づき直ぐに黙り込む。
    一日以上一緒にいたのに、どうしてこんなに大事なことに気づかなかったのだろう。後悔してももう遅い。自分の足で探すしかないと、周辺を何時間もかけて捜索したが、遂に子供を見つけることは出来なかった。
    見つからない以上、正直に理由を話すしかないと観念し、肩を落とし晴明神社の鳥居をくぐり、近くの建物の前に立っている神主へと声をかけた。
    「もし、そこのお方」
    「嗚呼、貴方ですね。ありがとうございます。おかげで無事戻ってきました」
    こちらを見て、パッと表情を明るくし話しかけてくる神主。
    何を言っているのだろう。帰ってきた? 自分が散策している内に帰ってきたとでもいうのだろうか。人間の、しかも子供の走る速度などたかが知れている。もし、本当にあの一瞬の間に神社に帰ったのだとしたら、チーターも真っ青な瞬発力である。人間を止めているとしか思えなかった。
    「帰っているはずがありませぬ。子供は儂の目の前で消えてしまったのです」
    「いいえ、帰ってきています。ほらこれが証拠です」
    神主が握っていた手を開き、手のひらにあるものをこちらへと見せてくる。そこに乗っていたのは子供が握っていたものと似た、何の欠片だった。
    「これは本殿に飾られていた品の破片です。罰当たりなことですが、少し前に何者かが盗みに入りまして、一部を壊して持って行ってしまったのです。警察の捜査で、海外の窃盗団が関係していると言うことは分かりましたが、それっきり。もう帰ってこないものと思っていたので、貴方様には本当に感謝しています。晴明様も貴方に大層感謝しておりました。それと伝言を預かっております。”大きくなったら私として下さいね”だそうです」
    「……?」
    神主の言葉をどれだけ考えても意味が分からなかった。
    窃盗にあった経緯は分かったが、誘拐の説明はまるでなし。一緒に起こった事件なのに省く理由とは何だろう。大使館には言わないで欲しいと言った理由も謎のまま……。
    まだ捜査中なのだろうか。少し前と言ったが、いつ事件が起きたのか具体的な話は聞いていない。子供の様子からして、多分数日前なのだろう。
    言わないということは、言えない何かがあると言うこと。気にはなるが一般人には聞かせられない内容なのだろうなと察し、誘拐に関して考えるのを止めた。
    「他に何か御用は?」
    ニコニコしてこちらを見ている神主に、何か他に言うことはないかと思考を巡らせる。
    替えの利かない欠片が神主の元にあると言うことは、子供はちゃんと家に帰れたらしい。一応、役目は終わったと考えて良いのだろう。さっさと帰りたい気分だが、一つだけ引っ掛かっていることが残っている。
    神主が言った”晴明様も貴方に大層感謝しておりました。それと伝言を預かっております”の部分。
    伝言の内容は道満と子供が交わしたものなので誰が言ったかなど決まり切っているが、そうすると伝言主は神主の言う晴明様になってしまう。
    もし神が現世にいるのならば、自分で窃盗をどうにかすればいいだけの話である。子供だって神の力で連れてこればいい。現実にはそんな奇跡は起きていないので、神主が不思議な雰囲気の息子を様付けで呼んでいるのだろう。
    確かに何か普通でないものを自身も感じたので、呼びたくなる気持ちは分からなくもないが、いくら不思議な子供であろうと教育は必要である。そんなことをしているから、人の乳首を舐めるような子に育つのだ。
    多分、タクシーで代金を支払っている時にどこかに隠れていて、道満が探しに行った隙をついて神社に帰ったのだろう。慌てるあまり、どこかに隠れていると言う線に気づけなかった。わざわざ連れてやったのに、人をひっかきまわして自分は家に帰るなど、なんというクソガキ。文句の一つでも言わなければ気が済まない。
    「では、一つお尋ねしたいことが。晴明殿はどちらに?」
    「神社におります。では、今から代金と手間賃を持ってきますので、暫くお待ちください」
    深々と頭を下げ、建物内に消えていく神主をジト目で眺める。
    分かり切ったことを言わないで欲しい。帰ってきていると最初に言ったではないか。はぐらかされたことに苛立ちつつ、暇つぶしも兼ねて本殿の前に置いてある像を眺めていると、後ろから声をかけられた。
    「漸く会えましたね」
    「ンン?」
    聞き覚えのない声に振り向くと烏帽子を被り、狩衣を着た美しい青年が立っていた。顔立ちがクソガキに似ているので、兄弟なのかもしれない。弟と父親の件で文句を言ってやりたかったが、初対面の相手に文句を言うのも違う気がして、ぐっと堪えると大人の対応を取る。
    「どちら様でしょうか?」
    「おまえの良く知っている晴明です」
    「ンン、莫迦にしているのですか?」
    おまえの知っている晴明など知らない。と言うか、初対面の相手をお前呼ばわりとはいい度胸である。よく考えれば弟の方もお前呼ばわりだったことに気づいてしまった。父親は何をしているのだ。教育が足りてないと思いつつ、話は終わりだと無視をすることにした。
    「冗談に付き合うつもりはありませぬ。他を当たってくだされ」
    「冗談ではありません。おまえの乳を舐めていた晴明です」
    「……弟から話しを聞いたので?」
    一体、何を話しているのだ。父親である神主も伝言のことを知っていたと言うことは、家族全員に乳を舐めた挙句、大きくなったらセックスをすると言ったのだろうか。
    人のことをなんだと思っているのだと、般若のような顔をして睨みつけるも、目の前の男はひるんだ様子もなく、つかつかと近づいてくると腰に手を回してきた。
    「大人になったので相手をしてください」
    「……約束したのは貴方ではありませぬ。お引き取りくだされ」
    回された手を思いっきり払いのけ、アリクイの威嚇のポーズをしながらジリジリと距離を取る。大男としか見えない道満を相手に選ぶと言うことは、二人とも男色趣味でもあるのだろうか。残念ながら道満に竿などついていないので諦めて欲しい。正直に言うか言わないか悩んでいるところで、目の前の男は意味不明なことを言い始めた。
    「いいえ。約束をしたのは私です。まぁ、海外に連れ去られたことと、欠片になったことで子供の姿をしてはいましたが…」
    「ンン~?」
    言っている意味が分からない。海外に連れ去られて欠片になったら子供の姿になるとはこれ如何に。魔力が切れたり節約していると子供の姿になる漫画やゲームはあるが、それはフィクションの話である。現実でそんなことが起こるはずがない。言っていておかしいと思わないのだろうか。顔は良いのに頭は残念らしい。
    「空想ものの読みすぎなのでは? 頭の病院へ行った方が良いですぞ」
    「信じていないですね。仕方がない、これでどうですか?」
    言うや否や、青年の身長がみるみる縮み、シャープだった顔はふくふくとした顔つきへと変わっていく。声も高い子供のものに変わってしまった。
    「ンンンンン……」
    ついに自分も頭がおかしくなったらしい。目を何度擦ってみても現実は変わらない。青年が子供になった衝撃に、めまいを感じよろけると大人の姿に戻った男が自然な動きで支えてきた。
    「大丈夫ですか?」
    「……貴方、人間じゃなかったのですか……」
    口に出した瞬間、全身に鳥肌が立った。
    人間が子供から大人へ一瞬で変われるはずがないので、今自分を抱きしめている男は人ではないことになる。神主の言う”晴明様”の意味が、本当に使えている神のことだったなんて、誰が分かると言うのだろう。場所を神社と言ったのも、はぐらかした訳でなく、本当のことを言っていたと今更気づいた。
    「ええ、私は人ではありません。この神社に、日本中に祀られている神、安倍晴明です。おまえも神主から話しを聞いたでしょうが、私の一部は少し前に窃盗にあい、国を出てしまいました。とはいえ、やられっぱなしではありません。残った力を使い犯人に罰を下したところ、犯人は怖くなって盗んだ一部を捨てました。その場所が、おまえと出会ったあの場所です。
    海外でも私の名前を知っている者はいるでしょうが、それはキャラクター的なものであって信仰とは違います。信仰されている場所から離れた上に、欠片でしかない私は、天罰を下したことにより魔力を使い果たし、一人では動くことも出来ずにいました。弱り切っていた私の姿を見れるのは本当に、ごく一部の者だけ。
    おまえと出会えたのは本当に幸運でした。大使館に預けることが出来なかった理由はもう分かりますね? おまえと接触することで魔力を貰い、動ける程度に回復した私は、こうしてこの地に帰ってくることが出来たのです」
    「……」
    信じたくないのに、これは夢だと思い込みたいのに。ただの点でしかなかったものが、一つの線へと繋がっていき、謎が芋づる式に解けていく。
    神主が誘拐の話をしなかったのは、誘拐された人間がいなかったからだし、息子はいないがうちの子と言ったのも、そのままの意味。やたら人目を感じたのは晴明の姿が人に見えておらず、一人で会話している頭のおかしい人だと思われていたからで、煙のように消えたのも、隠れていた訳ではなく一瞬にして神社に戻ったからだった。
    頭がおかしいやつだと思われていたことが地味にショックなのだが、一番の問題はそこではない。
    神と性行為の約束をしてしまった点である。人と人との約束とは違うので、処女を捧げることになってしまった。遊びで終わって欲しいのに、こちらを見つめる男の瞳は真剣で、一度で終わるとはとても思えなかった。
    「儂は、これからどうなるのです……」
    「勿論、約束通り私と交わってもらいます。そして、妻となり私の子を産んでください」
    「ンンンン!? 子を産む!?」
    「ええ、子供です。おまえ、下半身は女でしょう?」
    さらりと爆弾発言をしてきた男に目を白黒させる。子供、いや晴明には見せていないのに何故、秘密を知っているのだと思ったが、相手は神である。隠し事など出来るはずがない。

    嗚呼、詰んだと思ってしまった。
    もう逃げられない。

    「……約束は絶対なのでしょう?」
    「ええ、約束は絶対です。私の妻たるおまえ、名前を教えてくれますか?」
    「……ど、うまん」
    「では、道満。神主に結婚を知らせましょう。住む場所は後で決めるとして、まずは本殿に布団を敷いてもらわねば」
    紙袋を持ってこちらへ歩いてくる神主を見つけ、弾むような声で囁いてくる夫に抱かれながら、道満は首を縦に振った。

    おわり
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