2月の本こんな感じっていう…“黒龍”
裏社会に身を置く者ならその名前を一度は聞いたことがあるだろう。
かつて関東を統一した伝説の暴走族、黒龍(ブラックドラゴン)を母体とした反社会的勢力。その圧倒的資金力から別名“銀行屋”とも呼ばれ、それ故に絶対的中立を保っている。
彼らが進んで人を殺すことも、犯罪を行う事等一切しない。裏社会で生きていくにも、反社会的勢力と名乗るにも清廉すぎるのが彼等だった。
今の日本は梵天を最大勢力として様々な勢力が入り水面下で競り合っている。海外からも様々な勢力が入り常に緊張状態にあった。少しでも均衡が崩れた瞬間日本は混乱に陥る。そこに現れたのが黒龍である。首領を務める大きな青い瞳を持つ若い男は歌うように語った。
“ 初めまして、我々は黒龍と申します。皆さんに素敵な提案をしに参りました。我々が持つ莫大な資金を是非とも皆さんにお貸ししたいのです。我々は皆さんが金銭で困った際のお力になりたいのです。そのためには先ず信頼を得ねばなりませんよね。
なのでまず初めに全員に1000万円を無償で提供させて頂きます。もちろん提供ですので1000万円は受け取った時点で皆様方のものです。返済の義務などございません。
我々は皆様方にいついかなる時でも迅速に、低金利で資金を提供させて頂きます。どんな金額でも仰ってください、すぐにご用意させていただきます。
…ですが代わりにひとつ、わがままを言ってもよろしいでしょうか。我々黒龍がこの裏社会を管理させて頂きたい。黒龍は絶対的中立を約束致しましょう。未来永劫あなた方の敵になることはありません。しかし、我々はあなた方誰かの味方となることもありません。つまり──、我々は莫大な資金力を以てこの裏社会の抑止力となるのです。”
その青い瞳は深海よりも深く暗い色を宿し、ともすれば穢れも知らなさそうな幼さの残る顔立ちで男は蠱惑的な笑みを浮かべた。
隣に控えていた腹心であろう男に合図を出せばアタッシュケースから札束を雑に掴んではらはらと紙吹雪のように舞わせた。この世で最も贅沢な紙吹雪の中男は笑った。
“ほら、素敵な提案でしょう?”
そして黒龍はカネを使い、あっという間にこの日本の裏社会の抑止力となった。どこまでも清廉でそして狡猾に。彼等の意図は誰にも分からない。
「カネで梵天(俺ら)の抑止力になって、俺の監視か。タケミっちの割に考えたじゃん」
いいや、分かる男がたった一人。
「いーよ。お前の手の上で踊ってあげる。上手く俺を踊らせてみせてよ」