いぬぼくパロ🐶🎋♀🈁
メゾンド東卍
11号室
イヌピー
タケミチのSS狗神の先祖返り。はるか昔に実家が家事になった際、タケミチによって姉を助けられた。それ以来タケミチの事を探し続けていた。ナチュラル忠犬体質。
タケミチとココ以外には狂犬でタケミチから貰ったものをコレクションしている。
ココ
タケミチのSS鴉天狗の先祖返り。恩人であるタケミチを探すのを手伝っていた。オカン気質。外面はいいナチュラル腹黒。期末の神様であり、独自に作った対策ノートが大当たりしてからは常に赤点の危機にある住民たちからテスト期間中特に重宝されている。
タケミチ
吸血鬼の先祖返り。カマキリと同等の強さ。異常にタフ、身長は153cmと言ってるがだいぶサバを読んでいる。1年前に先祖返りの力が暴走しそのせいで親友が大怪我をおってしまったのを引け目に感じている。進学を理由に地元から逃げるように引っ越してきた。
1号室
場地
鬼の先祖返り。めちゃくちゃ強い。中学でダブったためタケミチ達と同級生。学校ではクソダサガリ勉スタイル。
千冬
雪男の先祖返り。場地のSS。タケミチの同級生。
3人の初対面を最悪にさせた張本人
10号室
マイキー
九尾の狐の先祖返り。最強。タケミチを一瞬で気に入るもSSがウザイと思ってる
ドラケン
龍の先祖返り。マイキーのSS無茶苦茶強い
3号室
八戒
がしゃどくろの先祖返り。タケミチ達とは同級生。
三ツ谷
大蛇の先祖返り。八戒のSS。服を作るのが趣味でストレス発散にロリータドレスを作ってはタケミチの事を着せ替え人形にしてる。
桜がひらひらと舞う。くるくると踊りながら落ちる様は可憐で美しい。
薄く色づく桜並木を歩き、時折地面に柔らかく降り積る花弁を蹴り上げた。ふわりと舞う花弁から淡く桜の匂いがして、思わずすう、と息を吸い込めば春の匂いがした。
新しい場所、新しい生活、新しい出会い。
これから何が起こるのか想像もつかない。今度こそ大丈夫。きっとやり直せるはずだ。これからきっといい日々になるはず。タケミチはほんの少し先の未来へ期待に胸を膨らませた。
──というのが30分前。早くもタケミチは実家に帰りたくなっていた。
初めての一人暮らしに心躍らせながら自分の部屋を開けた瞬間、部屋には見知らぬ男が二人いた。
金髪の顔に大きな痣があるが美しい顔立ちの男と艶やかな黒髪をアシンメトリーの髪型にした切れ長の瞳の男。
思わず「すみませんでしたッ!」と叫んで部屋を閉める。
──いきなり部屋を間違えた恥ずかしい!
顔に熱が集まるのを感じつつ、慌ててスマートフォンを取り出して母とのトーク履歴を呼び出す。何度も目の前の部屋番号と、メッセージに書かれている部屋番号を確認するも間違いは無い。
抜けているところがあるタケミチならまだしも、しっかり者の母親のことだから間違えるはずはない。
だとするならば間違えているのはあの男達の方だ。
いや、もしかして本当に母親がうっかり間違えてしまったとか──?慌てて確認の電話を入れ呼び出しのコール音が鳴ったと同時に扉が開かれる。
出てきたのは黒髪の切れ長の目元が特徴的な男。こちらの顔を確認するとぺろりと舌を出した。捕食者を思わせるその仕草に小心者のタケミチは震え上がる。
(え?食べられるのわたし?)
無機質なコール音を聞きながら男の何を考えているか分からないオニキスの瞳に見つめられて軽いホラー映画より恐ろしい光景だった。何よりも男の身長が高いため威圧感がある。蛇に睨まれた蛙とはこの事か…。
ぶつり、と母親繋がったことを知らせる音が聞こえた。その音が聞こえたと同時にタケミチは普段のどん臭さが嘘のような反射神経を発揮して、藁にもすがる思いで母を呼ぶ。
「お母さん!わたしの部屋に知らな──」
「花垣様、お世話になっております。この度はお嬢様のSS(シークレットサービス)を務めさせていただきます九井と申します」
男がひょい、とタケミチのスマートフォンを奪うと電話口の母と話し始めたではないか。
──え?待って?あなた本当に誰?なんで楽しそうに話してるんですか?SSって何?お母さん、わたし何も聞いてないよ!
混乱するタケミチを他所に見知らぬ男と電話の向こうの母親の会話は弾んでいるようだ。男の口がうまいのか母もやはりタケミチの母で人に騙されやすいのか。おそらくは前者であろうが、頼みの綱であった母すらもう頼れなくなってしまった。
「それでは…ええ。しっかりお嬢様をお守り致します。今後ともどうぞよろしくお願い致します」
勝手に電話が切られ、スマートフォンをタケミチに戻すと男はにこりと綺麗な笑みを向ける。お手本のような笑顔に胡散臭ささしかない。
「あ、あの…どなたですか…ここ、わたしの部屋…だとと思うんですけど…」
「詳しい話は中でしようか」
──あ、多分これ連れ込まれて殺されるやつだ。
短い生涯だったと己の人生を儚むも、ぐっと握りこぶしを作る。もしもの時は“ アレ ”があるじゃないか。不意を突いて逃げ出せばいい。タケミチは覚悟を決めて部屋へと踏み入れる。ばたんと閉じた扉の音すら聞こえない程にばくばくと心臓が鳴っている。
男の後ろを着いてリビングへと入る。段ボールばかりのその部屋は部屋と思えない程に殺風景だ。積み上がった段ボールに心覚えがあるのでやはりこの部屋はタケミチの部屋だ。
先程の金髪の男が佇んでいる。真っ白な空間と男の神聖的とも言える美しさが見事に親和して宗教画のようにも思える。ぼうっとしていたらしい男は二人に気づくとゆるりとこちらを向く。その仕草すら様になる。
黒髪の男は金髪の男と合流すると顔を見合わせて何かアイコンタクトを取ったようだ。多分次の瞬間には襲われて殺される。タケミチは不安で胸元を握りしめていた指先に力を入れる。
「あ、あの…!」
だがタケミチの予想を裏切り、二人は流れるような動作でタケミチの前へと傅いた。
二人はタケミチへと頭を垂れる。金髪の男がタケミチの小さな手を取り、アイスブルーの瞳を僅かに潤ませて見上げる。
「お待ちしておりました、タケミチ様。あなたに会えるのをずっと…ずっとお待ちしておりました」
「はへっ!?」
「俺達はこれから貴方の身をお守りし、あなたに仕える忠実な僕です」
「え!?え!?まって、何!?」
「「俺たちはあなたの犬だ」」
タケミチは今この場で気絶したかった。気絶して目が覚めて、まだあの桜並木にいて新生活へ胸を躍らせたかった。しかし今目の前で起きているのが悲しい事に現実である。
──犬?犬って何?新手のやばいプレイ!?
「…ココ、どうしよう反応が無い」
「嬉しくて言葉が出ねぇのかもな」
「ンな訳あるか!」
絶句していたのだが、思わずツッコめたのでちょっとは余裕があったみたいだ。
「ココ、嬉しくないみたいだ」
「照れてるだけかもな」
「だからンなわけあるかァ!パニクってんですよ!急に知らない男の人2人にこんな事されたら誰でもビビりますって!」
「…こうすれば喜ぶと松野は言っていた」
「まあまあボス、最初ってのは肝心だろ?これは俺らからのパフォーマンスって事だ」
「ボス…?あの、わたしのことを知ってくれているみたいですけど、わたしはあなた達のこと知らなくて…!本当に何が何だか分からないんです!うちの母がなにかしたのかもしれないですけど、ごめんなさい、犬とかなんだとか全部無かったことにしてください」
タケミチは言葉を慎重に選びながら、丁重に断った。彼らが言ったSSという言葉の意味も、なぜ彼らがいるのかも、どうして知られているのかも分からない。
今のタケミチからしてみれば二人は不気味な存在に他ならない。それにこれからは一人で頑張ると“ 彼女 ”に誓ったのだ。
「…お願いします、出てってくれませんか。今は疲れてて…とにかく一人になりたいんです」
タケミチの言葉に二人は何も言わずに部屋を出た。彼女を主と慕うだけあり、タケミチの命令には素直らしい。そこだけは救いだった。
ようやく一人きりになれる。深くため息を吐いてその場に座り込む。段ボールの山を見てやっぱり手伝ってもらえばよかったかなと思ったが、慌てて頭を振る。一人で頑張らなきゃ。一人で何でも出来なきゃ。
もう誰も傷つけないように。ひとりでいなきゃ。
「…」
荷解きを初めてから4時間。早くもタケミチは諦めつつあった。現在は共有スペースのソファでぐったりと宙を見つめている。母親から入居するよう進められたこのマンション、メゾン・ド・東卍は俗に言う高級マンションと言うやつだ。故に今タケミチが居る共有スペースも高級ホテルのような佇まいだ。
その他にも住民が使えるカラオケやシアタールーム、会議室にジム、温泉など至れり尽くせりである。多分一生ここで遊べるとすら思える充実ぶり。噂では入るのに厳格な審査が必要との事だが、なぜ母がこんな所を選んだのか、なぜタケミチが入居できたのかはよく分からない。ただ、ボロアパートを借りようとしていたタケミチを必死に止めてあれやこれやと説得させた姿を思い出す。その結果があのよく分からない男達なのが謎だが彼らは母がつけた護衛なのだろうか。
「ん?知らねー顔」
あまりの座り心地の良さに溶けるように座っていたタケミチは後ろから聞こえた声に慌てて背筋を伸ばす。
「あ、初めまして!今日から11号室に住むことになりました花垣と申します!」
振り向けばピンクゴールドの髪をした中性的な容姿の少年が立っていた。オーバーサイズの服をゆったりと着こなし、タケミチを見るとニコリと笑う。
歳はタケミチと変わらないように見える。タケミチのような特殊な事情があるならまだしも、タケミチと同い年程度でこのマンションに住んでいるあたり何処かの御曹司なのだろうか。
「そんなに見られると恥ずいんだけど」
「あわ、あ、スンマセン!」
「あはは、いーよ。11号室なら俺の上の階だね。俺は10号室に住んでる佐野万次郎。マイキーって読んでよ」
「ま、マイキーくん…?」
「うん。お前下の名前は?」
「武道…です」
「へぇ、女の子なのにかっこいい名前だね」
「あ、ハハ…。男っぽいッスよね?」
予め予防線を張ってしまうのは昔からの癖だ。その昔は男名であるが故に心無いいじめっ子達ににからかわれてきたが、決してタケミチはこの名前を嫌ってはいない。
マイキーはタケミチをじっと見つめ、1歩踏み出す。至近距離で見るマイキーの顔面の出来の良さに眩しくなって目をぎゅっと瞑ればくすくすとマイキーが笑っていた。
「なら今日からお前はタケミっちな」
「へ?」
「女の子だからちょっと可愛いアダ名にした」
「わたしのアダ名っすか?」
「うん。タケミっち、今日から俺のダチな♡」
なんて人懐っこい少年なのだろう。タケミチは感心する。いきなり友達が出来てしまった。今日はやけに急展開が多いが新天地での出会いとはこんなものなのだろうか。
マイキーに手を取られブンブンと振り回される。華奢そうな見た目の割に力が強いらしい。そこら辺はやっぱり男の子なんだな、と思うと同時に思った以上に強くて腕がもげそうだ。
「この辺りは来たばっか?良かったら案内するけど」
「ホントすか!実家出たばかりで本当に不安で…」
「あー…ならそうだよな。じゃあまずは〜この辺りを散策しようぜ!」
「いいんですか!?」
「いーよいーよ。俺ここに住んで長いし。タケミっちは何から見たい?」
「じゃあ…スーパーとか見たいです!」
「え?スーパー?ふーん、タケミっちって庶民派なんだ」
「えへへ…」
「じゃあついでに商店街も寄ろうよ。俺おすすめのたい焼き屋、タケミっちには特別に教えてあげる」
ほら、とマイキーが手を差し伸べる。あまりに自然な動きにやはりマイキーは何処かの御曹司かどこかの国の王子なのかもしれないとタケミチは思った。少し躊躇いつつ、マイキーの手をとる。
タケミチより一回り大きな手のひらは彼を男として意識させるには充分であった。
マイキーはタケミチを完璧にエスコートしながらまずは一番近くのスーパーを教えた。あとは少し歩いたところに三軒あると紹介し、それはまた今度行こうと約束した。次にマイキーは商店街へとタケミチを連れ出して、マイキー行きつけだというたい焼き屋へと向かった。創業40年という長い歴史を持つその店は小さくて年季が入っており、店員は店主である老婆1人だけのようだった。彼は店主の老婆と挨拶を交わし、タケミチにどら焼きを奢った。店の前にあるベンチに座り、マイキーと店主である老婆のやり取りを聞きながらタケミチは出来たてのたい焼きを頬張る。
餡子の仄かな甘みがふかふかの生地に見事に絡んでいる。はふはふと口の中で出来たてを転がしながら食べる。
「マイキーちゃん、彼女かい?」
「未来のお嫁さん♡でも今はおばあちゃんが本命かな」
「むごっ!?」
「アハハ、全く可愛いねぇマイキーちゃんは。女の子の方もマイキーちゃんとなら苦労しないねぇ」
「ま、マイキーくん!?」
「考えといてね、タケミっち。俺は本気だよ?」
出会ったばっかりだと言うのに、これだからイケメンは怖い。タケミチは故郷の友人達を思う。見た目は派手だが素朴なところがある友人達だった。これが都会、都会って怖い。
「じゃあ次はどこ行きたい?俺のオススメはどら焼き屋。めっちゃうめーんだ」
「そこ行きたいです!」
「ん。じゃあ行こっか」
マイキーと共に商店街で色々見て回り、気がつけば完全に日が暮れていた。いわゆる黄昏時である。アスファルトに二つの影が歪に伸びていた。
「こんな遅くまですんません」
「いーよ。逆にごめんな?越してきたばかりなのにこんな遅くまで連れ回しちゃって」
「ううん。楽しかったです!」
また部屋に戻ればダンボールの山が待っているがいい気分転換になった。変な男二人組のこともつい先程まで忘れていた。多少強引なところはあれどマイキーに感謝しなければならない。そういえばあの家に住んで長いというマイキーならあの二人組のことを知っているだろうか。そして“ SS ”という存在の事も。ゆっくりと夕陽が沈み、建物の影が色濃くなりマイキーとタケミチを包み隠そうとする。次第に夜の闇が翼を開こうとしていた。前を進むマイキーの姿が一瞬見えなくなりそうで心細くなる。少しだけ大きい歩幅に追いつきたくて早足で駆け出そうとした時だった。
暗い影の中からゆっくりと男が現れる。
「迎えに来たぞ」
「…あなたは…」
綺麗な顔なのに火傷跡が凄みを与える。思わず怯みそうになるのをぐっと堪えた。
「この時間帯は危ない。わかってるだろ?」「…ッ!」
その言葉に顔にカッと熱が集まる。言われなくてもわかっている。今日で会ったばかりの男に説教される覚えはないとタケミチはすぐ隣にある公園へと駆け出した。
「花垣!」「タケミっち!」
二人の静止を聞くことも無く脇目も振らずに走り出す。大きな公園らしく、木々が茂り簡単にタケミチを隠してしまう。タケミチはざわざわと嗤っているような葉の音にすら逃げたくて全力で足を動かす。
この時間が危険なのは分かっている。もしかしたらマイキーを巻き込むかもしれない。あの男はそう忠告しに来たのだ。うるさいわかっている。
少しなら大丈夫。その油断でタケミチは親友の少女に大怪我を追わせたのだから。
お前は逃げてこの地にやってきたんだ。誰もそんな事言っていないのに責め立てられてる気がする。そんな事ない。そう言ったつもりで本当は誰もタケミチの事を知らない土地で罪から逃げたつもりになりたかっただけかもしれない。それに気づいた瞬間、タケミチは足元を掬われた。
「あ──」
地面が不自然に歪む。まずい、そう思った時にはタケミチは重心を崩され地面へと叩きつけられていた。
「かはっ、!」
目の前には黒い影がぐるぐると喉を鳴らしていた。妖だ。早くどうにかしなきゃ。けれど身体は動くこと無くされるがままだ。このまま終わるのか?
「あ、きらめねぇぞ…」
ちゃんと罪を償って、強くなって彼女の元に帰る。
「オレは────!」
その時、白い何かがタケミチの目の前に翻る。
「お前は無理をしすぎだ」
聞き覚えのある声に顔を上げる、しかしその姿は───
「先祖、返り…!?」
白い狩衣、ふわりと大きな尾がゆらりと揺れる。その頭には獣の耳が付いていて時折ぴくりと揺れていた。
明らかに人ならざる姿。妖も目の前に現れた男が只者ではないということを本能的に嗅ぎ取り警戒するように唸っている。
「花垣、お前はもう少し人に頼れ」
ばさりと音が聞こえた気がした。次の瞬間には凄まじい風圧に吹き飛ばされそうな体を男がすかさず手を伸ばし支える。
からん、と音がしてゆっくりと目を開ければ大きな翼が男とタケミチを守るように広がっている。
その正体はあの時タケミチの部屋にいた片割れ、黒髪の男だ。
まさか、まさか!
「二人とも…先祖返り…!?」
「詳しく聞く前に出てけって言われちまったからな。どうせ話も満足に聞かずに越してきたんだろ」
「うっ…!」
「ココも来たからな。もう安心だ」
「折角だ、新しい主に売り込むとするか」
「そうだな」
それからはあっという間だった。息のあった連携で確実に妖を追い詰め、最後は金髪の男がトドメをさした。
妖が倒された事によって不気味なほど暗かった闇が引いていく。どうやらあの妖が何かしらの結界を張っていたらしい。すっかり腰が抜けたタケミチは金髪の男におぶられ、獣道を踏みながら3人は出口を目指して歩いている。
「あ…あの…質問なんスけど…」
「あのアパートに住んでるやつ全員先祖返りだぜ」
「えぇ!?じゃあマイキーくんも…!?」
「そう。住人の中でも1番強いから安心しな」
「えっ…!?え!?」
「鬼の先祖返りだそうだ。だからあんな時間になっても平気だったんだ」
「そ、そうだったんだ…」
「それでボス?俺らの評価はどうだった?」
「ひょ、評価!?」
「俺らのことを話す前に出てけって言われちまったからな。実践で売り込むしか無かった。要らないなら要らないと言ってくれ」
「…」
「迷ってるなら雇用は継続で良いってことか?」
「ま、まだ良くわかんないすよ」
まだ初日だと言うのにあまりにも色々な事が起こりすぎた。住人全員先祖返りの妖怪アパート、自分のSSと名乗る二人組の男。状況を整理するにはタケミチの脳だと3日はかかる。
「なら花垣が納得するまでの試用期間でいい。3ヶ月後…花垣が要らないと言うなら俺たちの契約はそこまで」
「それまで俺達はお前の忠実な下僕だ」
黒髪の男がタケミチの手をすくい取り指先に口付ける。
「あ!ずるいココ、俺もやりてぇ」
「帰ってきたらやればいいだろ」
「花垣帰ったら足の甲に口付けさせてくれ」
「なんで!?!?」
やっぱり今すぐ契約を切った方がいいかも…。タケミチの脳裏に不安の文字が過ぎるがきっと悪い人ではないはずだ。それにどこか懐かしさすら感じてしまうのは何故だろうか。
「そ、そういやあの…名前を聞いてませんでしたよね…。なんて呼べば」
「ああ…。名乗る暇も与えてくれなかったからな。今お前をおぶってるヤツが乾青宗。犬神の先祖返りだ。あとイヌピーって呼んでやってくれ」
「い、イヌピー…?」
「おう」
あからさまにテンションが上がった気がする。それに変身してない筈なのに先程の獣耳が見えている気がする。
「イヌピーくん…あの…よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「そして俺が九井一。鴉天狗の先祖返り」
「ココって呼んでやってくれ」
「ココくん…?」
「これからよろしくなボス」
「ココは頭がいいから勉強とかは全部ココに頼ってくれ。俺は力仕事以外なんも出来ねぇ」
「逆に俺は力仕事あんま得意じゃねぇからそういうのはイヌピーに頼ってくれよな」
「りょ、了解です…」
「お、出口が見えてきたぜ」
「ほんとだ…!」
「まず帰ったら荷解きの手伝い…してもいいか?」
「…はい、こちらこそよろしくお願いします!」
これから始まる新しい生活。早速想像もつかないことばかりだったがきっといい日々になるだろう。
タケミチはこれからの未来に胸を躍らせた。