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    引きこもりあーくす える

    お腐れ注意、落書きしかしない
    @clss_ship8

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    書きたいところだけ。大学生バイトのタルタリヤと、バーテンのディルックと、客として来た鍾離せんせ、という不思議な現パロ?気が向いたら続くかもしれない。

    ##原神

    昼でも夜でも人が行き来する繁華街であろうと人通りの少ない道というものは必ず存在していて、そう言った道には大抵表立って堂々と商売できないような、例えば風俗店とか、例えば顔にバッテンのついた人達絡みだとか、例えば人に言えない趣向を共有する場だとか、そういった建物が並ぶのが常である。
    しかしこの店に関して言えば、先程例に挙げたもののどれにも該当しないばかりか、いたって健全な普通の飲食店であり、もう少し細かく説明するのであれば、食事も取れるバーという言い方になるのだろうか。
    現代の吟遊詩人と呼ばれる天才的ハープ奏者が店主を務めるこの店では、一見さんお断りでもないのに常に見知った顔ばかりが集まる。
    店主の趣味で密かにやっている店であるが故に知名度はあまり高くないのも理由の一つではあるだろうが、どちらかと言えばこの店のある通りに問題がある気がする。
    そんな店でバイトとして雇われの身であるタルタリヤは、ようやく頭の中にインプットされてきたカクテルの種類を声に出さず呟きながら控室で着替えを済ませ、鏡で身なりを整えながら思う。
    この店は何故こんなにも客層の悪いところに立っているのだろうか、と。
    店の雰囲気や客は悪くないというのを知っている(以前に何度か客としてきたことがある)ので、ここで働くこと自体はなんとも思わないのだが、立地が悪いとは思わないか?そうだろう?一歩外に出れば裏稼業の人間と客引きであろう化粧濃いめの見た目だけは整えた女が転々と道の端に並んでいるような通りで、極々普通の飲食店が儲けなんぞ期待できるものだろうかと思っていた時期もある。
    しかしながら毎日それなりに客が入っているし、客層がそういう人物であるなら当然金払いも良く見栄張りが多いのも然り。
    数万単位の酒なんぞ毎晩山のように注文が入るのを見て、ため息と共にタルタリヤはこの店で働くことの意味を思い知ることになったのだが。
    「こんばんはー」
    そんなこんなでいつも通りの挨拶と共にバックヤードから店内へ足を踏み入れると、見慣れた赤毛のバーテンダーが早速酒を用意していた。
    まだ開店時間ではないはずなのに、カウンター席の端には男がひとり腰掛けている。
    手にしたグラスを見るに、客のようだが。
    「あぁ、来たか」
    タルタリヤにとっては同僚に当たる先輩店員であるこの男、ディルックは、酒の知識も作り方も味も、何もかもが完璧な男だった。
    一見口数少なく無愛想とも思われるが、酒についての事柄は全てにおいて隙がなく、客の細かな注文もとい我儘にも確実に応えるバーテンダーの鑑である。
    そんな彼には常連とも言える客がいて、その常連は開店時間よりも早く酒を飲みにくることが常であるため時間前に客が店内にいること自体は特になんとも思わないのだが、今日席に腰掛けている男は見慣れた常連客の姿ではない。
    「珍しいね、開店前に客を入れるなんて。しかもガイアさんじゃないし」
    知り合いだし多めに見ろよ、と言いながら開店前にカウンター席の端を陣取るのはガイア(ディルックは幼馴染であるというガイアの主張を腐れ縁だと訂正し続けている)の専売特許だと思っていたタルタリヤにとって、その男の姿は物珍しいものだった。
    自分よりも歳上だろうが若くて整った容姿、あまりジロジロと見てもいけないとは思ったが、かっこいい、よりは綺麗の方が似合う顔立ちで、いわゆる眉目秀麗というのはこういう男の事を指すのだろう。
    年齢にしては落ち着いた雰囲気をまといながらロックグラスを傾けて空にするその姿は、同じ男から見ても非常に絵になる光景だと口に出さず思った。
    残念ながらまだぴちぴちの大学生なので、男を賛美する言葉はあまり持ち合わせていない。
    「彼は店主の馴染みだ」
    「へー、店長の……」
    出来上がった新たな酒を手に、タルタリヤは男の目の前へ歩み寄る。
    良く見ると長く艶のある長髪を後ろでひと纏めにしているようで、長髪の似合う男なんてテレビの中の世界だけだと思っていたが、そういえば同僚の赤毛の男も鮮やかな長髪を普段はひとつに括っている事を思い出して、美丈夫はみんな長髪が似合う、などとどうでもいい事を結論付ける。
    「はい、お待たせしました」
    「あぁ……見ない顔だ、新入りか?」
    男の声は低く静かな声だったが、BGMの流れる店内でも良く通る芯のある声だった。
    物言いがやや上からに聞こえるのは、やはりそれなりに身分のある人物なのだろうか。
    触らぬ神に祟りなし、タルタリヤはにこりと普段通りの営業スマイルを見せながら、最近入ったバイトであることを告げる。
    「ふむ、それはそれは…あの酒乱もついに人手を増やすことに決めたのだな」
    「酒乱って誰のことです?」
    「ここの店主のことだ、あやつは根っからの酒好きでな、昔から何かと理由をつけて酒を口にしてばかりだった。その甲斐あってか、ここの品揃えは他店で類を見ない程の種類を網羅していて、そこが気に入っている」
    男の皮肉めいた物言いは若いバイトには通じなかったようで、素直にふーん、と相槌を打っているだけ。
    しかし男はそれでもよかった、酒に薄っすら酔った気になった心地で、なんでもない話を聞いてもらいたかっただけだった。
    「そうなんだ……やっぱこの店品揃えいいんですね」
    適当に返しながら、しかし酒乱って言い方を自らの上司に向けてされると反応に困るものだと思い。
    そんなタルタリヤの気持ちを察したのか、目の前の男は小さく口角を上げて笑った。
    「ふ、すまない、君にしたら雇い主だ、どう返せばいいものか悩むのも当然だろう」
    「はは……お兄さんもしかして心読めたりする?」
    「読唇術はある程度会得しているが、心の中を読むという偉業は為し得ないな」
    最後にその男は、堅苦しいから敬語は不要だと言い捨て、運ばれてきた酒に唇を寄せる。
    それを見届けてからディルックの元へ戻ると、彼はいつもあんな感じだからあまり深く考えなくていい、という参考にならないアドバイスをもらい、本格的に店を開ける時間が迫っていることに気づいて、慌ててレジや店内の最終チェックに回るのだった。
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