11 鍾魈土曜日、正午を少し過ぎた頃。
鍾離と共に暮らしているマンションのキッチンで、魈は乾麺のパスタを茹でていた。
鍾離は用事があるとのことで出掛けていて、夕方まで戻らないと聞いている。夕飯は一緒にできるから、と言い置いて出ていったのは九時頃だった。詳細は聞いていないが、仕事の関係もしくは近隣住人の相談役を買って出ているのだろうと推測する。幅広い知識と圧倒的な記憶力は今世でも健在で、それらに頼る人間もまた後を絶たない。そのことは魈にとっても誇らしいが、一方でどことなく寂しさを感じることもあった。
誰からも好かれる鍾離の周りには好意を寄せる人も多い。自分もそのうちの一人だが、いつかその群れにのまれて一個体として認識されなくなるのではないかと、薄暗い気持ちになる。
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