「正直いずれ起こるだろうなと思ってた」
「殴られたのは実は自業自得なんだよね」
「せんせ……朝尊が、絶対来てくれるって…《死んだな、アンタら》って言っちゃった」
「まったく君と言うやつは……」
ふ、と嘆息して見つめる
「蛮勇な発言はひかえたまえ」
「いや、ほんと、口をついて出てきたというか、…そう!多分先生の真似っていうか…!!」
朝尊は、じいっと彼女を見下ろしたまま数秒沈黙した。
まるでその目は全てを見透かすかのようで、
けれどいつもと違って、どこか――ひどく愛しさを堪えているような、危うい揺らぎがあった。
「……“死んだな、アンタら”…か」
ぽつりと繰り返すその声は、静かで、しかし熱を帯びていた。
「まるで僕が死神か何かのような言い草じゃないか」
「いや、だって……せんせぇに手を出したやつ、誰一人まともに終わってないし……」
「まあそのとおりだが」
「即答」
彼女がケラケラと笑うのを見ても、朝尊の表情は一切崩れなかった。
代わりに、スッと手を伸ばし、細い顎を指先で掬い上げる。
「……君のそういうところが、時折、僕の心臓を冷やすほどに怖ろしいんだ」
「……え?」
「“君の命に傷がついた”という現実が、僕に何をさせるか――君自身がよく分かっていない」
「……だって、でも、私……先生は来てくれるって、本気で信じてたし……」
「…、嬉しいがね。その信頼は綱渡りであり、危ういことであると理解しておきなさい」
朝尊はそっと彼女の頬に触れた。
傷の上ではなく、そのすぐ隣へ。自分の指の熱で癒すかのように。
「勿論大前提として必ず君の命は僕が守る」
「君が何を言っても、どんなに強がっても、僕の目にはただ、守るべき愛しいものにしか映らない。……ただしそれは、僕だからだ」
「…言う相手を考えろってこと?」
「でも、っ、…黙って大人しくしてるのは、」
呟かれた言葉に、朝尊は微笑む。
彼女は大人しいだけの愛玩動物では無い。そんな所も気に入っている。ーーが、彼女が噛み付くのも引っ掻くのも自分だけでいい。
「…君を失うかと…本当に、怖かった」
「うん」
「僕があの場に間に合わなければ。君が、目の前で壊れていたら。僕は……」
「壊してた?」
「――世界ごと、ね」
その言葉に、彼女は目を瞬かせて笑った。
笑い事では無いのだけど。