するり
音もなく、審神者の髪をひと房、朝尊の指がすくい取る。
「?…なぁに、朝尊」
のんびりとした声に、彼は微笑む。
「うん…元の色が黒いと分かりにくいものなのだねぇ」
「はい?」
彼女が首をかしげると、朝尊は目を細めて、まるでいたずらが成功した子供のような顔をした。
「でも、目の色はしっかり染まってる。ふふ。鏡、見てご覧」
「……?!?!!!??!」
慌てて立ち上がり、棚の上に置いた小さな鏡を手にとって覗き込む。
――瞬間、息が止まった。
「っ、えっ、え、え、えっ!?!?!な、なんか光ってる!?目ぇ、ひか、光って、る!?!?」
いつもの黒にほんのり赤味を帯びていた自分の瞳が、淡い銀の光を宿している。
光の加減ではなく、根源から滲み出すような、神気そのものの揺らめき。
「ま、まって、なにこれ、え、えっ、染めた!?朝尊、目ぇ染めた!?!?」
「うん、神気で」
「気軽に言った!?!?!?」
「髪も、ところどころ深く色が滲んでいるよ。君の霊力に触れた余波だ。……似合っている」
じっと見つめられ、じわじわと顔を赤くしていく。
「……っ、どこで気づいて欲しかったのさ……」
「君が鏡を見て気づくのを、ずっと待っていたよ。ふふ、数時間ほど」
「ひっ……!?!?ちょっとまって!?!?!?!?(昨日の風呂も!?今朝の支度も!?)」
狼狽える彼女を見て、朝尊の笑みがますます深くなる。
「君が気づいてくれるのを想像しながら過ごす数時間――それはもう、幸福だったとも」
「~~~~っっっ、バカ!!せんせのそういうとこほんとずるい!!!」
「ふふ……ありがとう。褒め言葉として受け取ろうか」
頬を真っ赤にした主を、満足そうに見つめる朝尊の瞳は、いつもよりも深く澄んだ銀色。
──おそろいの、神気の色。
魂の奥で結ばれたふたりの、ひそやかな証。