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    ryunoyado2

    @ryunoyado2

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    ryunoyado2

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    デデデ大王とワドたちのあれこれ。Wii組込み
    きわめて中途半端に終わる。あと現実要素増し増し。
    ベッタに入れたのと同じものなのだけど、ちょっとこっちでもお試し投稿。

     わにゃ、わにゃ、わにゃ。
     響き渡る声は、誰の者だろう。自分のものか、つい先ほどまで近くにいた仲間たちのものか。

     新世界の空は高い。
     抜けるように青く、流れる雲の白さは輝くほど。
     太陽は暖かなこともあれば、照り付ける熱さ、痛さで肌を焼くこともある。一方で夜は恐ろしいほど静かで、寒い。
     この高い青空から、あるいは夜闇に紛れて、襲撃者はやってくる。ワドルディたちを、捕まえにやってくるのだ。
     自分たちは草間に隠れ、あるいは応戦し、さりとて勇気を出した者から順に、弱き者、賢き者、運悪き者、運良き者、木の元、草の根分けやって須らくが捕まって…。
     冷たく固い檻の中、あるいは連れ去られ空に消えていった同胞の姿に涙して。
     
     ここはポップスターではないのだと思い知らされる。
     暖かな楽園。気の良い住民たち、美味しいご飯と暖かな寝床。――すべては過去の夢。
     怪我をしてもなかなか治らず、どんなに苦しくても英雄はやってこない。――ここにある現実。
     今日もこの地で、どこかの地で、自分が、誰かが、嘆きに鳴く。
     わにゃ、わにゃ、わにゃ。
     辛い、苦しい、悲しい、あぁ…。

     「お腹空いたよぉ」

     ――バンダナ先輩。

     「さみしぃよぉ」

     ――カービィ。

     草むらで、浜辺で、煌びやかな廃墟で、雪降る街で、砂漠で、火山で。
     わにゃ、わにゃ、わにゃ。

     「助けて」

     ――大王様っ!

     とある一匹のワドルディ。
     己に振り下ろされる槌のその向こうに見えた、その御姿。
     心から安堵したその理由など、きっと当時のあなた様にはわかるまい。

     ――大王様。

     辛く、厳しく、熱く、寒く。
     ただ辛いばかりのこの世界で、一筋の希望を見たのだと…、きっと正気に戻られた今のあなた様は認めまい。

     ――ただいま、大王様。
     ――おかえりなさい、大王様。

     冷たく固い檻に入れられて、己も空へと消え果るまで。ただ、御身の傍に在れた時間だけが、確かに戻れた過去(楽園)であったのだと。



    ーーーーーーーーーーーーーーーーー




     ワドルディの町。
     闘技場を除いてという注釈はつくが、基本長閑で静観な街に今朝一番重たい地響きが鳴り響いた。
     音源はデデデ大王の駆け足で、彼の前をバンダナワドルディが先行している。ワドルディの町は須らくワドルディサイズだ。デデデ大王が駆けまわれば、周りのワドルディたちも、町中に設置されたベンチやテーブルと一緒に、ぴょい、ぴょん、と浮きあがる。

     なになに?
     なにごと??

     大王が慌ただしいのは元からだけれども。その顔をいつにも増して真っ青に染めて、目は険しく余裕がない。ビーストに操られていた頃を思い出し、ちょっぴり震えるワドルディもいる始末。

     「どうしたのかな、大王様」
     「いつもは寝ている時間だよね」

     この地にいる一部のワドルディたちの王様、デデデ大王は彼らの元に戻ってきてからこちら、闘技場横の小さな広場で眠そうにしているか、寝ているか。
     そうだ、慌ただしい大王様なんて、新世界に来てからは初めてみる。
     
     「きみたち知らないの? けらいワドルディがお熱を出して倒れちゃったんだよ」

     よちよち、近寄ってきた訳知りワドルディが噂好きワドルディたちに教えてくれる。
     けらいワドルディといえば、新世界でデデデ大王の傍にいる三匹のワルドルディのうち、一番忠誠心の高いワドルディだ。なんでも一度命を救われたとかで、自ら「けらいワドルディ」を名乗って、デデデ大王に甲斐甲斐しくお世話をしている。

     「それは心配だね」
     「とっても心配だよ」

     ワドルディたちは、わにゃわにゃ噂する。
     けらいワドルディ、大丈夫かな。
     大王様、けらいワドルディが心配なんだね。
     とっても、とっても、あんなに慌てるぐらい心配してくれているんだね。

     デデデ大王の姿は、ワドルディの町の一角にある小さな家の中へと押し込まれるように…というよりは殆ど折りたたまれるようにして吸い込まれていく。この世界に来て、みっしりと筋肉に膨れた彼の体は、ワドルディの住処には大きすぎるのだ。
     
     「大王様が来てくれたなら、大丈夫だよ。けらいワドルディもあっという間に元気になるさ」
     「そうだね、きっとそうだよ」

     これは、なんでもない日の朝のお話。
     事件が始まる、朝のお話。。





     ワドルディの家の内装は総じてシンプルだ。生活に必要最低限のものしかないのは欲がないというよりは究極の呑気体質の表れだろう。どこまでマイペースな彼らは、いざ必要なもの便利なものを、まず要り用になってから求める。そして用事が終わったらあっさり意識の外に放りだし。そしてまた要り様になったとき「あれ、どこやったっけ?」と、また呑気に求めたりする。
     好奇心は旺盛で、突き詰めればどこまでも才能を発揮するが、大半のことに関しては後を引かない。
     寝たいときに、おやすみなさい。
     食べたいときに、いただきます。
     遊びたいときに遊んで、疲れたら休憩。
     彼らと付き合いの長いデデデ大王も、ワドルディたちが本気で苦しんで、困っている姿はあまり知らない。皆無とはいわないが、苦しみ、悩む前に「まあ、なんとかなるかぁ」とのんびり、まったり割り切ってしまう。   
     ――この新世界に来る前までの話ではあるが。

     シンプルな内装の、シンプルなベッド。白々としたシーツに半身埋もれたけらいワドルディは、顔を真っ赤にさせて熱い息をはいている。

     「今朝にはもう、こうだったって。彼と同居するワドルディが知らせて来てくれたんです」

     バンダナワドルディの説明を聞いて、デデデ大王は手袋を外してから、けらいワドルディの額のタオルに触れた。熱い。ベッドの脇には水盥が置いてあって、デデデの顔で察したのだろうバンダナワドルディがタオルに手を伸ばすのを、デデデは片手で制した。
     そうしてその場に腰を下ろすと、彼自らタオルを冷水に浸し、しっかりと絞ってから、丁寧にたたんでけらいワドルディの額に上に置きなおす。
     ふう、ふう。けらいワドルディの呼吸は未だ荒く、それでもちょっとだけ表情が緩んだ。ゆるゆると瞳が開いて、そうして己の頭上に佇む大王の姿を認めた。

     「あ、大王様?」
     「おう」
     「大王様」

     体を起こそうするのを、デデデ大王は「寝てろ」とぴしゃり。

     「今日の貴様の仕事は、寝て休むことだ」
     「でも」
     「オレ様の世話係ならいくらでもいる。そんな体で出てこられたんじゃ、オレ様が迷惑ではないか」
     「……はい」

     ぽて、と小さな体がシーツに沈んだ。熱のせいだろうか、眦(まなじり)から涙がほろり。デデデ大王はそれをぬぐってやってから、塗れタオルを避けて、けらいワドルディの頭を撫で、撫で。

     「ありがとうございます、大王様」
     「ふん」

     鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまうのがデデデ大王である。誰が言ったか『ツンデデ』。今日も絶好調に素直じゃない。
     それでもけらいワドルディは嬉しそうで、傍に控えるバンダナワドルディもほんわか暖かくなって。
     けらいワドルディの寝息が聞こえてくるまで、デデデ大王はその頭を撫でてやった。

     そうして入ってきた時同様、全身を折り曲げるようにしてワドルディの家を出れば、外で彼を出迎えたのはカービィとメタナイト、それとミントグリーンの色彩が鮮やかな不思議生物、エフィリン。彼らはちょっと心配そうにデデデ大王を見上げている。

     「んだよ、雁首揃えて」
     「けらいワドルディ、調子が悪いって聞いたからお見舞いに来たんだよ」
     「昨日までの彼は、元気に君の周りを走り回っていたと思ったのだがな」
     「なんで見てんだ、メタナイト。…まあ、気が抜けるなりして、疲れでも出たんだろう。バンダナ、ものしりのやつには声かけてんのか? あいつなら病の知識もありそうだ」
     「あ、はい。そっちは同居人のワドルディが声をかけに行っています」

     その言葉を証明するように、寝ぼけ眼のものしりワドルディが別のワドルディに先導されてやってくる。目の下に隈が浮かんでいるから、どうせまた知識欲にあかせて徹夜の読書に勤しんでいたのだろう。
     二匹のワドルディは大王に会釈して、そうしてけらいワドルディの家の中へ。
     
     「ポップスターなら、病気も怪我もあっという間に治っちゃうのにね」

     ぽそ、と呟かれたカービィの言葉は誰に応えられることもなく空へと消えていった。


     ところ戻って、噂好きのワドルディたち。
     彼らはけらいワドルディの家から出てきたデデデ大王と、逆に家に入っていくものしりワドルディの姿ににっこり。もう大丈夫。全部大丈夫。
     噂好きのワドルディたちは、元々お城のワドルディたちでもある。さあ、今日も今日とて、見回りを続けよう。
     せっかく大王様が帰ってきたのだから。大王様のいるこの場所を、みんながいるこの場所を守らなくちゃ。
     えいえいおー、えいえいおー!
     
     お城にいたときのように、槍こそその手にはないものの。
     けれどもボクらにだって、できることもある。

     その場に残されたのは訳知りワドルディ。彼は去っていく噂好きワドルディの姿を目線で追う。意気揚々とした彼らは、けれども入り口付近でガルルフィの姿を見つけて「ひぃやっ!?」と悲鳴を上げた。きっとあのガルルフィは遊びに来たのだろう。ビースト軍団との諍いも一段落ついて、ああやって町にやってくるビーストたちは日に日に増えている。お目当ては大体カービィかメタナイトかデデデ大王か。
     噂好きワドルディたちは、ガルルフィを警戒しながら、それでも敵ではないので追い返すこともなく、その場を去っていく。

     「う~~~ん」
     「あれ、どうしたの?」

     訳知りワドルディが首を傾げると、声をかけてきたのはちょうど配達中のはいたつ員ワドルディだ。

     「なんであの子たち、あんなにガルルフィを警戒するんだろ。もう全部解決したんだし、仲良くすればいいじゃないか」
     「訳知りのキミにも疑問なことがあるんだねぇ。
     ほら、ガルルフィが会いに来るのはデデデ大王の元じゃないか。だから複雑なんだよ」
     「なんであの子たち、そんなにデデデ大王が好きなんだろう」
     「それはボクもわからないな」
     「どうしてあの子たちは、デデデ大王がやってきたら、けらいワドルディはもう大丈夫って思ったんだろう。大王は医者じゃないのに」
     「それもボクにはわからないな」
     「ボクにもわからないよ。ボップスターにいたころから不思議だったよ?
     ――だってあれ、ただのごっこ遊びじゃないか」

     遊びだから、楽しそうだけれども。
     遊びなのに、なんであんなに必死なんだろう。
     
     ボクらワドルディ。
     寝たいときに、おやすみなさい。
     食べたいときに、いただきます。
     遊びたいときに遊んで、疲れたら休憩。

     ボクらワドルディ。
     いつだって、ボクらはボクら以外の何者でもないのだから。


    ーーーーーーーーーーーーーーーー

     エバーブルク海岸。どこまでも広がる青い空と海、そして白い砂浜。美しいサンゴ礁の一角には物々しい発電施設なんかも見えるけれども。
     その最奥にある高台の崖もまた、目立つスポットではあるだろう。
     崖の下に住むガルルフィ夫婦。高台の上に向かって一度お辞儀。さあ、今日も張り切って餌を探しにいこう。
     けれども突然高台が大きく振動したものだから、おっかなびっくり二人は心配そうに見上げる。
     振動、轟音、まだ振動。
     それははるか頭上、崖のてっぺんで行われていた。
     爆発するヤシの実、槌が振り下ろされる振動、氷に炎にと縦横無尽に繰り出される能力。
     トロピカルウッズの咆哮が上がる。
     咆哮上げる樹木とはこれいかに。
     とはいえ、ポップスターの住民にとって顔のある木なんてさして珍しいものでもない。

     「まずヒトの話を聞け、トロピカルウッズ!」

     まさに激戦まっさかり。
     トロピカルウッズが大きく身震いすれば、巨体のデデデ大王にも負けぬサイズのヤシの実がどっかんどっかん降り注ぐ。地面に着地したならそのまま大爆発。
     巻きあがった砂煙が視界を塞ぎ、その向こうから迫りくるのはトロピカルウッズの根っこである。
     鋭く尖ったそれが、デデデ大王の腹に穴をあける前に、横合いからカービィのバーニングアタック。
     ドラゴニックファイアのコピー能力は、辺りを縦横無尽に飛び回り、根っこを翻弄し、時に炭と還す。
     
     「ちょっと可哀そうだよ」
     「人の話を聞かない方が悪い。どうせ後から後から生えてくんだ、気にすんな‼」

     デデデ大王は自慢のハンマーを、一振り、二振り。降り注ぐヤシの実を打ち返し、迫りくる根っこを打ち砕き、雲のような吐息は大ジャンプでいなす。ちょっと気分がよくなってきた…らば、足元からせりあがった鉄柵の直撃を受けて、大きく吹っ飛ばされる。
     デデデ大王――この男、実に短気である。傍で応戦しているカービィの耳にも、『ぷっつん』と血管の切れる音が聞こえた。彼は落下のスピードに合わせて己が槌を力いっぱい振り下ろす。地面を打つ、穿つ、ひび割れ、波及する。割れた場所から立ち上る冷気はあっという間に地面を氷で覆いつくした。

     ――エンド・オブ・アイスエイジ!

     地面に生えたトロピカルウッズも例外ではなく、彼の体半分はあっという間に氷柱と化す。それでもトロピカルウッズの目から戦意が喪失することはなく。
     
     「ここらで往生しとけや、癒瘡木野郎」
     「…ユウソウボク?」

     癒瘡木。あるいはリグナムバイタ。世界一硬いとされる樹木だ。トロピカルウッズの融通の利かない様とかけたのだろうが、ややマイナー。例えとしてはうまくない。
     そもヤシ科とはまったく接点もない。系統樹遡ろうと思ったら、十代ぐらい先祖返りする必要があるだろう。
    以上、この場にいない心の中のメタナイトがカービィに説明してくれた。『面白ぞ、系統樹』とクソ分厚い辞典を差し出しながら…。

     …意識が逸れた。
     現実に視界を戻せば、デデデ大王の不敵な笑みと、それを睨みつけるトロピカルウッズ。デデデ大王の構えは、大技の前のそれ。衝撃に耐えるため、前足、後足大きく開いて、腰を落とし、ハンマーはやや後方へ。

     「外壁の解除(パージ)、吸気口(インテーク)排気口(ダクト)解放、ファン起動――。さあ、さあ、タービンを回しやがれっ‼
     圧縮(コンプレッション)、圧縮(コンプレッション)! 圧縮(コンプレッション)‼」

     ハンマーの外壁の一部が剥離。その下から現れるのは武骨な機械。チタン合金が太陽に照らされ鈍く光る。デデデ大王お手製、ジェットエンジンである。
     ファンやミキサーの回転する重低音。燃焼による陽炎(かげろう)がエンジンの外壁を揺らめかせ、彼の周りだけ氷が溶ける。エンジンの振動は次第に大きくなっていき…。

     トロピカルウッズは全身を震わせた。根を地面から出そうにも、あるいは鉄柵で守りを固めようにも、地面が氷で覆われて不可能だ。ヤシの実を飛ばせば、そちらはカービィが撃破。
     空気弾を飛ばそうとすれば、形にならない、あるいは飛距離が伸びない。――辺りを包む冷気のせいだ。

     「ファイアー!」

     ――ジェットデデデハンマー

     ようやく、トロピカルウッズは眼前の氷を砕いて鉄柵をせり上げる。二重、三重に重ねた防御の陣は、決してトロピカルウッズが敵を過小評価していなかった証だろう。
     
     迫りくるジェットハンマーの推力、ざっと70Kgf。
     どだい、生物が手にもって扱える力ではなかろう。さりとて、それが可能であれば巻き起こる衝撃はいかほどか。
     鉄柵はいくら重ねようが紙である。排気口から出る熱気はそれだけで狂気である。触れぬうちからその圧力を感じ、トロピカルウッズは正しく死を覚悟した。

     「はい、やりすぎ!」

     ずどんっと、ジェットハンマーを受け止めたのは真っ赤で巨大な刀身。その見上げる先にある柄を掴むのは同色の兜を被りいつもより厳しい表情のカービィ。

     「トロピカルウッズを倒すことは、目的じゃないよね」
     「おう、そうだったな」

     デデデ大王はあっさり頷く。エンジンが鈍い音を立てて制止した。地面は熱を帯びている。砂は黒く焦げ、石は溶けてガラス化していた。その上にハンマーが下ろせば、まるで抗議のようにぱきぱきとガラスの割れる音がする。
     息を吐いたのはトロピカルウッズだ。

     「…お前さんら、なにしに来たの?」
     『今更な質問っっ‼⁉』

     負け惜しみの、ぼやきまみれなトロピカルウッズの問いに、カービィとデデデの突っ込みは綺麗に揃った。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

     けらいワドルディの熱が下がらない。
     デデデ大王が思いついたのは、トロピカルウッズの実を分けてもらうことである。現地のガルルフィやクロッカーに聞いた話、かの実はとても濃厚で旨い。かつ、栄養価が高く病気時の栄養補給にちょうどいい。
     果肉は柔らかいを通り越して、とろりとしているから熱で喉が痛くても問題ない。冷やして食べさせれば、うだる体を冷やすのにもいいだろう。

     バンダナワドルディとエフェリンは看病に。メタナイトは熱病について調べに現地に残り。
     そしてカービィは、トロピカルウッズを訪ねるデデデ大王になぜか意気揚々と引っ付いて。ビースト軍団との諍いも解決したのだから、道中はとんとん拍子だった。ただ、肝心のトロピカルウッズが有無を言わさず襲い掛かってきたのだ。

     そも、トロピカルウッズにしてみれば、彼はビースト軍団の一員ではない。ワドルディやビースト軍団の事情など知らないし、ID-F86の存在などまったく感知せぬところである。
     これまでだって、崖の上でのんびり、まったり。時折ヤシの実を狙ってやってくる不埒者をぶっ倒し、最近やたら煩いクロッカー共も次はぶち落としてやろうと画策し、また不埒者をぶっ潰し…。向こうの事情? そんなの知らん。わざわざこんな高台まで現れるなど、我が実以外、なんの目的あるというか。
     以前、そんな日々にやってきたピンク玉にやられた思い出は強く残り、恨みも深い。あの野郎、ヤシの実残らず食っていきやがった。
     いつものごとく問答無用で潰してやろうと思ったらば、気が付いたら自分の方がやられていて、頭の上のヤシの実はすっからかん。

     なお、散々爆発させているヤシの実は、子孫を残すための種子と違い、発芽せず老いた種子である。
    で、そのピンク玉が本日、よだれ垂らしながらまたやってきたのである。なんか隣にでっかくて太いのがいたけれども、それはそれとしてピンク玉である。ここであったが百年目、どうせ今回も我が子を狙ってきたに違いない。せっかくまた実ったのに。
     その悪意気、許さでおくべきか。子の恨み、はらさでおくべきか。

     「……てめえのせいじゃねえか」
     「よく考えたら、主に戦ってんの青い旦那の方だったし。ピンクの方じゃなくて」

     半刻後、落ち着いたトロピカルウッズと、その足元に並んで座るカービィとデデデ大王。頭上から覗き込むトロピカルウッズの大きな顔は、いざまともに見ればなかなか迫力がある。

     「ボク、カービィだよ」
     「だからそのピンクとは事情が違うのかなぁ、と。この辺飛び回っていたクロッカーたちが、お前さんみたいなでかいペンギンのこと話題にしていたし」
     「ペンギンじゃねぇ」
     「あのね、ピンクでもピンク玉でもなくて。ボク、カービィ!」
     「我が子を、親ボコった末に問答無用に食い尽くした奴の名なんぞ知らん」
     「へえ、酷いヒトがいるねぇ」
     「殺す」
     「…ヤシの実の発芽率って知ってる?」
     「条件次第じゃ80%超えてますぅ」
     「大半20~40%じゃん!てか大体20%代じゃんっ」
     「他種族の管理下による発芽の研究なんぞ知らんっ!」
     「さっき、80%って言ったぁ。それ、温度管理下だよねぇ!」

     ぼかっとカービィの頭とトロピカルウッズの幹が叩かれる。

     「悪いが俺もお前のヤシの実が欲しくて来たクチだ」
     「子の恨み、晴らさでおくべきかっ!」

     ぽかっともう一発。

     「話は最後まで聞け。まず、聞け。
     この下に住む夫婦ガルルフィに聞いたんだが…さっきのカービィの話じゃないが、発芽しない実があるんだってな。飢えているとき、たまに崖下に落としてくれるって、あいつらが言っていた。
     そいつを俺たちにも分けて欲しい」
     「別に、大地に還しただけ。生まれ得なかった我が子を、この星の命に還元しただけ。ガルルフィなどの餌にしたつもりはない」
     「あいつら、感謝していたぞ。今度子供が生まれるから、見せにくるってよ。他の不埒者みたく喧嘩売るんじゃねぇぞ」
     「知りません」
     「よかったじゃねぇか。生まれなかったお前の子が、周り巡って誰かの命に繋がった」

     長く深いため息が聞こえた。鼻をすする音。――いやに生物くさい。
     木の幹から、顔の凹凸が消える。その後はうんともすんとも返事がないけれども。
     
     ――ぽと
     と、デデデ大王の手に実が一つ振ってきた。

     「ありがとうよ」
     「デデデ、デデデ、ボクも欲しい!」
     「てめぇはまず自重しろ!」
     「うっわ、この世で一番デデデにふさわしくない言葉だぁ」
     「うるっさいわっ‼」
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