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    natsumi_hgdc

    赤安です。

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    natsumi_hgdc

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    【赤安♀】恋は臆病
    降谷のことが好きだと突然自覚した赤井の話。

    ・2021/02/14
    AKAM GIRLS COLLECTION '20 Winter に参加してます。
    ※パスワードはスペース【き5】の頒布物一覧に記載してあります。

    ・2021/05/09
    パスワードなしに変更しました。

    「そうか、俺は降谷くんのことが好きだったのか」

     それは赤井にとって晴天の霹靂であったようにも感じたし、何年もそこにあった感情のようにも思えた。
     バーボンがジンからハニートラップを指示されたことにも(結局ベルモットによって却下された)、安室くんがポアロで不特定多数の男共の注目の的になっていたことにも(彼女はあしらうのが実に上手かった)、降谷くんが多くの部下たちに慕われていることにも(それはとても優れた上司の証である)、すべてにモヤモヤしていた理由がようやくわかった気がしたのだ。

    ***

     例の組織の旧研究施設への立ち入り調査を二日後に控えた赤井と降谷は、二人きりで打ち合わせをしていた。組織が過去に研究所として使用していた建物に残された資料等の押収を目的としたもので、警察庁とFBIの合同チームで行うことになっていたのだが、本日先行チームが下見に向かったところ、そこに組織の残党が潜伏している可能性がわずかに浮かんだのである。そのため、ただの調査であれば不要であった武器使用時における配置確認やシミュレーションなどの作戦立案が必要となったのだ。
    「では当日うちのチームは一旦外で待機し、何かあれば対応。何もなければ君たちのチームが内部の安全を確保したことが確認でき次第、合流ということで」
    「ええ、それで問題ないかと。おそらく奴もこんなにわかりやすい場所に潜んでいるとは思えないので何事もないとは思います。ただ、付近での目撃情報があるとなると……」
    「可能性はなくはないな」
    「決行日までに先行チームが確保できれば一番いいのですが、今日はまだこれ以上の報告は上がっていません」

     二人は建物の見取り図と周辺地図を広げた机を挟んで向かい合い、作戦を組み立てていく。
    「この場所」
     とん、と地図上に置かれた降谷の指先。赤井はそれにふと目を奪われた。ネイルアートなどはもちろんトップコートすら施していないにもかかわらず、つやつやとした桜色の整った爪が綺麗だ。
    「出入りがあるとすればおそらくこの裏口。そうなるとあなたの待機場所はこのあたりでしょうか」
     その指先が建物裏口から向かいに位置する建物の一つを地図上でつい、となぞる仕草に妙な色気を感じてしまい、赤井は思わずごくりと喉を鳴らす。その行動に、自分で自分に動揺する。何かいけないものを見てしまったようで視線を逸らした。
    「赤井、何か?」
     それを不審に思った降谷はずいと身を乗り出して赤井の顔を覗き込む。ぴたりと合った視線の先、その瞳に引き込まれる。
    「赤井? 何か問題があれば別の――」
    「っ、いや、なんでもない。そうだな、そこなら建物の高さも充分だし、遮蔽物の類も問題ないと思う」
     降谷の声で我に返り、パッと離れて平静を装う。

     降谷のことはずっと同志だと思っていた。ともに組織に潜入し、ともに壊滅へと至らしめた優秀な捜査官。男とか女とかそんなものは超えた存在。だから赤井は降谷を『そういう』対象として見たことはなかったのだ。
     しかしだからこそ、その可能性に気がついた瞬間、すとんと受け入れることができた。
     自分は、降谷のことが好きだったのだと。
     そう唐突に、自覚した。

    ***

     そして現在、日付が変わる三十分ほど前にようやく庁舎を出た赤井と降谷は、馴染みのバーのカウンター席に並んで座っていた。
     二人は頻繁に――とまではいかないが、何か仕事に区切りついたときなどには時間を合わせて飲みに出かける仲である。体質的に酒に強く、職業柄弱みを見せづらい。つまるところ、互いに気兼ねなく飲める相手だったのだ。

    「でもまさか、あんなに真剣に計画を立ててたのに、奴があっさり捕まるなんて」
    「まったくだ」
     あまりの展開につい思い出し笑いをしてしまい、ゆったりとしたジャズが流れる店内でくすくすと笑う声がわずかに響く。
     なんとあらかたの作戦立案が終わったところで、先行チームから件の人物を確保したとの連絡が入ったのである。しかもその後の取り調べも実にスムーズに進んだため、いくつかの裏取り捜査をしたにもかかわらず数時間の残業で本日は解散ということになったのだ。

    「今日は帰れないかもと思ったのに」
     降谷は最近気に入りと思われるアプリコットフィズの注がれたグラスのふちを指先でなぞりながら言う。赤井はいつも通りバーボンのロック。降谷はビールや日本酒を好んでいるが、バーでは赤井に付き合ってウィスキーを飲むことが多かった。カクテルを飲み出したのは最近のことだ。
     つまみはチョコレートとナッツの盛り合わせ。これもまた降谷にしては珍しい。曰く、今日は甘い物の気分なんです、だそうだ。
    「でもまあ平和に過ごせるのが一番ですからね」
    「こうしていつも通り君と飲んでいられるしな」
    「またそういう……」
    「本心だよ」
     ゆるりと微笑んで言うと降谷は半眼で呆れたようにため息を吐く。
     赤井がこういった類の言葉を口にするたびに『天然人たらし』だと降谷は言うのだが、赤井にその自覚はないし、心外だとも思う。誰にでも言うわけがない。

    「……まあいいです。今日は僕も気分がいいので」
     意味深に呟いた降谷は手元で遊ばせていたグラスを煽る。こちらに視線が向いていないのをいいことに、薄く開いた唇に琥珀色の液体が吸い込まれていくのを食い入るように見つめる。
    「……何かあったのか?」
    「何だと思います?」
     とろりとした瞳を向けて、ふ、と微笑まれる。綺麗だなと、素直に思う。いままでこの表情をどのような心情で自分が見つめていたのかも思い出せないほどに。

     一日に二回も同じ相手に見惚れることがあるだろうか。あるとすればそれはもうきっと、恋に違いない。
    「やはり俺は降谷くんのことが好きだったのか」

    「――何言ってるんですか、赤井」
     降谷の一言で、実際に口に出してしまっていたことに気がつく。なんという失態だ。
    「っ、いや、すまない。軽率だった。今のは忘れて――」
     なんとか取り繕おうとして焦る赤井の言葉を遮って、降谷は続ける。
    「だから、今更何を言っているのかと聞いてるんです。私がいつから赤井のこと好きだったと思ってるんですか?」
    「え」
    「あなた意外に鈍いんですもん。いつ気づくのかなって、待ちきれなくなっちゃった。今日が何の日だってことも、たぶんわかってないんでしょ」
     降谷の言ったその意味を、赤井が正しく理解するまで、あと五秒。
     日付はまだ、超えていない。



    ***

    アプリコットフィズ:振り向いてください
    杏の花言葉:臆病な愛
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    natsumi_hgdc

    DONE【赤安♀】恋は臆病
    降谷のことが好きだと突然自覚した赤井の話。

    ・2021/02/14
    AKAM GIRLS COLLECTION '20 Winter に参加してます。
    ※パスワードはスペース【き5】の頒布物一覧に記載してあります。

    ・2021/05/09
    パスワードなしに変更しました。
    「そうか、俺は降谷くんのことが好きだったのか」

     それは赤井にとって晴天の霹靂であったようにも感じたし、何年もそこにあった感情のようにも思えた。
     バーボンがジンからハニートラップを指示されたことにも(結局ベルモットによって却下された)、安室くんがポアロで不特定多数の男共の注目の的になっていたことにも(彼女はあしらうのが実に上手かった)、降谷くんが多くの部下たちに慕われていることにも(それはとても優れた上司の証である)、すべてにモヤモヤしていた理由がようやくわかった気がしたのだ。

    ***

     例の組織の旧研究施設への立ち入り調査を二日後に控えた赤井と降谷は、二人きりで打ち合わせをしていた。組織が過去に研究所として使用していた建物に残された資料等の押収を目的としたもので、警察庁とFBIの合同チームで行うことになっていたのだが、本日先行チームが下見に向かったところ、そこに組織の残党が潜伏している可能性がわずかに浮かんだのである。そのため、ただの調査であれば不要であった武器使用時における配置確認やシミュレーションなどの作戦立案が必要となったのだ。
    「では当日うちのチームは一旦外で待機し、 2709

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