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    ゆげ🌷

    @penapena91

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    3月の本の進捗

    dawn. 白昼夢を見ていた。
     高い崖のへりに座り込んで、僕はモモの左腕を握っていた。奈落へと落ちようとしているモモの体は重くて、両手で必死に掴めば掴むほど、滲み出す汗で手が滑りそうだった。
     崖の下は何も見えないほど真っ暗だった。闇の中に宙ぶらりんになって、力なく垂れ下がった右手の中にモモはいつも作詞に使っているピンクのリングノートを持っていた。オレはユキの役に立たないよ。いつも通りの口調で語るモモの声が恐ろしくて仕方なかった。そんなことあるはずない。僕にとって自分が無価値だと勝手に決められていることにも腹が立った。早く引き上げてやりたくて、腕が千切れたって離さないつもりだったのに、必死な形相をした僕を見てモモは鮮やかに笑った。
     ――バイバイ。
     強烈に吹きつけた突風に耐えきれずに目を閉じた。瞼を開くと、掴んでいたはずのモモの体は初めからなかったみたいに手の中から消えていた。自分から離すはずはない。モモが一方的に諦めて、僕を道連れにしないために手を振り払ったのだ。そう悟って絶望した。
     わかっている。これは夢だ。最悪の夢だ。早く目を覚ましたくて夢の中で何度も覚めろと地面を掻いた。
     瞬きをしたみたいに場面が切り替わって、今度は楽屋に一人だった。ハンガーには見慣れたブラウンのチェスターコートがポツンとかけられていた。もう一人いるはずの気配がなくて楽屋を飛び出してモモを探した。
     廊下に出た途端に出会した楽にモモを知らないかと尋ねた。百? 誰ですか? そう言われて言葉を失った。
     駆け込むようにたどり着いたスタジオでよく知ったスタッフに同じことを聞いた。けれど答えは同じだった。
     夢だとはわかっている。けれどひどく恐ろしくなって、手当たり次第にモモの所在を聞いて回った。モモと仲がよかったはずの後輩も、何年も一緒に番組をやってきたプロデューサーも、おかりんでさえもモモのことを知らなくて気が狂いそうだった。
     千はデビューしてからずっと一人だっただろ?
     藁にもすがる思いで尋ねた万理からそう返されて、そんなはずはないと叫び出したかった。
     なぜだか喉が張りついて声が出ないまま、用意されたステージに上がった。広い舞台の上で、刺すように降り注ぐスポットライトの光が眩しくて俯いた。ステージに伸びる影は一つだった。よく知ったメロディが容赦なく鳴り始める。何度確かめても隣で歌ってくれるはずの姿はなくて、苦しさに喘いだ。二人で歌うために作った歌だったのに。どうしてモモはいないんだ。心ではそう喚いているのに、気づけば夢の中の自分は平然とした顔をして歌い始めていた。
     客席から歓声が聞こえる。僕の名前を呼ぶ声も。同じ色をしたペンライトの光の群れが一面にうねる。
     こんなものが欲しかったわけじゃない。顔色一つ変えることなくモモが歌うはずのパートを歌い始めた自分を心の底から軽蔑した。
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