ラバーバンドシャワーから出るとサンウクの背中があって、息をのみそうになった。なんでもない顔を作る。足取りぶれないよう気をつけて冷蔵庫を開けた。
違う、水は冷蔵庫に入れていないだろう。
「またちょっと寒くなりましたね」
誤魔化さなくてもいいはずなのに口からそんなことが出ていった。
「ああ」
後ろで座っている人のことを考えながらキッチンの台に手を置きコップ二杯飲んでいた。
前は、サンウクの定位置であるその向かいに理由もなく座れていた。そんな前でもない。そういえばこの間、などといって、後からは思い出せないささいなことを言いながら座れていた。
洗面所に戻る時に、視界の隅で多分サンウクがこちらを見ていた。
歯ブラシを濡らしながらその音に紛れさせて長く息をついた。一つのゴムの端と端、サンウクと自分、それぞれ掴んで、弛まないように切れないように綱引きしている。
1997