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    okojyoGC

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    別れる寸前のサンジェホ。この後別れません。お互い相手が別れたいんだろうと思っているすれ違いミステリー。

    #サンジェホ
    sanjiehoe.

    ラバーバンドシャワーから出るとサンウクの背中があって、息をのみそうになった。なんでもない顔を作る。足取りぶれないよう気をつけて冷蔵庫を開けた。
    違う、水は冷蔵庫に入れていないだろう。
    「またちょっと寒くなりましたね」
    誤魔化さなくてもいいはずなのに口からそんなことが出ていった。
    「ああ」
    後ろで座っている人のことを考えながらキッチンの台に手を置きコップ二杯飲んでいた。
    前は、サンウクの定位置であるその向かいに理由もなく座れていた。そんな前でもない。そういえばこの間、などといって、後からは思い出せないささいなことを言いながら座れていた。
    洗面所に戻る時に、視界の隅で多分サンウクがこちらを見ていた。
    歯ブラシを濡らしながらその音に紛れさせて長く息をついた。一つのゴムの端と端、サンウクと自分、それぞれ掴んで、弛まないように切れないように綱引きしている。
    もう言ってくれていいとジェホンが弛めそうになる時はサンウクが引っ張り、サンウクが言いそうな気配の時はジェホンが言わせまいと立ち回る。
    具体的にどんな言葉でいわれるのかは分からないが、簡潔にいえば別れようという話をされるだろう。
    そしてこちらはそれに対して、仕方ないですよね、という風にちょっと笑って首を少し振るようにうなずくだろう。一言もいえないだろうし、いおうとして言葉に詰まることすらできないと思う。まだあまりに好きだから。
    別れるとなったらサンウクはこの部屋を出ていくだろうか。いない存在をひたすら意識しながら生活することになる。残ってもらうよう頼んで代わりに自分が出て行こうか。慣れない新しい住居はサンウクといたこの部屋のことを思い出させるはずだ。
    鏡に映る自分の顔が目に入って、すぐに下を向いた。そのまま顔を上げないように歯磨き粉の泡を吐いて口をゆすぐ。ああそうだチョンジェホン、どこでも地獄の時になるだろう。時間は癒してくれるだろうか。
    鏡を見る。肩を上げて、落として、力を抜く。歯を見せて笑い顔を作って元に戻す。出しっぱなしにしていた水を止めた。
    洗面所を出るとやはりまだ食卓につく背中があった。その後ろを「もう寝ようかな、おやすみなさい」と通る。
    「おやすみ」
    寝室の入り口で振り返る。サンウクも振り向いてこちらを見ていた。
    「サンウクさんも、あんまり遅くならないように」
    ベッドに潜る。最近はサンウクがいつ来るだろうと思いながらいつの間にか寝ているか、反対に先に寝ているサンウクの隣に静かに入るかのどっちかだ。
    布団が段々と体温で温まっていく。ため息が出た。気安く気負わず、ただ隣にいる、というのがジェホンなりにサンウクを大切にする仕方の一つだった。あなたが身構えたり、あるいは心を鈍くさせなきゃいけないようなことは絶対にしません。だから気を許してくれて大丈夫。サンウクへの表明であり、同時にこちらの懇願みたいなものだった。
    それももう出来ないでいて、どう引き止めようというのか。
    間違いなく、幸せでよい縁だった。大事にして大事にされた。でもどれだけよいものにもいつかは変化の時が来て、また何か別のものになっていく。しばらくしたらサンウクの中で殆ど忘れかけているようないい思い出になっていればいい。
    自分は多分忘れることの方が難しい。全てずっと大事に覚えておく。
    一緒に住み始めてすぐ、何気なく触れてきた足先の冷たさにサンウクが冷え性だと知った。ベッドの中でなぜか笑いが止まらなくなり、それに抗議するようにきつく抱きしめられた。
    週末の朝先に起きてぼうっとしていると、ふいに隣で「ジェホン」と聞こえることがある。なんだろうと思ったらいつもそれで終わりで、寝ぼけたのかと笑いそうになって唇を噛んでいる内すっかり目が覚めてくる。
    本当は「もう私はあなたの胸に温かさをもたらしませんか」と聞いてしまいたい。その答えをとうとう分からなければいけないのは辛いだろうが、それでも話を聞きたい。まだなにかできることを考えたかった。
    初めてはっきりと恋人になりたいと告げた時、「関係は努力です、サンウクさんとの関係の為にこれからいつでも努力したいと思っています」といった。ああ、と普段のように頷いたサンウクがしばらく黙って、それから「俺も」と返したこと、体に走った身震いするような感覚、目が離せなくてただ見つめあったことを覚えている。
    あの時の言葉は今も変わらない。いつでもこちらには努力する準備がある。布団の下で身を縮めた。でも、もう何もする必要はないと納得した人を目の前にする覚悟はない。
    そろそろどちらか一方がゴムの端を放さないといけないと感じている。サンウクさん、あなたが手放して下さい。全てがこれだけ恋しいのに僕にはとても無理そうだ。
    背中の向こう、一人分空いている。その埋まらない場所に意識をめぐらせながら眠るまで息をしていた。


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