Have a sweet dream.「はい、北さんここ、お風呂の淵に座って。シャンプーしますから」
「ん」
「今日ほんま楽しかったですね。ええ式やったし、披露宴の食事も美味しかったですし」
「せやな」
「最初に出てきた野菜のやつ、クリームチーズのソースやのにちょっと和風っぽくて酒にも合いましたね。今度なんか俺もクリームチーズで作ってみようかなぁ」
「ええなあ。お前二次会でもよぉ食うてたな」
「つい食べすぎちゃいました。流しますね」
ワックスで固まっていた北の髪がシャンプーで洗われていつもの柔らかさに戻った。
「次、トリートメント」
液体を手にとってから手櫛を通すように髪に触れる。
「北さん、目ぇとろんってしてますよ。眠い?」
「結構飲んだしな。お前に髪洗うてもらったら、なんだか眠くなってしもうた」
そう言って大欠伸をした北を上に向かせてシャワーで再び髪を流す。目を閉じた様子が、全てを委ねているように見えて、胸の奥が疼く。
「体は?どうします?」
「治がやって」
いい酒を飲んで機嫌がいいのか、普段は聞けないそんな甘えたことを言ってきた。
「ふふ、はい」
手にボディソープをとってからお湯を足して泡立てる。北のするりとした触り心地の良い肌を泡で撫でていく。前は、どうしよう。
「北さん、前も俺がやってええの?」
「おん。もうお前やって」
流石に落ち着かないシチュエーションだが、なんと北が目を瞑っていて今にも寝落してしまいそうなので、正面はさくっと洗って(その時に北のものも当然触れはしたけれど)、無事に興奮してしまうことは避けられた。
風呂から上がりふわふわのタオルで全身を拭き、クローゼットにかかっていたパジャマを北に着せた。
本当はバスローブでも着せて、その後のお楽しみにしても良かったが今夜は早めに寝ると、二人で決めていた。
治が北の手をひきベッドに連れていく。風呂上がりということもあるだろうが、手がぽかぽかしていた。
「座って。ドライヤーするから」
言われたままベッドの淵に腰掛けて、治がドライヤーで乾かしている間、北はじっとしていた。
「よし」
乾かし終わるとその髪はいつも通りサラサラとしていて、摘んだ髪に鼻を寄せるとホテルのシャンプーのいい香りがした。
「今、水取ってきますね」
ドライヤーを洗面台に置き、腰に巻いてきたタオルを取り北と同じパジャマを着た。
小さな冷蔵庫からペットボトルの水を1本取ると北の隣に座り、一口含んでから北の唇に触れた。
「…んくっ」
「飲めた?」
「ん」
短く答えると北は背中から倒れるようにベッドに落ちた。
「あーあぁ」
治は北の両足をベッドの上に載せて、掛け布団を体の下から取ってから、その体を真っ直ぐの向きに直した。
「もう北さん限界やね」
掛け布団を直したときにベッドの上に綺麗に並べられていたクッションや枕が崩れ、まるで北がその中にすっぽり埋まっているようになった。
「なんや、ぬいぐるみみたいになっとぉ…」
治は部屋の電気を落とし、北の隣に入る。そしてその頭を少し持ち上げて自分の腕を北の頭の下に潜り込ませた。
「明日の朝ごはん楽しみですね。モーニングビュッフェが有名らしいですよ」
「そう、なんや…」
仰向けになっていた北が体をころりと横に向け、治の胸に収まった。
途端に聞こえる、すぅ、すぅ、という寝息。上下する体。暖かい。
その顔を見れば、憂いなどない、穏やかな表情がそこにあった。
「…っ」
ぎりぎりまで起きていたこの人が、最後に意識を手放し眠りに落ちるほど安らぐ場が自分の胸だということに、なぜだか泣きたくなる。
───あなたが今夜も穏やかな夢を見れますように。
「信介さん、おやすみなさい」
その額に、そっとキスをした。