江澄が雲深不知処に着く頃に雨が降り出した。
藍曦臣は山門で待ち構えていて、小雨の中を二人で寒室に急いだ。
寒室にはすでに火鉢が出されていた。
濡れた外衣を脱いで、かごにかぶせて乾かす。
「どうして、迎えに来ていたんだ。あなたまで濡れることはなかっただろう」
「空を見ていたら御剣するあなたが見えたもので、つい」
藍曦臣は「とりあえず」と江澄の肩に白い衣をかけて、火鉢のそばに座らせると、自分は茶の用意をしに出ていった。
衣からは白檀の香りがする。
江澄はしかたなしに座って待つことにした。
夕暮れの雨は外廊を濡らし、時折、屋根から滴ったしずくがぱたぱたと音を立てる。
「少しは温まりましたか」
藍曦臣は戻ってくると、手際よく茶を蒸して、江澄に差し出した。茶碗を手に取ると、じわりと手のひらが熱くなる。
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