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    minatonosakana

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    minatonosakana

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    のいすさんの呟きに興奮したって言うやつ。

    傾国のパイロット フリーダムのパイロットに関わった者は、破滅する。
     最近、そんな噂がザフト軍では流れていた。

    「あんな、虫も殺せないようなぽやっぽやした人に、何が出来るんだよ」
     噂を聞いたシンは呟いた後で、あぁ、いや……。と、思い返す。
     何が出来るのかって言うと語弊があるよな。MSの操縦はトップクラスで、プログラミングの腕もヤベーって聞いたし。そもそも、虫どころか戦闘でかなりの戦場を駆けた『英雄』なんだよなぁ。
     ガシガシと頭をかいてから、シンは最近上官になった、元々は敵の、線の細い青年の顔を思い浮かべる。
     関わったら破滅するって言うなら、俺はとっくに破滅してんじゃん。フリーダムを墜として、あの人を一回殺してるくらいだし。けど、俺は別に破滅なんてしてないし、寧ろあの人に救われたって言うか、あの人と一緒に戦って行きたくなったって言うか……。
     隣のルナマリアが、眉間に深い皺を刻んでいるシンの顔を覗き込んだ。ルナマリアも一緒に噂話を聞いている。
    「まぁ、破滅って言い方が抽象的で、実際はどう言う事を差しているのか分からないわよね」
    「うん。それに、あの人の周りっていつも人が集まってる印象だし」
    「上の人たちに囲まれてるのを良く見るわね。いきなり白服なんて、どちらかと言えば疎まれる対象だと思うんだけど」
    「不思議だよなぁ。そりゃあ、あの人の雰囲気って、柔らかくて優しくてあったかいから、近くに居たいって思うのも分からなくないけど」
     シンがさらりと口にしたキラの印象に、ルナマリアは無言で目を丸くしていた。シンが会ったばかりの人間をこんな風に言うのは珍しい。どちらかと言えば、適度な距離を取って、警戒しながら相手を信用出来るかどうか見定める性格の筈である。
    「……ねぇ、シン」
     ルナマリアが声を掛けようとした、その時だった。
    「きゃぁぁぁ!!」
     悲鳴が聞こえ、二人は同時に駆け出していた。声の聞こえた方向へ一直線に向かい、そして、その悲鳴の主である緑服の女性隊員が見つめる先の様子に驚愕する。
    「なっ……」
     そこには先刻まで話の中心であったキラと、そして黒服の男性の姿があった。黒服は震える両手にナイフを持ち、その切っ先をキラへと向けている。二人の距離は三メートル程で、即座にキラが刺されてもおかしくない。
    「あの人っ……!」
     キラを慕う者が多いと言う話をしたが、やはり逆も然りで、当然フリーダムのパイロットを恨む者だっている。
     シンとルナマリアは視線を交わして頷くと、そっと足音を消しながら黒服の男を挟むように立ち位置を変えて行く。いくら相手が黒服であろうと、赤服である自分たち二人ならば止められると即座に判断していた。
     警戒しながらじりじりと男との距離を詰めるシンは、必死な形相で目を血走らせる男と、そんな男を無感情に見据えるキラを見比べる。
     どうして、あの人何にも動じてないんだよ……。
     キラは驚いた様子も、怖がる様子も、悲しそうな様子も、何も感情が見えなかった。ただ静かに男を見返して、何も言わない。
     まるで人形のようだと思うと同時に、その佇む姿がどこか美しく見えて、シンはごきゅんと喉を鳴らしていた。
    「キッ……キラ・ヤマト!」
     男が口を開く。流石に名前を呼ばれた際には、キラの瞳がほんの少しだけ揺れる。
    「一緒に死んでくれ、ヤマト! 俺は貴方がっ……貴方を、愛しているんだ……! ほら、分かるだろう!?」
     は!?
     シンが男の言葉に驚愕すると、今は殆ど正面に回ったルナマリアも同様に驚いていた。これは恨みなのではなく、心中を求めているのだと分かったからだ。
    「貴方が愛しくて仕方ないんだ……。他の奴らに笑いかけている貴方など見たくない! だから、そうだ……。殺してしまえばいいんだ……」
     男はキラに言うというよりも、自分自身に語り掛けているようだった。シンはこの男の危険性がかなり高いと判断し、ルナマリアと頷き合う。
    「昨日は俺と共にいてくれたのに、今日はどいつと一緒に……? あいつか? それとも、あのいけ好かない……」
     ぶつぶつと呟く男に、シンとルナマリアは一瞬で距離を詰める。男はシンに気付いたが、シンは男のナイフを持つ手を素早く捻り上げた。だんっと音を響かせて、床にその身体を押し付けて、全体重をかけて男を抑え込む。その衝撃で、男の手からはナイフが落ちた。それをルナマリアが遠くへと蹴り飛ばす。
     シンに押さえつけられても尚、男は血走った目で言い続けた。
    「貴方は俺のものだ! 他の奴らが触れることすら許されん!!」
    「なっ……! あんた、何言って……!」
     シンの身体の下で、男は唾を飛ばしながら、狂ったように叫び続ける。ルナマリアは悲鳴を上げていた女性の傍に向かい、詳しい状況を聞いていた。女性は首を振り、突然キラに駆け寄って来た男がナイフを取り出したのだと、キラは何もしていないと、そう言った。
    「貴方より綺麗なモノなど、この世に存在しない! そうだろう!? 貴方の身体はどこもかしこも美しく、そして蠱惑的だ! あぁ……何故そんな目で俺を見るのですか……」
     キラが男に向ける瞳は、相変わらず何の感情も見えなかった。男を映しているのに、映していない。むしろキラの瞳は、男からゆっくりと上がってシンを見ている。シンはそれに気付くと、どきりと心臓を鳴らした。
    「あぁぁ……その瞳もとても美しい! まるで俺を映そうとしない、そのアメジストを俺が濁らせたいっ!!」
    「ちょっ! 暴れんなって……」
     男の声が更に狂気を含む。シンは力を込めるが立ち上がりそうだったので、気付いたルナマリアも男の足の上へと自身の身体を乗せて、膝を両手で掴んで使えないようにした。
    「俺が俺が俺が俺が俺が! 貴方を!!! 汚し!! 殺し!! 救う!! そして、俺だけの貴方にすればいい!!」
     喉が切れる程に叫んでいた男の唾液に、血が混じっていた。吐き出されて床に落ちた唾液が、僅かに赤い。
    「ははっ、ははははッ……! ぎゃはははははははははははは!」
     大声で笑う男に、正気など無い。それがはっきりと分かり、シンは眉を寄せる。
    「……なんだよ、こいつ……」
     そして、これだけの事を叫ばれても、やはりキラは何も言わなかった。男を取り押さえているシンたちに対しても、キラは何も言わない。ただ、キラは一度目を伏せると、小さく「まただ」と呟いていた。その声は、シンにだけ届いていた。


     数分後に、男はジュール隊に連れられて行った。イザークが「また貴様か!」とキラに向かってガミガミと叫んでいったが、ひとしきりイザークの説教を聞いた後でキラがイザークに耳打ちをすると、イザークは忌々しそうに舌打ちをしてから溜め息を吐き出し、キラの頭にぽんっと手を置いて去って行った。どうやらそれでお叱りは終わったらしい。
     残されたシンがキラに近付くと、キラはイザークには向けていた微笑を既に消しており、男が押さえ付けられていた床を見つめる。
    「……あーぁ」
     キラが呟き、シンはキラを見た。
    「また、狂っちゃった」
     残念だと言うように溜め息を吐くキラに、シンは僅かに目を見開く。
    「……あんた、何言って……」
     また。と言う事は、先刻のような事が初めてでは無いと言う事を示している。こんなことが一度ではないなんて、まともではない。
     思わず言葉を口にしてしまっていたシンに向かって、キラはふわりと、しかし妖艶に口の端を上げて微笑する。
     シンの心臓が大きく跳ねて、その後からドキドキと強く激しい鼓動が続く。
    「みんな、僕と寝ると壊れちゃうんだよね」
    「…………は?」
     寝る……?
     シンはその意味が一瞬では理解出来なかったが、数秒の後にその意味合いに辿り着いてしまう。
    「何でかなぁ? みんな、気持ち良かったって言うのに」
    「……まさか、あんた……」
     この穏やかで綺麗な青年が、ザフト軍内の様々な男と肉体関係を結んでいる。その事実に、吐き気がした。
    「あぁやって狂って、そうして壊れて、いなくなっちゃう。不思議だね」
     シンは吐いてしまいそうなくらいに気分が悪い。見知らぬ男たちとキラの同衾を想像すると、言葉に出来ないくらいの嫌悪が襲い掛かって来る。胸糞が悪い。あんな奴らが、この綺麗なキラを抱いているなんて。
     キラは、驚愕と憤怒に深紅の瞳を揺らすシンに、顔を近付けた。
    「ねぇ、シンくん」
     キラの吐息か、シンの唇に触れた。
    「君は、壊れないでね?」
     その一言に、シンの手がキラへと伸びる。キラはそれを理解していながら、離れようとしない。
     シンの手がキラの腰に回り、そっとその細い身体を抱き寄せていた。シンはキラの顎に手を掛ける。
     駄目だ。やめろ。
     頭の中に警鐘が鳴る。
     この人に触れてはいけない。このままでは、俺もあいつみたいに。
     そう思っているのに、止められない。
     まるでキラの形の良い桃色の唇に吸い寄せられるように、顔を近付けてしまう。
     キラはまるで芸術品のような微笑を浮かべたまま、シンの行動を受け入れていた。何の拒絶も無く、シンが求めて来るままに受け入れようとしている。
    「狂っちゃ、嫌……だよ?」
     キラの呟きは、シンからの口付けに消えた。


     フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトに魅せられた者は、その愛を求めて激しく狂い、そして壊れる。
     それは噂ではなく、間違いのない真実だった。
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