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    minatonosakana

    @minatonosakana

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    minatonosakana

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    にっさんの呟きから、落書きさせてもらったやつ。

    よくある准将が捕まる小話 MSの操縦以外はからっきし。
     そう言われていたのに、油断した。
     いや、油断していた訳じゃない。ただ、予想よりも遥かに敵の人数が多かっただけだ。これはどう考えても、ターミナルからの情報が間違っていたせいだ。後で、アスランに会ったらぶん殴ってやる。



    「シン!」
    「隊長は下がっててください!」
     私設の軍事施設が見つかり、オーブ及びプラントに対して攻撃を仕掛ける可能性があるからと、ヤマト隊は隠密で施設潜入にやって来ていた。ルナマリアとアグネスは、別行動であり、この場にはキラとシンしかいない。
     敵たちが無線で連絡を取っている会話を聞く限り、女子組はまだ発見されていないらしく、それだけでも僥倖だろう。
     キラとシンが見つかったのは、彼らが子供たちを牢に捕えているのを知ってしまった為だった。思わずシンが子供を殴る軍人に対して大人しくしていられず、キラが止めていたにも関わらず物音を立ててしまったのが原因である。
     そして、今に至る。
     シンは背後にキラを庇うようにして立ち、集まって来た敵たちの中心で警戒を強めていた。彼らが構えている銃火器の引き金を引かない理由は、敵の一人が「キラ・ヤマトだ! 殺すな!」と叫んだからだった。
     キラさんを知ってるなんて、何なんだよ、こいつら! あんなに子供も集めて、いったい何をしようってんだ……!
     背後のキラも手には銃を持っているが、恐らくこの優しい上官は使うつもりは殆ど無いだろう。
    「飛んで火に入る何とやら、ですねぇ、ヤマト隊長?」
     敵の一人が言い、シンは銃を握る手に力を込めた。強く敵を睨みつければ、シンのその視線に対して敵の男は嘲るような視線を返す。
    「犬を飼っているようですが、たった一匹の子犬程度では貴方を守りきれますまい」
     その男の言葉に、シンはカチンと額に青筋を浮かべた。単純だとは自覚しているが、子供であると侮られる事には酷く腹が立つ。
    「お前……」
    「シン!」
     気付いたキラが名を呼ぶが、既に遅い。
    「馬鹿にするなよ!」
     シンは強く床を蹴ると、自分を揶揄した男へと駆け出していた。銃を左手に持ち帰ると、右手には電流の流れる特殊警棒を腰から外して握りしめる。
     掛かった。
     シンを挑発していた男の口角がにやりと上がった。キラからシンを離すのが目的であったのだから、それは当然だった。彼らにとって、シンは生死を問わない。男を含めた敵の部隊の銃口が、一斉にシンへと向いていた。
    「シン! 駄目だ!」
     キラが叫ぶが、そんなキラの元へは他の男たちが群がっていく。キラは彼らに銃口を向け、「止まって下さい!」と威嚇はするが、私設とは言えプロである彼らがセーフティロックが掛かっている銃を向けられた所で何の効果も無い。幾つもの手を伸ばされて、キラはそれを振り払おうと手足を動かすが、やはりそれもプロである男たちにとっては駄々っ子で暴れる子供同様であり、キラはあっさりと後ろ手に両手を拘束されてしまう。
    「隊長!?」
     シンがそれに気付いた時には、キラは背中側で手首を縄で括られてしまっていた。
    「くそっ……!」
     シンは近くにいた男の一人を蹴り飛ばし、キラの元へと駆け寄ろうとした。しかし、その行先には銃弾が放たれて、シンの活路を塞ぎ続ける。
    「ちっ!」
     舌打ちをして、シンは銃弾を放ち、敵の数人を打ち抜くが、それでもシンは一度離れたキラの元へと戻る事を許されない。キラはシンの視界の端で捕らわれて、床に両膝をつかされている。キラは自身を捕えている男たちに向かって必死に何かを言っているが、シンにはそれが聞こえない。それ程、二人の間には距離が出来てしまっていた。
    「キラさん!」
     シンがもう一度叫ぶ。キラはにやにやと笑う男たちに囲まれて、それでも拘束を解こうと必死になっていた。諦める様子の無いキラに苛立ったらしい男の一人が、キラの口元へと濡れた布を押し付ける。
    「キラさんっ!!」
     キラは必死に首を振ったが、布にはたっぷりとクロロホルムがしみ込んでいた。キラの体がぐらりと前のめりになり、瞼がゆっくりと下りて行く。地面に倒れ込む前に、その身体は男の手で支えられて、肩に担がれてしまう。
    「キラさんを離せぇぇぇ!」
     シンの瞳の奥で、種が弾ける。シンは男たちが引き金を引く前に、その手を次々と撃ち抜いていった。血飛沫が飛び散り、撃たれた事に体勢を崩した男たちを、次々と警棒の電流で意識を闇へと沈める。
    「おい。そいつは特別なコーディネイターなんだろ。これも打っておけ」
     キラを肩に担いだ男の元に、注射器を持った男が近付く。シンがその男に気付いて銃口を向けるが、そんなシンへと距離を詰めて蹴りを放って来る者がいた。最初にシンを挑発した、リーダー格らしい男だった。
    「邪魔すんなよ、ガキ」
    「てめぇ……!」
     シンがその男との肉弾戦をしている間に、キラの首筋には注射針が突き立てられる。
    「あっ、ぅ……」
     痛みに呻き声をあげて、キラはまただらりと四肢を重力のままに投げ出した。体のどこにも力が入らず、もはやシンの姿も見えず、何の音も聞こえなくなっていく。
     シン……逃げて……。
     薄れゆく意識の中でも、キラはただシンの身を案じていた。




    「キラさんを助けに行くって言ってんだろ!!」
    「うるさい! 山猿! あんたが単純だから、隊長が攫われたんでしょうが!」
     シンが敵の集団と立ち回っている間に、キラはアグネスが言う通りに生け捕りにされてしまった。シンはルナマリアとアグネスが助けに入った事で、五体満足で脱出出来たが、キラはまだあの施設に囚われている。
    「シンもアグネスもうるさいわよ。あの施設から隊長が移送された形跡は無し。隊長が胸元に入れていたトリィの反応も移動していない。だったら、もう一度潜入して、隊長も子供たちも助けるだけでしょ」
     騒ぐ二人に対して、ルナマリアだけが冷静だった。
    「お姉ちゃんの言う通りだよ、二人とも。今回は私もアスランさんも手伝えるし、絶対にキラさんを助け出そうね!」
     合流したターミナルの二人も、キラを助け出すつもり満々である。
    「どうやらあの施設はファントムペインとコーディネイター、どちらの研究も行っているらしい。その為、ナチュラルの子供たちを実験動物のように扱っているし、特殊なコーディネイターであるキラの体も研究したかったんだろう。キラの場合は命を奪うようなことはないだろうが、子供たちが心配だ。急いで作戦を立てるぞ」
     アスランの言葉に、ヤマト隊の三人からは冷たい視線が集まる。アスランはその意味が分からないと言うように、三人を見返す。
    「な、なんだ……」
     たじろぐアスランの肩を、呆れた様子でメイリンが叩いた。
    「突然やって来て仕切り始めたら、そりゃあ反発されるに決まってるじゃないですか。アスランさん、シンに殴られていないだけマシですよ?」
    「そう言えば、俺、アスランの事殴るつもりだったの忘れてた」
    「は?」
    「情報だと、施設内にあんなに軍人がいるなんて言ってなかったっすよねぇ。隊長が捕まったのってそれも原因だと思うんで、情報不足ってことで一発殴らせてください」
     シンの言葉に、背後のルナマリアとアグネスから「やっちゃえ」とGOサインが飛ぶ。アスランはメイリンを一瞥してから、メイリンも頷いた為、拳をボキボキと鳴らすシンに向き合った。殴られてやってもいいが、ただで受けるつもりは無いらしい。
     二人の頭の中で、カァンとゴングが鳴る。気が合わない二人が殴り合いを始めた横で、女子三人は施設内部の図面を見ながら、淡々と作戦会議を進めて行った。




    「メイリンがいるだけで、めちゃくちゃ潜入が楽じゃんか……」
     施設内のあらゆるセキュリティを、あっという間に掌握してしまった為、シンは前回の潜入で苦労した道を堂々と駆け抜けていた。メイリンに指示された通りに研究棟を進んでいけば、手術台のようなベッドにベルトで両手を拘束されているキラを即座に見つけ出すことが出来た。前回苦渋を舐めさせられた戦闘部隊は、アスランとルナマリアとアグネスに任せているので、シンは今回の潜入では彼らと一度も手合わせしていない。
    「キラさん!」
     シンが呼ぶと、キラはゆっくりと目を開く。天井をぼんやりと見つめたキラは、視線だけをシンに向けた。
    「……シ、ン……?」
    「侵入者!?」
    「馬鹿な! 何の警報も鳴っていないぞ!?」
     キラの周囲には白衣を着た男たちが四人。シンは素早く男たちに近付くと、男たちの首に手刀を入れ、腹部に拳を入れ、と、次々と男たちを気絶させて床に転がした。戦闘訓練を受けていない研究者程度ならば簡単なのになと、キラを捕えられた時の事を思い出すと自己嫌悪してしまう。
     シンは溜め息を吐いてから、キラの元へと駆け寄った。
    「遅くなって、すみません。今、外しますね」
     カチャカチャとベルトを外そうとするが、鍵が見つからない。シンは自分が倒した白衣の男たちの服を探る為に、キラに背を向ける。
     ごそごそと男たちの持ち物を探るシンの背を見つめながら、キラは瞳に涙を浮かべていた。
    「あ、あった。キラさん! 多分、これが、鍵……」
     振り向いたシンは、キラがぽろぽろと涙を流しながら自分を見つめている事に気付き、慌ててキラへと再度駆け寄った。
    「ど、どうしたんですか、キラさん!? どこか怪我でも!?」
     涙を流すキラは、慌てるシンに向かって微笑んだ。
    「ううん、違うよ。……シンが来てくれて、嬉しくて……」
    「キラさん……」
    「……ごめんね。ちょっとだけ、怖かったんだ。体、全然動かなくて、このままもうシンたちに会えないまま、死んじゃうかもって思ってたから」
    「そんな……」
     シンはぐっと唇を噛んだ後で、キラを安心させるように歯を見せて笑った。
    「隊長を一人で死なせるなんて、絶対にしないですよ! なんたって、俺たちヤマト隊はザフトでもエリートだったんですからね!」
     シンの言葉に、キラも笑い返す。
    「うん」
     シンがキラへと向ける感情は、上官を敬愛すると言うだけのものではないのだが、今はこれでいい。まだここは戦場の真っ只中であるのだから、ほのぼのと会話をしているような猶予は無い。
     ベルトの鍵を外し、キラの拘束は全て排除した。しかし、やはりキラは自身の意思で身体を動かす事が出来ない。
    「……ごめん」
    「謝らないで下さい。元はと言えば、俺が守り切れなかったのが悪いんですから」
     シンはキラの背と膝裏に腕を差し入れると、キラの身体を横抱きにする。キラが腕を動かせず、シンの首に手を回すことが出来ない為、キラの全体重がシンの腕に掛かる訳だが。
    「……軽過ぎません?」
    「そんなこと無いと思うけど……」
    「いや、軽過ぎますって! 帰ったら、絶対にご飯たくさん食べてくださいよね!」
     シンはそう言って、キラを横抱きにしたまま走り出す。メイリンがインカムから指示を出し、シンはそれに従ってキラを連れて脱出を果たす。
     本音を言えば、苦渋を舐めさせられた部隊を自身の手で壊滅させたかったが、それよりもキラを助け出す役目を求めた。シンは怨恨よりも、キラを優先させた。そんなシンの決意に、アスランたちは自分らが囮となる事を選んでくれていた。
    「キラさん、俺、もっと強くなりますからね」
     もう二度と、貴方をこんな危険に晒さないように。


     強くなりたいと願っていたし、努力をしているつもりだった。それなのに、まだまだ足りない。
     シンがそれを実感した、とある日のとある任務の何でもない話。



     因みにキラはその後、アスランから「だから戦闘訓練をしろと言っているだろう!」といつものように怒鳴られた、とのことである。
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