「可愛い後輩 男 検索」
ああ、俺はなんでこんな事してるんだろう。
………アイツがいつも俺に『生意気』とか『可愛くない』とか言うからだ。
たしかに自分でも可愛げのない後輩だとは思う。そもそも好かれる人間になろうという気もないし……。
「そんな必死にスマホ見て何してるの烏丸」
「別に…お前には関係ないこと」
「またそんなこと言って…可愛くないな」
いや、こんなの検索してるのがバレたらマズイだろ。なんて言われるか分からねぇ。絶対笑われる。
「すぐそうやってスマホ隠すとか怪しいな。…また元カノと連絡でも取ってるの?」
「……はぁ、めんどくせぇな。お前が嫌そうだから連絡先消したしもう話してねぇよ」
「え!?あ、そ、そうなんだ…」
そんなことはどうだっていいんだよ…。
いや待てよ?そういえば昔付き合ってた先輩(女)はしょっちゅう俺のこと可愛いって言ってた気もする。当時はめちゃくちゃ嫌だったが…というか今言われても嫌だが、何が可愛かったんだろうか。
とりあえず調べてみたところ、『素直で明るい』のが可愛い後輩ってやつらしい。
明るい…っていうのは難しい。暗くはないと思うが明るくはないよな…でも明るい俺ってなんか変じゃねぇか?想像するだけでおぞましいな…。とりあえず素直になってみるか。
「おい」
「ん?なに?」
「…勉強疲れた。今日はもうやりたくない」
「烏丸がそんなこと言うの珍しい。まぁたまにはゆっくり休んだ方がいいよ」
「…おう」
「じゃあ俺帰るね。」
「やだ」
「えっ…」
思わず引き止めてしまった。『やだ』ってなんだよ。駄々っ子かよ。
「ま…まだ帰んなくていいだろ」
「でも俺がいたらゆっくりできないでしょ。この部屋もそんなに広くないし…」
「お前がいても問題ない」
「…もしかして、烏丸体調悪い?そしたら何か買って…」
「ちがう!そういうわけじゃねぇ…」
どうしたらいいんだ。悪魔のやつ、すっげぇ困った顔してるぞ。少し素直になってみたらすぐこれだ。いや、これ、素直なのか…?
普通に『一緒に居たいから居てください』って言えばいいんだろうか。…めちゃくちゃキモいな。いや、今日は素直になるって決めたしな…
「い、いっしょにいたい…」
「…え…、な、なにと?」
「お前とだよ…」
「…ちょっとまって、烏丸やっぱりどっか悪いんじゃ」
「あーーーもう!俺がそういうこと思ってたらダメなのかよ!」
思わず大声を出しながら悪魔を押し倒してしまった。やっぱ素直になんかなるべきじゃなかった!恥ずかしすぎて死にそうだ。コイツの顔も見れない。なんだよこれ…どうしたらいいんだよ…。
さっと離れて反対を向いた。
それからちょっと間が空いた。
もうここまできたら引けない。
「……勉強疲れたのは本当だからな」
「……そっか」
「…一緒に居たいって言ったのも……まぁ……ほ…本当…だけど…」
「………………………」
なんで黙るんだよ…。やっぱり変だったのか。キャラじゃないしな。自分でもキモいって思うし多分コイツもそう思ってるんだろうな。……それはそれでなんか……嫌だけど。
「可愛くない後輩で悪かったな。もうこういうの言わねぇから忘れていい。」
「なんで?」
「なんでって……嫌だろ俺からこういうの言われても」
「嫌じゃないよ」
「あーあーいい。そういうの。別に俺はお前が何を言おうがなんとも…」
「だから本当に嫌じゃないって。嘘じゃないから。」
「…じゃあなんでさっき黙ってたんだよ」
「それは…その………嬉しかったから…」
…嬉しい?コイツ今嬉しいって言ったか?
確認の意味も込めて悪魔と向き合うように座り直した。
まぁなんか顔赤くしてるし多分そんなこと言ったんだろうな…。じゃない、そうじゃない。そんな反応されると俺もどうしたらいいか分からなくなるだろ…!
「嬉しいって、本気で言ってんのか?」
「本当に嬉しかったよ。だって烏丸そういうこと全然言ってくれないし。」
「…それはそうかもしれねぇけど…」
「だから、烏丸って本当に俺のこと好きなのかなとか、俺の居て楽しいのかなとか色々考えちゃって…」
「……まぁ、そうなる……のか…」
「でも今日の烏丸すごい素直だから、逆に怖くて…受験の疲れとかもあるし。だからさっき黙っちゃった。ごめん。」
「…別に謝んなくていい。」
前から思ってたけどコイツ、割と重いよな…。いや、俺が何も言わなすぎてるのかもしれない。元カノにも『カヨウくんって本当に私のこと好きなのか分からない』とか言われたことあるし。
俺が言葉にしないのは、何となく恥ずかしいってのもあるが、自分自身もどうしたいのか分からないからだ。今だって一緒に居たいからそう言ったが、なんで一緒に居たいかは分からない。
…嘘だ。本当は分かる。分かるけど認めなくないし言いたくない。けど……
「…思ってること、素直に言ったらお前は喜ぶのか?」
「え?……うん…多分。喜ぶかは内容にもよるけど、思ってることはちゃんと言ってほしい。」
「……嫌いにならねぇか?」
「なるようなこと、烏丸は言わないよ」
「……………なんだよそれ…。変な奴。」
心臓がバクバク鳴ってる。こんなの初めてだ。今まで誰かと付き合ってこんな思いしたことなんてない。…もう言うしかない。コイツも嫌わないって言ってるし。これでダメだったらボコボコに殴ろう。そうしよう。
「……あの…さ」
「うん」
「あ………あまえたい…」
言ってしまった。無理だ無理だ無理だ!もう2度とコイツの顔を見ることはねぇだろうな!うわ………人生最大の羞恥だろこんなの…。
「………あはは」
「…!お前っ…」
「あ、ごめん。別におかしいわけじゃないよ。」
「…なんだよ…ムカつく…」
「ごめんって。だってヤりたいとかはいつも普通に言うくせに、甘えたいって言うのは恥ずかしそうにするからさ、なんか可愛いなって」
「……ムカつく…」
「はいはい。普通に甘えていいよ。烏丸、普段そういうことできないでしょ。」
確かにそうだ。家帰っても妹と母親の前じゃそんな暇もない。学校はもっと論外だ。
なんて考えてたら、悪魔に頭を撫でられた。
意外と心地がいい。
そのまま隣に座って肩にもたれかかった。
こういうの、何年振りだろう。
もしかしたら初めてかもしれない。
すごく眠くなってきた。恥ずかしいし疲れたし、このまま寝てもいいか。
でも余裕そうな顔してるコイツもなんかなぁ…。
最後にかましといてやるか。
「……ありがとな………………月翔」