「暑いねえ」
「……ん」
通りに面した商家の軒先で重雲はうずくまり、僕は柱に背を預けた。水筒の茶は既にぬるくてまずい。一口飲んだそばから、汗が滴り落ちて石畳を濡らす。
終わりかけの夏が、最期の力を振り絞って熱波を放出しているようだった。太陽は薄い雲の影に隠れていたものの、纏わりつく湿気がひどく不快だった。商会の屋敷から大通りまで出てきただけなのに、重雲はもうぐったりしているし、僕もこれ以上先に進む気にはなれなかった。
しゃがみ込んでいた重雲が、僕のフリルの袖の端を掴んだ。暑さで頭が朦朧としているのだろう、幾分か幼い様子で、菓子でもねだるようにくいくいと引いてくる。
「行秋……」
「どうしたんだい? もう帰る?」
小さく頷いた重雲の頬を優しく撫でてやれば、彼は僅かに目を細めた。そんな彼に、努めて柔らかい表情で微笑みかけた。
「分かったよ、帰ろうか。涼しくなるまで、何日でもうちにいてくれていいから」
実際のところ、重雲は一昨日からうちの屋敷に泊まっていた。璃月市街で仕事をするつもりなら、方士一門の屋敷から通うより、街中にある商会の屋敷の方が都合よい。だから彼は時々泊まりに来るし、僕の方から誘うこともあった。今回は前者だ。
「立てるかい?」
「うん……」
腰を屈め、重雲と目を合わせて手を差し伸べる。素直に掴まってきたその手はじっとりと熱い。触れ合った指先から、お互いの体温を生々しく感じられる。
のろのろと立ち上がった重雲と共に、裏路地を選んで歩き出した。道、というよりも建物と建物の隙間だ。多少狭苦しいが、雲を貫く陽光はいくらか緩和される。