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    流浪 @阿七おいしい

    遙か7阿国さん激推しの阿七狂い。
    阿国さんが幸せなLOVE&ピースな世界が好きです。

    漫画と小説で一応世界線分けてますが、基本イチャイチャしてます。
    小説の方が真面目(?)な阿七です。

    *エアスケブ始めてみました。

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    *主にまとめ、長めの小説に使ってます。

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    遙か7
    出陣イベントドラマ『悠遠の彼方へ』の終幕から続く阿国さんのSSです。

    ふと、あの√が阿国さんの復讐だと解釈すると面白いかなぁ、と思いついたので書いてみました。
    大分ダークサイド阿国さんですが、阿七風味もちょっと入れられて書いててとっっても楽しかったですw
    結構面白くできたと自分では思ってる。
    2022.10.6

    水底の石 岐阜城の夜、七緒が去った縁側は静寂が落ちてしん、と落ち着いている。さわさわと庭木を揺らしながらそよ吹く夜風に髪を遊ばせながら、阿国は遙か遠い星を眺めていた。
     ふと、小さく溜息が溢れた。それは阿国の心に落ち、その水面を微かに揺らす。
    「──その溜息は何に対してだ」
     頭上の影から声がしたのは、その時だった。


     宗矩はむっつりと口をつぐんでいた。虫の居処が悪い訳でも、体調が芳しくない訳でもない。ただ、何か石がつっかえたように腑に落ちないものがずっと胸に溜まって、どうにも座り心地が悪かった。
     心を乱すなど甚だ未熟だと、落ち着こうと星を見に屋根に登っていた時、軒下から話し声が聞こえてきた。確認せずともそれが誰のものかはすぐに分かり、立ち去ろうとも思ったが、宗矩はすぐにそれが決断できなかった。
     声の主は龍神の神子である七緒と、そして地の玄武である宗矩の対、天の玄武を担う阿国だった。今他ならぬ宗矩の心を波立たせる両者が揃ったことに些か驚きつつ、それもまた当然かと思い直す。
     龍神の神子を旗印に泰平の世を作る──阿国が提案し、七緒が決意したそれ。七緒が神子として、これまでこの乱世に真摯に向き合い心を砕いてきたことは宗矩も大いに認めているところだ。その七緒が決めたのであれば応援してやりたいし手助けもしたいと思うが、正直なところ、ひどく驚いていた。そして同時に、危惧もしていた。違和感が胸中を支配する。
    「──その溜息は何に対してだ」
     一人になった阿国の溜息を聞いた時、宗矩は声を掛けていた。
    「宗矩…」
     屋根から飛び降り、軽々と阿国の前に着地する。阿国は驚くように胸を押さえた。
    「びっくりした。出歯亀かい?感心しないね」
    「それに関しては詫びる。だが、お前に聞いておきたいことがあった」
    「ええ?なんだろう」
     窄めた袖で口許を隠しながらきょとんとする阿国を、宗矩は静かに見据えた。
    「…恐い顔。一体なんだい?」
    「──どういうつもりだ」
     隠すつもりは鼻からなかった。これは個人の問題ではない、世に関わる事柄で、宗矩はこの人の世を見捨ててはおけない。だから直截に尋ねた。例え相手が気心が知れた昔馴染みであろうと、目を瞑ることはできなかった。
     対する阿国は、それに揺らいだ様子はなかった。
    「…藪から棒だね。何がだい?」 
    「決まっているだろう。何のつもりであんな提案をした」
    「提案?…ああ、神子を旗印に、かい?言ったろう?あの子が徳川でも豊臣でもない戦のない世を作りたいと言った。わたしだってそれは大いに望むところだ。だから──」
    「泰平とは、そんな生易しいものではない」
    「……」
     阿国の目が一瞬細まる。
    「その出自と龍神の神子である以外、普通の娘でしかない神子に果たしてどこまでの力があるか…。例え一時及ぼうとも、それは到底泰平と言えはしないだろう。そもそも犠牲のないそれはあり得ない。お前は神子をどうしたいんだ」
    「どういう意味だい」
    「分かっていないとは言わせない。お前は愚かではない」
     阿国は感情の窺えない目であらぬ方を見る。宗矩の胸は一層騒めく。
    「…足場の脆い旗はいずれ倒れる。神子に永遠の命はない」
    「だけどそれを支えるのがあんた達武士の役目だろう」
    「俺たちの命も同じだ。神子か八葉、どちらが先に倒れてもその先はない」
     神子を旗印に──それ自体は構わない。夢想とも思わない。だが、長い歴史の余りに刹那に過ぎない。人心を集めた神子──七緒が死ねば、それは一瞬で脆く崩れ去るだろう。
    「まだ織田家がある」
    「誰が従う。豊臣の天下、一時でもただの一大名に落ち、徳川に劣った織田に従い続ける家などそうそうありはしない。少なくとも徳川と豊臣は従わない。神子の足元、水面下で謀は常に動く。神子が倒れたその瞬間、水面から躍り出る影は少なくない。それは恐らく今よりも混沌として、世は荒波に晒され疲弊する」
    「…兼続も黒田殿も賛成した。あの二人はわたし以上に愚かじゃない」
    「打算だ。それも一時の」
     溜息混じりに首を振る阿国に宗矩はいい加減苛立ちを覚える。
    「あんただって賛成したろう」
    「俺は神子の意志に対してだ。だがそれとて内府様の意向次第だ」
    「どいつもこいつもまったく…神子が憐れだね」
    「お前が言うのか。…阿国、何を考えている」
     そこでようやく、阿国の感情が動いた気がした。こちらを向いた目は静かだが、化粧で飾られたその奥底に仄暗い影が宿る。長い付き合いになるが、こんな目をした阿国を宗矩は初めて見る。
     阿国──長山十五郎の正体を宗矩は知っている。当人から聞いた訳ではないが、断片的な情報から繋ぎ合わせ、調べてみればすぐに確信した。──明智光慶。それこそが舞いで世の人々を魅了する踊り手、阿国の真の名だ。かつて天下の目前にあった主君を弑し、自らが成り代わろうとした逆臣明智光秀、その嫡男であり、生き残り。それは即ち七緒の仇でもあった。
     七緒の気性も宗矩は知っている。龍神の神子に相応しく、心強く清らかな少女。七緒は阿国の正体を知ろうとも、決して仇を望んだりはしないだろう。宗矩の目から見た二人には、因縁を超えた絆が築かれていた。それは神子と八葉、あるいはそれ以上の。
    「…神子が、憎いのか?」
    「ありえない」
     否やは早かった。
    「あの子はこの世の希望だ。この暗い乱世にたった一つ、眩しく輝く明星だ。わたしはあの子を大切に思っているし、何を引き換えにしても守りたい」
    「だが、お前の言っていることは…」
    「そんなこと最初から分かっている」
     声が揺らぐ。阿国ではない、それが顔を出す。
    「だが、囁くんだ。耳元で声が……忘れるな、と」
    「阿国…?」
    「親の遺志を子が継ぐのは世のならい…。それは私のことだ。私がそれを望む望まざるに関わらず、責め立てるんだ…毎晩、毎晩…」
     異様に怪訝とする宗矩に嘲笑するように口許を歪めて、阿国は項垂れるように額を押さえる。
    「…憎いのはあの子でも、織田でもない……──私だ。誰よりも弱い私が…私は憎い…」
    「お前…」
    「だから抗いたかったんだ…こんな世に、せめて…」
    「まさか──」
     阿国の正体その内実よりも、この男の気性の方がよほど宗矩は知っている。愚かではない、と先ほど断じたように、この男は強かでもあった。本質は弱いと項垂れる今のように優し過ぎるほど優しく、また人を思いやるが、それだけで生き延びられるほどこの乱世は甘くない。だが阿国は生き抜いてきた。たった一人、この世を憂い眺め続けてきた。
    「徳川も豊臣も…これで天下はなくなる。戦だって…少なくとも秀信殿が後見となった神子がいる限りはまだ抑えられるだろう。私たち八葉も柱石になればいいし、きっと皆なってくれる。そして一瞬の泡沫のようなそれでも、あの子に理想を見せられる為なら私はなんだってこの身に引き受ける。この命を賭けて神子を守ると誓う」
    「皮肉だな。神子を通して父親の遺志を遂げるつもりか」
    「…父上の遺志か……そうだな。形は違えど、私は父のようにこの乱世に石を投げたんだ…」
    「………」
     それは結局、家の呪縛から逃れられていないのではないか。そう思うが、宗矩はまた口をつぐんだ。一度でも投げられた石はもう戻らない。
     阿国は悠遠のような夜空を仰ぎ、静かに目を瞑る。
    「たった一石…些細な一石だ。それでもこの先も続く長い歴史の奔流…それを少しでも私が歪める…。例えその果てが暗く冷たい水底だとしても、確かにそこに存在した…──これは、私の復讐だ…」
     その切なる姿はまるで、水底からそれでも光を求める儚き願い石のようだった。


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