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    秘みつ。

    @himi210

    @himi210 小説 / 毎日更新12:00〜21:00 / 凪茨右茨ジひジ▼感想質問お気軽に📩 http://bit.ly/3zs7fJw##ポイピクonly はpixiv未掲載ポイピク掲載のみの作品▼R18=18歳以下閲覧禁止▼##全年齢 for all ages▼連載一覧http://hi.mi210.com/ser▼連載後はpixivにまとめ掲載http://pixiv.me/mi2maru▼注意http://hi.mi210.com/guide▼フォロ限についてhttps://poipiku.com/19457/8988325.html

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    ジュンひよ凪茨▼カズオイシグロ『クララとお日さま』パロ
    https://poipiku.com/19457/4369137.html 続編

    ##凪茨
    ##ジュンひよ
    ##全年齢

    ジュンとお日さま続

    「……オレと仲良くしない方がいいんじゃないっすかぁ……?」
     大講義室の席から人々が去っていって、端末をしまうおひいさんの隣でオレは云った。
    「どうして?」
    「だって、まあ、オレはAFから介助ロボットになったわけですけど……オレみたいなの引き連れてる大人なんてそうそういないし……」
     大学生活にも慣れてきて分かったのが、自分みたいなアンドロイドをここに連れてきている人間はほとんどいないということだ。それとおひいさんと話したがる人間が来るのに、オレがいるとなんだかそれを邪魔してしまっている気がする。普段はほとんどリモート講義、なかなかない対面形式の授業での交友する機会。これは関係性の形成に悪影響を及ぼしているのではなかろうか。
    「おひいさんが、こまるんじゃないっすか」
     大講義室を後にして外に出る。緩やかな午後が裾野を引きずって緩慢に広がっていた。
    「AFを大人が連れていちゃわるいの? そんな、それだけで人を奇異の目で見てくる人間が寄り付いてこない分お得だね!」
    「はあ。オレはもうAFじゃないっすけど」
    「ぼくにとってはジュンくんはぼくの大事なAF。ずっと一緒だって、約束したよね?」
    「まあ、そうですけど」
     遠くからこちらに手を振る人がいた。女の子たちがおひいさんを呼んでいる。カフェテリアでお茶を飲もう、ということだ。
    「ジュンくんいこうね、おしゃべりはたくさん人がいたほうが楽しいねっ!」
    「はいはい」
     おひいさんがぎゅっと手を握ってひっぱる。
     おひいさんがわらう。
     まあきっとそのうちオレは家事専用のアンドロイドになるんだろうなあと、わらっているおひいさんを見て思う。だってそれが――対人して話しているのはおひいさんに似合うし、おひいさんはモテるし、そういう交際にさすがに親友、を、混ぜることはないと思う、し。
     オレはおひいさんがわらっているだけで幸せなんだなあ、と人々を眺めながら調子のいい回路を認知して、思った。時折感じる痛みは、きっと、幸福の副産物なんだろう。

     ***

     定期メンテナンスにナギ先輩の家に向かったら、物影でナギ先輩が茨に覆い被さっているのを望遠モードで確認した。なにしてるんだろう。すると茨と目と目が合う。こちらを睨(ね)め付けて、ナギ先輩から離れていった。
     歩いてようやくガレージに着く。
    「……ジュン、早かったね。いま工具を取ってくる。日和くんは?」
    「あとからきますよぉ。はいこれ、お土産です」
    「ありがとう」
     ナギ先輩が部屋に戻った。その隙に茨が手招きしてここに座れという。ガレージの端に、二人でしゃがみ込んだ。
    「見ましたね」
    「? なんです?」
    「俺と閣下の……愛の行為を」
    「あい」
     茨は少し置いてため息をする。人間みたいだった。
    「閣下は人形偏愛症なんですよ。ピグマリオンコンプレックス。人間はお呼びでないんですよ」
    「そうなんですか。茨を、……ええと、愛しているんですね。セックスをする、みたいな愛」
    「そうですよ。愛し合っています。俺たちは恋人同士なんです」
    「恋人……親友じゃないんですね」
    「もうAFじゃないじゃないですか、ジュンも」
     茨はこちらを見て、酔ったような、わるいえがおで話始めた。蛇が絡みつくみたいに、言葉を這わせる。
    「閣下はね、俺にしか勃起しないの。俺の体を触って、くちづけをして、愛撫して――射精する。俺だけを愛してくれる。俺は閣下のもので、閣下は俺のもの。拾われた命ですから、俺は閣下のために尽くしますよ。何があっても……ずっと二人だけで生きていく、そういう契約」
     茨は満ち満ちたように目を細めた。幸せなんだろう。それはいいことだな、そうおもう。
    「性器、つけてもらいますか? 殿下、喜ぶんじゃないですか」
    「はあ、つまりおひいさんも人形に性欲があるかもしれないと」
    「だってジュンのことすきでしょう? 大人になってもAFを廃棄しないなんて異常ですよ」
    「好き? そうですねえ。そうかもしれません」
     おひいさんは世間一般とだいぶずれていることはわかってきていた。自分がその査証になっているのか、と云われて改めて自覚する。でもおひいさんから性欲を向けられたことはない、と思う、し、おひいさんは愛することが好きだから、きっとだれか人間を愛するだろう。
    「うーん、おひいさんはきっと誰かと結婚するだろうし、オレにそういうの求めてないと思いますよぉ。性欲そんなないし。まあおひいさんが云うならつけますけど」
    「ジュンってウブですね」
    「あ、貶してるでしょ、そのくちぶり」
    「バレました?」
     話しているとナギ先輩が帰ってきて、丁度おひいさんもやってきた。
    「凪砂くん見ないうちに汚れに拍車がかかっているねっ! 悪い日和っ! 機械いじりもいいけど身綺麗にしないとダメだねっ!」
    「……うん、そうだね。茨にしか会わないからあんまり気にしてなかった。茨、今度からシャワーの回数増やそうね」
    「アイ・アイ!」
     ナギ先輩は茨を見つめてやわらかくわらった。
     愛し合っている。恋人同士。ずっと二人で生きていく。
     そこには閉じられた世界があって、きっともう完成されている。
    「ジュン、メンテナンスしようか」
    「あ、はい」
     薄い膜の中に蠢く熱量を、きっとオレは認知できないんだろうなあ、と作業台に横たわりながら目を閉じた。

     ***

     巴の家に泊まって、おひいさんは子供の頃みたいにオレをベッドに呼んで、二人で寄り添った。
    「なんです、寂しくなっちゃったんですか。子供返り?」
    「……抱き枕に丁度いいね。今度から一緒に寝ようね」
    「はあ。柔らかくねーですけど」
     おひいさんはぎゅう、とオレを抱きしめた。心音は少し早い。風邪かな? 体温も少し高いし。
    「おひいさん具合悪い?」といったのに被せて、おひいさんがつぶやいた。
    「……ぼく、ジュンくんが好き」
    「オレもおひいさんのこと好きですよぉ」
    「違うの、そういうのじゃなくて……」
     すみれのいろが、綺麗にひかってオレをみつめた。――また痛みを感じる。
    「凪砂くんと、茨が愛し合ってるみたいに、好きなの」
    「はあ」
     人形に性欲がある。そんな風に感じなかったのに、そうなのか。
    「……えーと、じゃあ、性器付けます?」
    「なっ……ジュンくんの破廉恥!」
    「ええ……」
     おひいさんは顔を真っ赤にして怒った。だってナギ先輩と茨みたいにってことは、セックスをするみたいな愛、ってことだろう。
    「オレはおひいさんの望むようになりますよ。パーツ交換した方がいいならするし、恋愛感情モジュールもあればインストールしたほうが」
    「嫌なの、ジュンくんに……ぼくに欲情するようにプログラムするなんてこと……、だってそれはジュンくんの意思じゃないでしょう?」
    「いし」
    「ジュンくん……」
     うるんだすみれからなみだがこぼれて、それは止まらなかった。困った。機械の思考を意思と呼ぶなら、演算の結果が全てなら、それはすべて組み込まれた意思なのだろう。オレには意思がないんだろうか。でも、おひいさんのために、という固い信念はある、つもりだ。
    「うーん、どこまでが操作された行動で、どこからがオレだけの行動かどうかは、よくわかりませんね」
     涙を拭って、頬を撫でた。やわらかくしなやかだ。
    「でもオレは、おひいさんがわらってくれるならなんだってしますよ。親友ですから」
    「ジュンくん、ぼくを、好きになって、愛して、……ぼくが愛するみたいに」
    「オレはおひいさんの行動をずっとみてますから、大丈夫、できますよ。今だって、おひいさんに成り代われるように記録しています」
    「それはジュンくんの意思?」
    「ええ。そうです。オレの意思。……一心同体なんでしょう?」
    「ぼくを好き? ぼくを抱ける?」
    「好きですよ。えーと、性器がないので性交はできませんけど、ペッティングなら。いま調べます」
    「えっち」
    「ええ……」
     ふふ、とおひいさんがわらう。ほっとした。
     すみれ色は静かになって、そうして、頬に添えられたオレの手をおひいさんは握る。ぎゅっと、愛しさを込めるように。
    「じゃあ、ぼくたち、両思いだね」
    「ええ。そうっすね」
    「ずっとずっと、一緒だね」
    「……おひいさんが云うなら、……おひいさんが許してくれるなら」
    「ジュンくん、好き。大好き。ぼくを愛して。ぼくが愛するみたいに」
    「はい」
     おひいさんが胸に手を当ててわらう。心音が早くて、病弱だったあの頃を思い出した。
    「キスして」
     特別な瞬間には、人は幸せと同時に痛みを感じるものらしい。
     それなら、きっと今が、特別な瞬間なんだろう。
     オレははじめて、おひいさんのくちびるを感じた。あらゆる幸福に満たされて、お日さまの栄養みたいに、それは特別だった。

    (210511)
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